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「『タイタニック』ではデジタル技術を使って100万ドルのギャラを節約」--デジタルドメイン社のスコット・ロス氏講演

1998年11月26日 00時00分更新

文● 報道局 清水久美子

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 25日より幕張メッセで開催されているNICOGRAPH98で、国内外のデジタルコンテンツ業界のキーパーソンを招いたコンファレンスが実施されている。25日には米Digital Domain社CEOのスコット・ロス氏によるセッションが開催された。講演のテーマは、“The digital revolution in Hollywood-‘Titanic’and the future”。

米Digital Domain社CEO スコット・ロス氏 米Digital Domain社CEO スコット・ロス氏



 スコット氏は、『ターミネーター』、『タイタニック』の監督ジェームズ・キャメロン氏とともに、'93年米Digital Domain社を設立。各国で総動員数を更新し、アカデミー賞を11部門で受賞した映画『タイタニック』では、デジタル映像制作を手掛けた。今回のセッションでは、ハリウッドのデジタル革命の中心人物であるスコット氏が『タイタニック』のデジタル映像技術、また、『タイタニック』以降のハリウッドの映画制作状況の動向について講演した。

もっとリアルでなくしてくれ

 まず、スコット氏は米Digital Domain社が手掛けたたテレビコマーシャルを披露。ペプシコーラ、ナイキ、ベンツ、パッカードベル社などのコマーシャル約10本を紹介した。

 「ナイキのコマーシャルの制作期間は約3ヵ月。本作に登場している、テニスプレイヤーのアンドレ・アガシはCGで描かれたもの。モーションキャプチャーを用いて、アガシ独特の動きを取り込んだ。一方で、CMのプロデューサーからは、もっとコンピューターらしく作って欲しいと言われた。これはリアリティーを逆に落とす必要があるため。彼は、視聴者にパソコンで制作したものだとあえて分かってもらいたいと言っていた」と、裏話を語った。

 モーションキャプチャーといえば、『タイタニック』の映像制作で使われたことが記憶に新しい。モーションキャプチャーとは、3Dキャラクターをよりリアルなアニメーションとして表現する技術。“マーカー”と呼ばれる器具を人間の手足の関節部分にとりつけ、その動きをデータとしてカメラに取り込む。これらのデータを利用して、3Dキャラクターの動きを再現するので、より人間に近い自然な動きを表現できる。


モーションライブラリーで人件費100万ドルを節約

 「『タイタニック』の制作では、太陽の緯度、経度を計測し、風の変数、霧や雨といった気候条件、衣服のしわ、皮膚の表面など膨大な量の条件を考慮した、モーションキャプチャーライブラリーを作成した。その数は1人につき2000ポーズにのぼる」

 「船の甲板上だけでも、約100人の旅客役のスタッフが必要だ。撮影期間の拘束時間を含めて、本物の人間をいちいち動員していたら、大変な人件費がかかっただろう。モーションキャプチャーを利用した3Dキャラクターを使用することで、人件費で100万ドルの経費が浮いた」とコストパフォーマンスの高さを強調した。


模型とCGとの使い分けの公式はない

 「しかし実際、どういう場面にCG映像を使うかというのは難しい問題だ。模型とCGを使い分けるその基準は、コスト。どの程度のコストパフォーマンスが得られるかが重要。ミニチュアでできればそれでいいが、それができない場合CGを利用する。ミニチュアは何度も使用することで、コストパフォーマンスが上がるし、また、リアリティーの追求の問題もあるので、一概に法則を決められない」と使い分けの難しさに言及。

 最後に、「スタッフとして魅力的なのはどんな人物か」という質問に対して、「私たちの会社に作品を持ち込んでくる人はたくさんいる。作品はハード、ソフト、環境、資金に左右されることは確実だし、資金をかければ一定の水準には達する。しかし、キャラクター、登場人物にどれだけ魅力が持たせられるかがさらに重要。実績がなくても、そういった才能があればよい。パソコンが使えることも必要だ。そして最後に、人間とうまくつきあえるかということが重要な要素。自分の才能をチームメイトと共有して、仕事をしていくことが重要なのだ」と締めくくった。

 ASCII24では、スコット・ロス氏へのインタビュー記事を近々掲載する予定。

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