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SOHOの先頭になれるような活動をしたい--『BOOT Desigin Studio』に聞く

1998年11月18日 00時00分更新

文● 報道局 清水久美子

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 前職は銀行員、証券マン、編集者。異色の組み合わせながら、なるべくしてこれからの道を歩みだそうとしているユニットがある。その名も『BOOT Desigin Studio』。彼らは、デジタルコンテンツを制作するクリエイターを養成しているマルチメディアスクール、デジタルハリウッド(株)の卒業生だ。同校初の試みとして、今年の8月から“SOHO支援システム”が開始。そのトップランナーとして、『BOOT Desigin Studio』が結成された。現在は、KSP(かながわサイエンスパーク)内にオフィスを構え、Web制作などの仕事を請け負っている。岩本英明さん、丸山高史さん、久米田夕子さん、の3人にお話を伺った。

かながわサイエンスパーク:日本初のサイエンスパークとして'89年、川崎市内に設立された。同パークの建設と運営を担当する(株)ケイエスピーは、第3セクターとして'86年に設立。同社には、公共セクターとして神奈川県、川崎市、日本開発銀行が約15億円を出資し、民間セクターとして飛鳥建設(株)などが約30億円を出資している。

 かながわサイエンスパークは企業の開業率低下が進む神奈川県で、新しい企業を産み、育て、産業を活性化することを目的として運営されている。第3セクターとしてこの事業に取り組んでいるのは、ベンチャーといった新しい企業では担保などの問題から、民間の資金支援が得にくいためだ。

 将来独立しようと考えている人、これから創業にチャレンジする人、創業直後の会社を軌道に乗せようとしている人のために、経営ノウハウや開発スペースを提供する場として存在するのが、同パークのインキュベート事業部門だ(インキュベート=孵化(ふか))。

 『BOOT Desigin Studio』が入居しているインキュベータースペース、“シェアードオフィス”の賃料は1平方メートルあたり月額3200円、共益費は1平方メートルあたり月額2000円。共益費の中には、平日8時30分~18時までの空調費が含まれている。希望により別途料金で、KSPインターネットの専用線に接続することも可能。

 オフィススペースは適宜変更できるように仕切られている。まるで学校の部室のようだが、意外にひっそりとしていた    シェアードオフィスの入居期限は原則1年だが、創業5年未満の企業を対象としたスタートアップルームは5年間の入居が可能だ。こうした段階の企業は出入りが激しいので、入居状況もよく変動するという。実際、取材に行ったときも、約20部屋中、3部屋は空き状態だった。
オフィススペースは適宜変更できるように仕切られている。まるで学校の部室のようだが、意外にひっそりとしていた  シェアードオフィスの入居期限は原則1年だが、創業5年未満の企業を対象としたスタートアップルームは5年間の入居が可能だ。こうした段階の企業は出入りが激しいので、入居状況もよく変動するという。実際、取材に行ったときも、約20部屋中、3部屋は空き状態だった。



----みなさんは結成前から知り合いだったのですか。

久米田「いいえ、結成後、初めてお互いの顔を見たんですよ。私が今の仕事を始めたきっかけは、とにかく3D制作がやりたかったから。それで、会社を辞めてデジタルハリウッドに飛び込むようにして入学したんです。紙媒体の編集職を4年間やってきて、DTPなら自宅でもできるのではないかという思いもありましたね。通勤時間の短縮を含め、SOHOの仕事をしたいという思いが強かった。今でこそ3D制作を担当していますが、個人の環境でこれほどの機材を揃えることはできないでしょうね」


----岩本さんと丸山さんが、これまでの仕事を投げ打ってデジタルハリウッドに入学された理由は。

岩本「僕の場合は、ほんの軽い気持ちからでした。銀行に勤めていましたが、そのときは部署にワープロが使える人が1人くらいしかいない。気持ちとしては、“この時代、パソコンくらい触れないと”とかそんな感じでしたね。その後、デジタルハリウッドを雑誌の広告で見つけました。会社を辞めてパソコンに触ったりしていましたが、入学の決心をするのに4ヵ月くらいかかったでしょうか。その後、昨年10月から4月まで半年間デジタルハリウッドに通いました。卒業間近のころ、これからどうしようか迷っていたとき、SOHO支援システムの話を知った。独立するつもりはなかったから、今の生活は想像もしていませんでした」



丸山「小さいころから、もの作りへのあこがれが強かったんです。学生時代に、東急ハンズの“ものづくり展”にアルバイトで加わって、好きなことが商売になったらどんなにいいだろうと感じていました。でも結局、卒業後は証券会社に就職しました。その後、デジタルハリウッドのことを知ったのです。“ここで勉強すれば、もの作りが商売になりそうだぞ”と。それで仕事を辞めました。夢を諦めきれなかったんですね。しかし、現実は厳しく、就職口はなかなか見つからない。思いきってフリーになろうと思っていたころ、SOHO支援システムの話を聞いたんです」



----みなさんが知り合ったのは、デジタルハリウッドがすすめている“SOHO支援システム”がきっかけということですね。これは、将来フリーで活躍したい卒業生を支援するプロジェクトだと聞きます。仕事の情報提供から業務プロデュース、また財務、法務業務に関する手続きなどについてバックアップが得られるのでしたよね。

岩本「ええ。デジタルハリウッドが初の試みとして立ち上げた“SOHO支援システムの”説明会は、6月7日に横浜校で実施されました。説明会終了後すぐに、面接もあったんです。説明会には59人、その後の面接は47人が受けたと聞いています」

----卒業生、すべてに門戸が開かれていたのですか。

丸山「そうです。卒業生約2000人が入会しているメーリングリストがあるのですが、そこで説明会が実施されることを知りました。多分、私たちは技術、将来性などバランスを考えて選ばれたのでしょう。そういう意味では結果を求められますね。実際ユニットは、半年間の期限付きプロジェクト。契約は8月17日からの半年間です。だから、純粋に営利を追求する会社組織とは異なりますね」

Photoshopなど3人分のソフトが並ぶ。Power Macintoshなどの機材を含め、デジタルハリウッドから借りているそうだ。そのほかにも同校より、セミナーでの講演やメディアでの告知といった様々な露出チャンスが得られるPhotoshopなど3人分のソフトが並ぶ。Power Macintoshなどの機材を含め、デジタルハリウッドから借りているそうだ。そのほかにも同校より、セミナーでの講演やメディアでの告知といった様々な露出チャンスが得られる



----リーダーは決まっているのですか。

久米田「特にいません。3人が同等な立場。ただ、得意分野に応じて分業制をとっています。仕事に応じて、リーダーを交替しています」

----仕事はどんなものを手掛けていますか。

丸山「今やっている仕事の1つに、KSPサロンで開催している“BOOT講座”があります。ソフトウェアの入門編として、近所に住む人や、パソコン初心者など一般の人に向けて、無料で公開している講座です。企画や運営などをある程度自由に任されているので楽しいですね。それに、講師の仕事を通じてセミナーで知り合った人が、これからの人脈作りのカギになる。今は、こうした人とのネットワーク作りの時期だと思っています」

----ビジネスとして、黒字は期待できるのでしょうか。

岩本「ホームページ制作などを中心に手掛けていますが、まだまだお金にはなりません。デジタルハリウッドからも仕事がもらえるというわけではないんですよ。仕事を請け負う、またそのためのツテをつくることが最大の目標ですね。ネットワークの仲間に入れてもらえるチャンスを活用するというか」

丸山さんのMacintoshの上に鎮座していたクラフト作品。目玉の中には目を見開いた人間の顔が描かれている。「アダルトサイトを見ていたら、電源が落ちて画面が真っ暗になった。そのとき、画面をのぞきこんでいた自分が映っていたんです(笑)」
丸山さんのMacintoshの上に鎮座していたクラフト作品。目玉の中には目を見開いた人間の顔が描かれている。「アダルトサイトを見ていたら、電源が落ちて画面が真っ暗になった。そのとき、画面をのぞきこんでいた自分が映っていたんです(笑)」



----“人脈作りがカギ”と何度も言われていますが、今後、SOHOを目指す人たちのお手本になりたいという思いもあるのでしょうか。

丸山「今、そのプランを模索中です。考えているのは、“BOOT SOHO NET”というプロジェクト。現地点での活動内容は、SOHOに興味のあるメンバーが、メーリングリストを中心に情報交換をすること。コミュニケーション作りの場を目指しているんです。現在の会員は20人程度です」

「今の仕事をしていて強く感じるのですが、技術力を要する依頼が多いんですね。でも、特定の技術だけでは仕事にはならない。プロデューサーがいて、プログラマーがいて、デザイナーがいて…。そこで、いま私たちがとっている分業制をもっと発展できないかと考えたのです。実際、独立したってすぐにはお金になりませんが、可能性を見いだしてくれる人にネットワークに参加して欲しいですね」


----今後の予定は。

岩本「ウェブキャスティングを実施しようと思っています。音声だけはライブ放送で、映像はあらかじめ撮影したり、制作したものを使います。DJをやるのは楽しみですね。これはKSPのホームページ“Webキャスティングコーナー”で12月から放映予定です。インタビューや、セミナーなどの放映を予定していますが、コンテンツを持つ以上は、見ごたえ、聞きごたえがあって、見た人が何かを得ることができるものを作りたいと思っています」

----最後にみなさんの夢をお聞かせください。

久米田「ネットワークを利用して、自宅で3Dの仕事をしたいですね。アルバイト的なものではなく、きちんと仕事になるようなスタイルを確立できたらと思います」

丸山「人より先に行かなければ、というあせりもあるのですが、まずは人脈作りですね。その上で、Webでの企画、提案型の仕事をしたい。Webプロデューサーというところでしょうか」

岩本「未だ実態としてあまり見えてこない、SOHOの先頭に立ちたい。これから活躍したいと思っている人の先頭になれるような仕事ができればと思っています」

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