このページの本文へ

「『ANTZ』は大人のためのアニメーション」--米Pacific Data Images社ケン・ビーレンバーグ氏

1998年12月09日 00時00分更新

文● 報道局 西川ゆずこ、清水久美子

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 11月25日~27日に千葉・幕張メッセで開催されたデジタルコンテンツの展示会“ContentCreation +NICOGRAPH98”。今回は、同展示会の講演のために来日した、米Pacific Data Images(以下PDI)社のケン・ビーレンバーグ(Ken Bielenberg)氏に、新作CGアニメ『ANTZ』や今後の予定などについてお話を伺った。

米Pacific Data Images ケン・ビーレンバーグ氏
米Pacific Data Images ケン・ビーレンバーグ氏



 ビーレンバーグ氏が所属するPDI社は、CGキャラクターや特殊効果で評価を得ている3DCGアニメーション製作会社。11月に日本でも公開され話題を呼んだ、アリを主人公にしたフル3DCGアニメ『ANTZ』は、『ディープインパクト』などを手掛けたドリームワークスとの共同製作作品だ。同氏は、洪水や戦闘シーンなど映像の効果を中心とした、視覚効果アドバイザー兼テクニカルディレクターとして製作チームを率いたという。

CG制作に使うソフトは、ほとんどが自社開発


----PDI社のCG制作には定評がありますが、現在何人働いているのですか</hdr>

「『ANTZ』を手掛ける2年前の'96年は、CMやミュージックビデオの製作が仕事の中心で、約90人が働いていました。映画製作を行なっている現在は、アニメーター、管理職を含めて約3倍の250人。社員は増え続けているので、来年の今ごろは、最終的に350人程度になるでしょう」

----男女比は

「男性と女性が6対4くらい。若干男性が多いでしょうか。結婚しても働く女性は多いですね。でも、子供を産んで続ける人は半々です。ストレスから辞めてしまう人もいますし。自宅で働ける環境を実現するのは不可能ではありませんが、やはりスタッフ相互のコミュニケーションを考えると難しいでしょうね」

----マシン、ソフトウェア環境は

「マシンは、SGIのワークステーション『O2』が120台、『Origin』が200台あります。CGの制作はもちろん、制作に使用するソフトもPDI社独自の言語を使用して、自社開発しているものもあります。この映画のみどころ、“フェイシャルアニメーション(Facial Animation=皮膚、筋肉だけでなく音声との同調させながら表情を操作できるシステム)”や“クラウドシークエンス(Crowds Sequence=群衆の中の1つのキャラクターに合わせて、個々の動きをつけたりできるシステム)”では、専用に開発したアプリケーションで制作を行ないました。質の高いCG作品を提供するため、特に自分たちに使いやすいようにカスタマイズしています。サポートが大変なので、これらを商用に販売することは考えていません」

『AKIRA』は日本の代表的な大人向けのアニメだと思う

----日本の映画で影響を受けたものはありますか

「押井守氏のアニメ『AKIRA』です。爆発のシーンや泥、ほこりなどの効果は、『ANTZ』を製作する上でも大変参考になりました。日本のアニメはイラストも美しく、演出、効果の場面もとても興味深いですね。ストーリーも大人向けの、複雑な展開の作品が多いと思います。日本のアニメを見て、『ANTZ』でも“大人のためのアニメ”を目指したんです」

----PDI社で、日本のアニメを手掛ける予定はありますか

「今のところ、PDI社自身が手掛けることはありません。ドリームワークスがやると言えば別ですけどね。これまで米国でアニメといえば、誰もがディズニーを思い浮かべていました。米国では、“子供向け”、“大人向け”のジャンル分けがはっきりしていて、映画の年齢制限も厳しいんです。『ANTZ』も、米国では小さな子供は親が同伴しなければなりません。だからといって、大人向けのアニメが不可能ではないことを、アニメ製作を続けることで証明したいと思っています」

映画『ANTZ』より
映画『ANTZ』より



究極の目的は人間の動きをアニメに取り入れること

----リアリティあふれるCG作品が多くなる中で、実写と3DCGとの差異をどう考えますか

「CGが得意とするものは、実在しないキャラクターを表現できることです。また、演出や効果において、実写では表現できないことが可能です」

「確かに実写と3Dはどんどん似つつあります。今回の『ANTZ』もそうですが、キャラクターの表情の研究には、大変な歳月を費やしました。声を吹き込んだ、ウディ・アレンやシャロン・ストーンら声優の表情も取り入れています。ただし、モーションキャプチャーとは異なります」

----『ANTZ』のキャラクター表現にモーションキャプチャーの技術を使用しなかったと聞きましたが、それはなぜですか

「実写の映画のために、人間を再現する場合はモーションキャプチャーは大変有効です。手足の長さ、骨格、筋肉など比率が同じだからです。キャプチャーしたデータと、実在の人物への対応は容易にできます」

「一方今回のように、アリのキャラクターがメインの場合、アニメーターの技術に頼った方がよりよい表情や動きが再現できます。逆に人間のモーションキャプチャーのデータを利用しようとすると、ズレが生じてしまうのです。利用できる部分は活用して、あとはイメージで膨らませたほうが自然な動きが再現できます。実際、いくつかの筋肉は本来人間のあるべきところに置いたら、不自然な感じがしました」

まぶたや唇などの微妙な動きを追究し、リアルな表情を可能にした“フェイシャルアニメーション”
まぶたや唇などの微妙な動きを追究し、リアルな表情を可能にした“フェイシャルアニメーション”



----人間をCGで表現するのは不可能なのでしょうか。

「いいえ。技術はどんどん発達しています。『トイ・ストーリー』では、“おもちゃ”という無機的なものを表現しました。それが『ANTZ』では生き物の表現が可能になったのです。次は人間でしょうね。これまでは、皮膚の表面、衣服のしわを滑らかに表現するのは不可能でした。でもこのまま技術が進めば、これらを表現できる日もそう遠くはないと思います」

----次回作『SHREK(シュレック)』について教えてください。

「子供向けの小説を映画化した3DCGアニメ作品です。さえない主人公“Ogre(オーガ)”が夢を見て旅に立ち、美しい王女を好きになるというコミカルな話です。声優は、マイク・マイヤーズ、エディー・マーフィー、キャメロン・ディアスなどが担当します。当初は別のCG会社が、モーションキャプチャーを利用して製作するはずでしたが、最終的に私たちが手掛けることになりました。コンピューターを駆使した、フルCGアニメーションに仕上がっています」

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン