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サイバーワールドを支えるコンピューティング技術--国際シンポジウム“インフォテック'98”

1998年11月26日 00時00分更新

文● 野々下裕子、

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 神戸商工会議所で19日、20日と2日間に渡って国際シンポジウム“インフォテック'98”が開催された。“サイバーワールドを支えるコンピューティング技術”をテーマに、業界の著名人たちが講演した。ここでは、アジアネットワーク研究所の会津泉氏による“サイバービジネス”、奈良先端科学技術大学院大学の西田豊明氏による“エージェント技術”、編集工学研究所の松岡正剛氏による“マルチメディアコンテンツ”をテーマしたセミナーの模様をお届けする。寄稿は大阪在住のジャーナリスト、野々下裕子氏。



“逆風の中のアジアのサイバー革命”--アジアネットワーク研究所 会津泉氏

 現在、アジアではオープンエコノミーがアジア経済を引っ張っている。インターネットの伸び率にもすごいものがある。アジアが不況といわれる中で、特に台湾、中国は元気。一方、日本の落ち込みはひどく、アメリカの企業家たちも日本の状況をひどく気にしている状態だ。アジアからは「日本のパイオニア精神はどこへいったのか」「はたしてアジアの一員なのか?」といった声も聞こえる。いずれにしても、期待に対して実績が上がらないという状況は、アジアはもちろん世界経済にも影響が懸念されており、早急な対策が必要である。

アジアネットワーク研究所 会津泉氏 アジアネットワーク研究所 会津泉氏



 日本において、インターネットもシステム導入も伸び悩んでいるが、マレーシアの場合、リストラはしてもシステムは導入している。この11月に誕生したマルチメディア省では、放送、通信、インターネットを統合している。こうした分野がばらばらなのは日本だけ。マレーシアではサイバー法や電子政府法なども整備されつつあるのだ。

 マレーシアの国家プロジェクトであるMSC(マルチメディアスーパーコリドー)については、世界から企業が180社参加しているが、認定企業のうち日本企業はわずか3パーセント。言語の問題もあるが、マレーシアには欧米からの投資が集まっている。

 7月には、空港も2本目の4000メートル級滑走路を整備し、合計5本を狙っている。こうした投資で21世紀には先進国入りを狙っている、それがマレーシアという国である。

 もう1つのアジア国家、シンガポールでは、サイバービジネスに対する環境が整いつつある。国家規模での取り組みは世界唯一で、すでに入札などもオンラインで行なわれている。とはいえ、ATMにケーブルモデムというインフラは伸び悩んでおり、シンガレンのような次世代インターネットの開発を進めている。こちらは日本も郵政省から実験、研究開発で協力を行なっているようだ。

 マレーシアに話を戻すと、アンワル副首相の解任劇の影響で、9月中インターネットのトラフィックが20パーセントも増加した。そうしたインターネットの成長に対し、ネットでデマが流されているといいがかりをつけられ、ネットワークの監視が指示された。そのためかえってネットの信頼性が高まり、情報は朝にネットでチェックせよ、といった声が広まった。

 アジアの今後の可能性は、欧米での“Look East”の波に乗ることで高まっていくだろう。特に若い世代は、留学体験を積み、ベンチャーで成功し、これまでの経済モデル国であった日本を越えようとしている。ベンチャーの土壌が未だにできないといった問題をはじめ、足踏み度がもっとも高いのが日本である。

 2000年問題にしても、日本の対応は低い。もっと、世界を見つめた政治経済を築くことが必要ではないだろうか。

 ASCII24では今回講演した会津氏のインタビューを近日掲載する予定である。

編集技術とは、情報技術と文化技術をつなぐものである--“知のしくみと編集的創発性”編集工学研究所 松岡正剛氏

編集工学研究所 松岡正剛氏 編集工学研究所 松岡正剛氏



 現在、主に2つの事項を研究している。1つは、編集技術にはいくつかの編集鋳型や回路があるのではないかという研究、もう1つは、編集技術を意識せずに使っているのはなぜか?という問題である。これまでの編集技術を生かし、新しい情報技術のあり方を研究している。

 編集技術とは、情報技術と文化技術とをつなぐものである。人は1日15時間分の記憶を5分程度で思い出すことができる。1日の出来事を情報化してタイムライン上に圧縮(ダイジェスト)して記憶しているのである。これが編集技術である。

 現在のコンピューター技術は各文化的様相、クセを生かせていない。統合的な方向(グローバルスタンダード)に向かっている。これは編集技術的観点から見ると非常に特異なことである。また、文化を大きく西と東に分けて考えた場合、情報技術、編集技術の両者の違いは神の想定の違いに、特に顕著に現れる。西文化に置いて神は全知全能の力を持つ1人の人格であるのに対し、東では多神教であり、多様な神々が存在する。例えば、家々のしめ縄それぞれに客なる神が訪れてきて、また帰っていく。日本の文化的に、ロジックが多様な方があっているのである。

 これを現在の情報技術にあてはめてみると、情報はホストマシンにあり、そこからもたらされる。これはユダヤ教的全知全能型の情報システムである。逆に東的編集技術で考えた場合では、情報はツリー構造化され有機的につながっており、多様、同時的な方法で取り出されるのである。

 日本文化に潜む編集技術は近代の人間にとって平等である。さらに革命的ツールであるパソコン、コンピューター技術に応用していく。

 和歌、歌枕に見る日本文化の特質がある。1つの歌枕に壮大な景色や異文化がまるまる隠されており、次々に情景を連想させる。1つの場所、1つの儀礼のなかにもさまざまなリンク、小さな文化が隠されているというわけだ。1組のツール、メディアの組み合わせだけで、そこに多くの情報変化のシステムが用意されていた。それらの情報の様子をちらっと眺めるだけで、多くのリンキングの趣向が読みとれるのだ。

 このような機能を“花鳥風月システム”と呼び、実際にこのシステムを活用したソフトウェアやデータベースを構築している。最近では京都デジタルアーカイブ”The MIYAKO”のシステムも開発しつつある。

 編集技術というあまり聞き慣れない分野ながらも、わかりやすく、りゅうちょうな語り口で参加者をぐいぐいと引き込み、予定の1時間があっという間に過ぎる講演内容であった。

エージェント技術“人とつきあえるコンピュータを目指して”奈良先端科学技術大学院大学 西田豊明氏

 エージェント技術は研究のさなかにあり、エージェント戦国時代とも言われている。現在、暗黙的意図のサポートや、情報仲介分野における大規模化に対応するための技術研究等が進められている。

奈良先端科学技術大学院大学 西田豊明氏 奈良先端科学技術大学院大学 西田豊明氏



 松岡氏の編集技術から見た、コンピューターの利用についての意見を実証するかのように、エージェント技術においても1極集中のエージェントシステムから多数のエージェントの組み合わせへと変化してきている。

 エージェント技術とはコンピューターに社会性を持たせる技術。コンピューターとは使いやすい道具であり、利用に関してはすべてユーザーの責任(使う側の責任)である。しかし、人に代わって約束したり、仲介したりするエージェント技術においては開発者は社会的責任を考えて開発するべきである。

 現在のエージェント技術の具体例としては、生きた人間のようにインタラクティブなキャラクターを使用したもの、ユーザーの代行をするなど社会的プロトコルに従って互いに作用しあうインテリジェントソフトウェア、情報ネットワーク上のホスト間をつなぐスクリプトなどがある。

 例えば、電話機の操作説明、ハンバーガーショップの注文、人工生物・ペット、NHK TV MLプログラムなどもそうである。ほかにも、MS Agent Demo(キャラクターが画面上を動き回り説明してくれる)、NTT情報取引のエージェント、代理人プログラムMr.Bengo CoMeMo-Community(知識、人の頭の中の情報を無理にではなく言葉の関連性で引き出す試み)嗜好の近い人間を抽出、関連付けるプログラムといったものがある。

 エージェント研究の現状と展望として、分散人工知能と集中人工知能の両面があり、FIPAによるエージェント標準化の試みなども行われている。

 アプリケーションへの利用の面で、少数の複雑なエージェントによるものから、多数のエージェントの組み合わせへの移行がみられる。今後は、人間生活との関わりの中でどう利用するかを考えて開発を進める必要がある。

 講演は専門性の高い内容となったが、最後の質疑応答時間では、会場から西田氏をうならせるような質問が続出。これからのエージェント技術への熱い期待が感じられたセミナーであった。

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