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【INTERVIEW】ソニーが提案する電子書籍端末は、コンピューターに対するアンチテーゼ

1998年12月25日 00時00分更新

文● 報道局 西川ゆずこ

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 米国ラスベガスで11月に開催された“COMDEX/Fall '98”で、ソニー(株)は新コンセプトのPC“Single Media Activated Platform(SMAP)”を参考出展した。これは、MD dataにOS、アプリケーションを搭載するOS-free PCで、応用分野としては、電子書籍端末、インターネット、教育を想定しているという。そこで、今回は“SMAP”の開発を担当された、同社SMAP担当部長の鈴木春良氏と、PSDC事業開発室課長の賀川能明氏にお話を伺い、併せて実機を見せていただいた。

「SMAPは、コンピューターに対するアンチテーゼ」と語る鈴木部長(左)と賀川課長(右)
「SMAPは、コンピューターに対するアンチテーゼ」と語る鈴木部長(左)と賀川課長(右)



----SMAPの開発経緯は。

「SMAPは、ある意味でコンピューターに対するアンチテーゼです。開発コンセプトは、パソコンよりも、もっとシンプルで使いやすいもの、初心者にも使えるものを開発することでした。 要するにパソコンの分かりにくいところをなくして、なおかつ汎用性を持たせ、操作を簡単にする目的で開発しました」

パソコンはトラブルが起きると面倒

「と言いますのは、パソコンそのものが難しいものだと感じているからです。原因は、パソコンのシステム、アーキテクチャーに起因する問題です。パソコンは、いろいろなアプリケーションが動く、いちおう汎用機ですよね。ある意味で夢を売る機械です」

「アプリケーションがサクサク動いている間はいいのですが、エラーが生じると大変です。と言いますのは、例えばアプリケーションが立ち上がらなくなった場合、アプリケーションそのものの問題だけでなく、Windowsのシステムを熟知していないと、直せない場合があります。まわりにコンピューターに詳しい人がいれば便利ですが、自分ひとりで操作するとなるとなかなか大変です」

パソコンの汎用性+専用機のシンプルさ=SMAP

「その一方、例えばワープロのようなIT製品である専用機があります。専用機の特徴は、分かりやすく使いやすいということです。ただ、専用機には最初に狙った以上の拡張性はありません」

プロトタイプのSMAP実機
プロトタイプのSMAP実機



「パソコンの汎用性と、専用機のシンプルさを合わせたものがSMAPなのです。狙いは、使っているときは専用機のように使えるのに、機械そのものはマルチパーパスだということです」

「ただし、マルチパーパスといっても、SMAPはパソコンと比べればある程度の制限はあります。パソコンに360度の自由度があるとしたら、SMAPは90度だと考えていいでしょう。具体的に言うと、現段階では特に電子書籍端末に的を絞ってSMAPを考えています」

SMAPのターゲットは電子書籍端末

----MD dataにはどのような情報が記録されているのでしょうか。

「OS、BIOS、デバイスドライバーを含む、ソフトのデータを保存しています。ハードには、HDDやソフトを搭載しません。ですから、異なるMD dataを入れれば、異なるアプリケーションが動きます。完全にハードとソフトを分割しており、要するに、MD dataそのものが“Self-Contained”なのです。プレイステーションのようにソフトがあれば、どこでも使えるといったイメージですね。パソコンのように共通ファイルがあれば便利ですが、トラブルが起きると面倒ですよね。そういった意味でも、Self-Contained、つまり独立系なのです」

SMAPはOS-free

「現在は、OSに当社が開発した“Aperios”を搭載していますが、Windows CEも搭載可能です。言ってみれば、OS-freeでもあるわけです。Javaは、サードパーティーのアプリケーション開発を促したいと考え、導入しました」

----プロトタイプの仕様は。

「ハード面では、インターネット接続を想定して、PCカードスロットを設けています。あとは、MDスロットですね。そのほか、シリアルインターフェースを搭載しています。



「ディスプレーには12インチのタッチパネルを採用しています。現在、表示しているデモ(本)は、SVGA表示です。将来的には、半分ぐらいの大きさにして、持ち運びができるようにしたいと思っています。これはプロトタイプですから、キーボードも付けてありますが、タッチパネルなので、キーボードがなくても使用できます。CPUにはMIPSアーキテクチャーを採用。フラッシュメモリーを14MB、DRAMを32MB搭載しています。ただ、これはあくまでもプロトタイプですから、今後どういったスペックになるかは分かりません」

電子書籍は、カスタマイズが可能

----現在、SMAPの応用分野を主に電子書籍端末と見ているそうですが、実際にはどのようにして本を閲覧できるのでしょうか。

「ここでは、紙の本と同じように読むための“Book”モード、下線、罫線を引いたりできる“Memo”モード、そして、画面の左半分に本を表示し、右半分にカット&ペーストが行なえる“Note”モードを用意しています。“Memo”モードでは、“Underline(下線)”、テキストの囲い込み“Box”、試験勉強に役立つようにマスクをかけられる“Marking”、それにお遊び的なスタンプ“Seal”モードを用意しています」

「そのほか、本でいうしおりの役目を果たす“Bookmark”、辞書機能の“Dictionary”、本を読み上げる“Sound”、インターネット接続をする“Internet”機能を追加することも考えています」

「普通の本と違って、本をカスタマイズできるのが、この電子書籍の利点です」

電子書籍のフォーマットはHTML

----電子書籍のフォーマットは。

「今回お見せしたデモの電子本は、HTMLをベースにぺージを組んでいます。現在、電子書籍のフォーマットをPDFにするかHTMLにするかで論争が起きています。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が米国のCOMDEX/Fall'98で、HTMLをベースにし、ブラウザーを使って読む電子ブックのようなもの、“eBook”を提唱していましたし、現在、HTMLのほうが優勢で、将来的には、HTMLが標準になるのかなと思っています。出版社から見れば、HTMLの表現能力は十分ではないかも知れません。ただ、ある程度は表現できますし、将来的に汎用性もでてくると考えています」

MDスロット
MDスロット



----MD dataに本は何冊ぐらい記憶できますか。

「OSなどコアの部分が占有している容量は数MBです。Windowsの場合、あらゆる出来事に対応しなければならないため、100MBを超えていますが、SMAPの場合内容が決まっているので、数MBに収まります。MD Dataの容量は140MBですけど、テキストだけの文庫でいえば10冊以上入ります。画像が入ってくれば、もちろん入る文庫本の冊数は減ってきますけれど。ですが、本1冊は楽々入ります」

----SMAPでは、各MD dataが独立していると言っていますけど、例えば電子メールを使用する際に必要なアドレス帳のデータなどは共有できないのでしょうか。

「そうですね。フラッシュメモリーを搭載していますので、アドレス帳などに使える共通のデータ領域はあります」

MD dataデバイスとしては遅いが、電子書籍には十分

----なぜ、MD dataを採用したのですか。

「MD dataの技術的問題点を挙げるとすれば、デバイスとして遅いということです。これをカバーするために“MD File System”を開発しました。また、電子書籍としては、十分な速度なのではないかと考えました。メディアとしても安いですし」

「さらに、ハイブリッド型を割と簡単に作れるというメリットもあります。例えば、SMAPで言えば、ROMにOS、Javaアプリケーションなどのソフトを格納し、RAMにユーザーのデータを格納するといった分割が可能です」

「これにはさまざまな利点があります。例えば、学生が使う場合、授業ノートをコピーできます。ただ単にノートを全部コピーしたのでは、コンテンツ屋は成り立ちません。SMAPの場合、コピー先(コアのコンテンツ)を持っていれば、ユーザーの承認を受けて、ユーザーのRAMデータだけをコピーすることが可能です。コンテンツ屋としても、コンテンツが2枚売れて2倍うれしいという仕組みが成り立ちます」

「また、MD dataでは、利用回数によって価格を設定できます。例えば、10回しか使用しない人は100円、1万回使用する人は200円といったように決められます」

----電子書籍と言いますと、10月に電子書籍コンソーシアムが設立され、書籍配信実験を行ない、来秋には電子書籍端末を販売するそうですが。

「はい、私自身(鈴木氏)、当社の代表として参加しています。ただ、SMAPの開発はコンソーシアムの設立の1年半前から行なってきました」

----電子書籍コンソーシアムでは、電子書籍閲覧端末にMDを使用するといっていましたけど。

「あの発表は、たまたまMDだったわけです。MDにするか、当社でいえばメモリースティックのような他のメモリー媒体にするかは、今のところ決定していません。現在、コンソーシアムで実証実験を行なっていて、どの媒体にするか検討しているところです」

電子書籍端末では買い足して見開きにするなど、拡張性を考えている(?)

----電子書籍コンソーシアムでは、端末を見開き表示にするといっていますが、SMAPはどうするのでしょうか。

そうですね。買い足せば、見開きになるとか。詳しくはいえませんが、“拡張性”ということも考えています。

コンソーシアムのメリットは、出版社主導であるということ

----電子書籍コンソーシアムの意義は。

「コンソーシアムは、メーカー、コンテンツ屋が一丸となって、コアの規格を策定することに意義があります。ですから、利用するメディアと、コンテンツのフォーマットですね。フォーマットに関していえば、現在、当社ではBook MDフォーマットを開発中です」

「液晶をモノクロにするとか、カラーにするとか、バッテリーの寿命、サウンド機能を搭載するなどといった電子書籍端末の特色は、各メーカーがそれぞれ特徴のあるものをだせばいいのです」

「コンソーシアムのいいところは、出版社主導であるところです。今までは、メーカーが端末を作って、コンテンツを提供してください。で、ロイヤリティーがいくらですといって、コンテンツ屋を怒らせていました。だから、魅力あるコンテンツをなかなか獲得できませんでした。今回は、彼らがやる気になって、約5000本のタイトルを用意するといっていますから」

----米国では、米NuvoMedia社の『Rocket eBook』、米マイクロソフト社と提携している『SoftBook』がありますが。どう思いますか

「そうですね。『Rocket eBook』はPCで一度、本の情報を受けるシステムなので、SMAP的に言うと良くないですね」

まず、電子書籍端末を世の中にだして、機能的な面は随時更新していけばいい

----今後、どういった形で電子書籍を発展させていますか。例えば、フォント、ルビの問題がコンソーシアムで上がっていますが。

「COMDEX/FALL'98の基調講演でビル・ゲイツ氏は“ClearType Font”を提唱していましたね。ただ、こういった細かい機能面でのAlignmentは、市場投入後に順次行なっていけばいいと思っています」

----今後の予定は。

「これは、あくまでも個人的な目標ですけど、2000年には商品化したいと考えています。また、当社としては、今後、SMAPをベースに、電子書籍コンソーシアムに技術基準を提案していきたいと考えています」

----ありがとうございました。

 電子書籍コンソーシアムの設立から、約3ヵ月経ったが、実際にソニーの『SMAP』端末を拝見して、漠然としていた電子書籍の可能性を実感した気がする。電子書籍端末が店頭に並ぶ日もそう遠くないだろう。

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