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【INTERVIEW】『メディア侵食』--“オンライン文学”を紙媒体にして発信する(株)パレードの社長に聞く

1998年12月15日 00時00分更新

文● 坂本綾

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(株)パレード代表取締役の太田宏司郎氏(左)と、開発担当者の吉中年瑞氏(右)
(株)パレード代表取締役の太田宏司郎氏(左)と、開発担当者の吉中年瑞氏(右)



 (株)パレード(大阪市北区)は、新たにP.press出版部を発足させた。ウェブ上で公開されている文芸作品や批評などのいわゆる“オンライン文学”を、紙媒体として発行、流通させる事業体だ。パレードはデザインとMacintosh DTPによる制作会社で、チラシ、カタログなどの印刷物、マルチメディアタイトル、ホームページなどのデザインや製作を扱ってきた。書籍関連の業務はこれが初めてという。

 いわば“シロウト”にあたる同社と、しばしば既存メディアから“シロウト”として揶揄(やゆ)されるオンライン文学の出合いから何が生まれるのだろうか。代表取締役の太田宏司郎氏と、開発担当者の吉中年瑞氏にお話を伺った。

第1弾が“メディア侵食”

----まず簡単にP.Pressの概要を。

「概要といっても、まだまだ紆余曲折の最中で(笑)。これからも面白そうな企画があればどんどん取り入れて成長させたいと思っています。オンライン作家と当社が共同で紙の本を出版し、それをどんどん売っていこうというのが基本的なスタンスです」

----本の選定はどうするのでしょうか。

「ウェブなどで出版募集を告知して、応募のあった作品の中から、我々が読んで本当に面白いと感じる作品を選定します。それらを、P.Pressブランドとして発行、流通させる予定です。本の体裁や表紙デザインなどをある程度定型化することで、製作コストを下げたりP.Pressとしての統一感を演出したりできればと。まずはブランドイメージのようなものを固めたいので、作品のレベルにも気を遣いたいですね」

----どんな本を出版されたのですか?

「先ごろ1作目として、『メディア‘侵食’の日々』を発行しました。これは、共同通信の記者であり、小説『スレイヴ』の著者でもある畑仲哲雄さんのWebサイト『プレスルーム』に掲載されているコラムをまとめたもの。私(吉中)がネットサーフィンで偶然知って惚れ込んだもので、氏の記者経験が存分に生かされた辛口の論評集なのです。一方で、エンターテイメントとしても、第一級の仕上がりだと自負しています」

『メディア‘侵食’の日々』 『メディア‘侵食’の日々』



----やはり、ウェブの普及で一般の人が作品発表の場を得たということが、この企画のアイデアの源泉でしょうか?

「いえ、むしろ当初は普通の自費出版を企画していたんです。当社では御覧の通りスキャナーやイメージセッターをすでに所有していますから、それを活用すれば現在の自費出版市場価格が非常に魅力的な市場になるわけです。その後、いろいろ調べていくうちに、オンラインというのはテキストデータの宝庫で、しかも本当に面白い作品もあることがわかってきた。そこに紙メディアの長所を加えれば、非常に魅力的なものができあがると考えました」

----自費出版というと、ある程度人生を達成した高年令の方が自伝を書くようなイメージがありますが。

「ええ。確かに、市場としては一定の魅力がありますが、我々制作サイドの感じる面白みとしてはどうかと。受注生産をこなすだけでなく、こちらから“仕掛けていく”ためにも、もっと積極的に“売れる”本を作りそれを売ることで利益をあげていくような企画がいいと判断したわけです。実際、製作費は実費ギリギリの線まで押さえて現在の市価の半額程度を設定しています。そこから利益が出るわけではないので、我々も必死で“売って”いかなくてはならない」

オムニバス出版も

----一般の人が本を作ろうと思うとまず問題になる、金銭的な負担を考慮したということですね。

「そうですね。そのハードルを低くすることでもっと“面白い”作品が世に出ればと思います。さらに、それでも負担が大きいと感じる人のために、オムニバス形式の出版も計画中です。例えば20ページを1ユニットとして、何人かの著者が共同で出版すれば、1ユニットあたりの負担額は7~8万円と低価格になる。非常に気軽に『自分の本』が作れるこのシステムが、より広範なユーザー獲得につながればと考えています。共著者は、ユーザー自身が集めるほか、当社がウェブ上で募集することも計画しています」

----出版業界の閉塞感を考慮すると、既存の流通チャンネルに食い込むのは相当困難ではないかと思うのですが。

「本当にその通りです。流通方法としては、当初書店との直販契約などを考えていたのですが、非常に厳しい。まして取次はさらに厳しいわけで、現在は大学生協やコンビニエンスストアでの取り扱いを折衝中です。もっともっと“本”というカタチにとらわれない、柔軟な経路開発を進めていくことが必要でしょう」

「一方で、ユーザーのニーズやP.Press自体の知名度をあげていくことを考慮すれば、既存の流通も無視できない重要な要素。ですから、その両者の折り合いをどうつけていくかというのが今後の課題です。例えば、書籍単行本の企画として始まったP.Pressですが、作品募集と発表の双方向に機能するような雑誌形式での発行、流通なども視野に入れていきたいと考えています」

----今後の展開を教えてください。

「我々は書籍の世界ではいわば“シロウト”ですが、シロウトだからこそ見えるものもあると思います。今まで活字にならなかった“シロウト”作品の新鮮さや大胆さを売っていくわけですから、流通の部分でも、しがらみのなさを思い切った企画につなげていきたい。既存のメディアが及びもつかない面白みが見いだせればと思います」

----それが、既存メディアを巻き込む動きに発展すればさらに“面白い”ことになっていきそうですね。今日は本当にありがとうございました。

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