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【米国ベンチャーレポートVol.1】光磁気ディスクの記憶容量を増大させるPDM技術を開発した米Calimetrics社

1998年12月04日 00時00分更新

文● 報道局 佐藤和彦

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 米カリフォルニア州Alamedaにある米Calimetrics(カリメトリクス)社は、CD、DVDなどの光磁気ディスクの記憶容量を増加させるPDM(Pit Depth Modulation:ピット・デプス・モジュレーション)という技術を利用した記憶装置の開発を日米のメーカーと共同で行なっている。同社は、PDMを米バークレー大学で発明したTerry Wong(テリー・ウォン)とMike O'Neill(マイク・オニール)の2人によって、'94年に設立された会社である。

 ここで、簡単にPDMについて説明しよう。CD、DVDでは、レーザーの反射によって0か1のデータを認識する。これに対し、PDMでは、薄い膜を何層にも重ねることにより、一定の幅の中に0か1以上のデータを記録することが可能となる。たとえば、8つの層を重ね合わせた場合には、0~7までのデータを記憶することが可能となる(図1)。


図1.米Calimetrics社のホームページより
図1.米Calimetrics社のホームページより



 0~7は二進法では0~111となり、一定の幅の中では、0か1かの1bitに対し、3bitのデータを記憶することが可能となる(表1)。



表1.8層ならば3bitの
データを記憶できる




二進法データ


0


0


1


1


2


10


3


11


4


100


5


101


6


110


7


111


 つまり、8つの層を重ね合わせた記憶メディアでは、従来のそれに対し、3倍のデータを記憶することができ、また、データ転送速度も3倍になるという。1つの層の厚さは、CD-ROMで10nm(ナノメートル)。レーザーの反射光の明るさの違いを感知することで、層の違いを認識するという。

 PDMの技術は、CDやDVDにおいて、ROMだけでなく、write-onceやrewritableにおいても利用可能という。また、PDMを利用することで、記憶容量が15GBのDVD-ROMも製造可能になるという。これはHDTV(高品位テレビ)で実現される1920×1080ドットの解像度の映像で、収録時間が2時間以上のテレビ映画を1枚に収録できる容量である。

 このPDMを利用した製品の開発状況などについて、同社の会長兼CEOであるThomas R. Burke(トーマス・バーク)氏に伺った。同会長は、米マッキンゼー&カンパニー社でハイテク産業のコンサルタントをしていたが、同社設立に際し、2人の共同創設者からCEOとして招かれている。

Thomas R. Burke米Calimetrics社会長兼CEO。米ハーバード大学在学中は、インターンとして米アップルコンピュータ社に1年間在籍したこともあるという。「日本語を勉強したい」とも語っている
Thomas R. Burke米Calimetrics社会長兼CEO。米ハーバード大学在学中は、インターンとして米アップルコンピュータ社に1年間在籍したこともあるという。「日本語を勉強したい」とも語っている



●RW製品を'99年末に発売する

----'97年春の一部米紙の報道では、'98年中にはPDM技術を利用したCD-ROMやDVD-ROMのハード、ソフトが発売されると言われていましたが、これらの製品の開発状況はいかがですか。

Burke「その時点では、CDにしろDVDにしろROM製品を開発することが念頭にありました。しかし、いろいろと市場調査を行なっていく過程で、ROM製品よりもストレージ製品の方がニーズが高いことがわかりました。そこで、write-onceやrewritable製品の開発を先に行ない、その後でROM製品の開発を行なうように方針を変更しました。どこかは言えませんが、日米のハードメーカーや記憶ディスクを製造する会社と製品開発を行なっており、いまから1年後、つまり'99年末か2000年初頭には、最初の製品を発売できるでしょう」

「また、会社設立当初は、8つの層を形成する技術に基づいて製品開発を行なってきました。しかし、技術的な検討を重ねるうちに、最大16層まで形成可能であることがわかりました。16層ならば、0~1111までの4bitのデータを記憶できます。これは記憶容量やデータ転送速度が、従来の4倍になることを意味しています」

----CDの特許はソニー(株)やフィリップスが、DVDの特許は東芝などが持っていますが、これらの特許に対し、PDMは独立した関係にあるのでしょうか。

Burke「PDMの特許*は、CDやDVDの技術と独立しています。PDMの技術を利用したCDやDVDのドライブ類や記憶メディアを製造するメーカーは、ソニーなどの許可が必要です。また、PDMの技術を利用するには当社とライセンス契約を結ぶ必要があります。しかし、ソニーなどの会社と当社との間には、何も関係はありません。特許に関しては、独立しています」

*同社は、米バークレー大学が保有するPDMの特許について、同大学と独占的なライセンス契約を結んでいる。


----先ほど、PDMの技術を搭載したrewritableなCDやDVDの製品を、'99年末にも発売するとおっしゃいましたが、既存のCDやDVDとの互換性はありますか。また、製品の価格はどれくらいになりますか。

Burke「ドライブに互換性を持たせることは可能です。つまり、既存のCD-ROMも読めるし、PDMを利用したCD-ROMも読めるドライブを作ることは可能です。しかし、既存のCD-ROMドライブで、PDMを利用したCD-ROMを読むことはできません。また、ドライブ類や記憶メディアの価格についてですが、互換性のない製品でも、だいたい20パーセントくらい高い価格で発売することになると思います」

----米Calimetrics社が、提携を進めている会社には、どのような会社がありますか。また、その関係は。

Burke「この点は、契約の問題もあり、お答えできません。ドライブユニットを作る会社と、記憶メディアを作る会社で、日米の多くのメーカーと提携しています。また、将来的には、映画やビデオなどのコンテンツを提供する会社と提携する可能性もあります」

「当社への出資者は3つのグループがあります。1つは、米商務省のベンチャー支援のプロジェクトにもとづくもの。2つめはベンチャーキャピタルで、これには野村証券グループのJAFCOも含まれています。3つめは、戦略的パートナーで、これについてはどこの会社かは言えません。ただ、日米のメーカーの多くが含まれています」

「当社の収入は、まずPDMの技術を他社にライセンスして得られる部分があります。また、PDMを制御するチップのデザインを行ない、他社にそれを製造させていったん買い取り、それをドライブメーカーに売るというファブレス・カンパニーでもあります。来年、初めての製品を発売することもあり、3年後には年間売り上げは1億ドル(約120億円)を達成できる、と思っています」

●インタビューを終えて

 今回は諸般の事情から残念ながら、製品のデモンストレーションを見ることはできなかったが、PDMは、今年春にも米ウォールストリートジャーナル紙でも取り上げられるなど、大いに注目を集めている技術である。ストレージ製品は、ポストCD-ROMをめざし、DVDを軸に各社が鎬を削っているのが現状。既存の技術を活かしつつDVDの記憶容量を増加させることのできるPDM技術を利用した製品が、従来製品の20パーセント増し程度の価格で供給されるのならば、ストレージ製品の分野において米Calimetrics社は1つの台風の目となるかもしれない。

(現地時間11月20日、米カリフォルニア州Alameda,Atlantic Avenueの本社にて)
(現地時間11月20日、米カリフォルニア州Alameda,Atlantic Avenueの本社にて)

  • 米Calimetrics社
  • 取材協力:石井正純米AZCA社社長問い合わせ先:TEL+1-650-598-9900

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