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【INTERVIEW】米ザイブナー社エグゼクティブ・バイスプレジデントの豊郷和之氏、「ウェアラブル元年は'88年に始まっていた」

1998年11月16日 00時00分更新

文● 報道局 小林久

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 最近話題になっているウェアラブル・コンピューター。日本アイ・ビー・エム(株)が発表した、ヘッドフォンステレオサイズのWindowsマシンや、ウェアラブル・コンピューターのファッションショーの開催など、“ウェアラブル・コンピューター”をめぐる話題がゴールデンタイムのニュース番組や一般誌など、パソコン雑誌以外のメディアで扱われることも増えてきた。

 米ザイブナー(Xybernault)社は、この“ウェアラブル・コンピューター”の分野のパイオニア。10年前の'88年、他社に先駆けて最初の製品を発表している。今回は、12月に新たに発売される『モバイルアシスタント IV』を中心に、米ザイブナー社のエグゼクティブ・バイスプレジデントで日本オフィスの代表、豊郷和之氏に同社の取り組みと“ウェアラブル・コンピューター”の未来像について伺った。

“モバイル元年”は、'88年。~12月には第4世代の『モバイルアシスタント IV』をリリース

----まず、貴社のウェアラブル・コンピューター『モバイルアシスタント』について聞かせて下さい。

「弊社は今からちょうど10年前の'88年、最初のウェアラブル・コンピューター『モバイルアシスタント I』を発表しました。SF映画のCGなどを手がける、米Pixar社出身のデザイナーPeter A. Ronzani(ピーター・A・ロンザーニ)と同じくエンジニアのRobert "Skip" Schultz(ロバート・“スキップ”・シュルツ)の2人が制作したのが、この『モバイルアシスタント I』です。『モバイルアシスタント I』は'89年から'93年まで生産され、'93年には、同機とデザインが同一でCPUを486に変更した『モバイルアシスタントI マークII』の生産が始まりました」

「以来、『モバイルアシスタント』は、CPUを米AMD社の586に変更した『モバイルアシスタント II』、Pentium-133MHzにした『モバイルアシスタント III』とバージョンアップし、小型化し、性能が向上してきました。12月に出荷する『モバイルアシスタント IV』はその第4世代にあたります。CPUにMMX Pentium-200MHzまたは233MHzを搭載し、ヘッドマウントディスプレー(HMD)にはVGA対応の1インチフルカラー液晶ディスプレーと35万画素のCCDを搭載しています。また、従来機種に比べかなりの小型化が図られています」

『MA IV』のボディーはマグネシウム合金製で腰の高さから落としても壊れない堅牢な作りになっている。主なスペックは、MMX Pentium-200/233MHz、メモリー128MB、HDD容量2.1/4.3GB。入力デバイスは、ポインティングデバイスと音声入力。サイズは幅117×奥行き190×高さ63mmで、重さは約28オンス(約787.5g)。対応OSはWindows 95/98/NT、他にLinuxやUnixWareなど
『MA IV』のボディーはマグネシウム合金製で腰の高さから落としても壊れない堅牢な作りになっている。主なスペックは、MMX Pentium-200/233MHz、メモリー128MB、HDD容量2.1/4.3GB。入力デバイスは、ポインティングデバイスと音声入力。サイズは幅117×奥行き190×高さ63mmで、重さは約28オンス(約787.5g)。対応OSはWindows 95/98/NT、他にLinuxやUnixWareなど



----9月に良く似たコンセプトの製品が日本アイ・ビー・エムから発表になりましたが。

「はい。それと同時に、今年が“ウェアラブル元年”だというような話を聞くことがありますね。でも、私どもにしてみれば、ウェアラブル元年は'88年です。知名度の低さは、知らない人の認識不足です。弊社製品には、実は音声認識ソフトとしてIBMの『Via Voice』を搭載しています。その絡みで、米国本社との間で現在、弊社製品を『ViaVoice』の推奨品として、米IBMの販路で売るという話が進んでいます」

「ウェアラブル・コンピューターの基本パテント(特許権)は弊社が取得していますから、その部分を尊重する方針で米IBMも考えてくれているようです」

キーワードは“飛び出せコンピューター”~ノートパソコンでは実現できない使用法を提案したい

----『モバイルアシスタント』の主な用途は何ですか。

「まず考えられるのは、救急車に積み込むことです。救急員が『モバイルアシスタント』を装着し、緊急時のマニュアルを参照しながら応急処置を施したり、CCDカメラで患者の様子を見せつつ、医師から延命策を教わることができます。他にも航空機のメンテナンス、工場のロボットのメンテナンス、ガス・水道工事、建設関係などが考えられます。いずれも、身につけるという特徴を生かしながら、パソコンをマニュアル代わりに利用するとともに、CCDカメラを利用したコミュニケーションをとることを基本としています」

「今後注目しているのは、『モバイルアシスタント』を使った遠隔教育など、教育機器としての用途、医者のカルテといった活用法です。例えば、医者自身がモバイルアシスタントを身につけて、治療記録や処方箋など医者自身が確認しながら診察してまわることができます。医療現場では、人手不足が深刻化していると言われますが、『モバイルアシスタント』を使えば、患者の情報を統合的に活用できるとともに、カルテの整理といった雑用の人手を減らすことができるわけです」



衝撃に耐えられるよういかついマグネシウム合金で守られたザイブナーの『モバイルアシスタント』。それは身につけるというよりも、装備するといったイメージに近い
衝撃に耐えられるよういかついマグネシウム合金で守られたザイブナーの『モバイルアシスタント』。それは身につけるというよりも、装備するといったイメージに近い



----『モバイルアシスタント』の取引先や出荷台数などについて教えてください。

「ヨーロッパ・アメリカにおける具体的な取引先には、メルセデスベンツなどがあります。ほかに、会社名などの詳細は言えませんが、軍事用途で数百台規模の受注を受けたり、航空会社や運輸会社などからも申し出を受けています」

「10年間の累計出荷台数は全世界で約1万台。日本ではまだほとんど売れていませんが、研究開発機関用に10台程度で導入している家電メーカー、官公庁の研究機関があります。また、NTT(日本電信電話(株))も弊社の技術に興味を持ってくれています。

「今後、通信の分野では、32bit、64bit、128bitと伝送能力がどんどん拡張されていきます。そしてテレビ会議などをスムーズに行なっていくことができるようになるでしょう。弊社のマシンには、35万画素のCCDが標準で搭載されています。NTTが弊社製品に興味を示すのには、そういった背景もあるのではないかと思います」

HMDには1インチサイズの液晶を使用。ユーザーはミラー越しに画面を見ることになる
HMDには1インチサイズの液晶を使用。ユーザーはミラー越しに画面を見ることになる



「いずれにしても、既存のノートブックではできないような新しい活用法を、『モバイルアシスタント』を通じて模索することが私たちの目標です。合言葉は、“とびだせコンピューター”です。(笑)」

『ウェアラブル・コンピューター』は、ライフワークの1つ。今後は、知識情報を記録するカードサイズのPCなどを実現させたい

----最後に、御社の今後の展望に関して聞かせてください。

「昔、アメリカでケネディー元大統領の墓を見たことがあります。その時思ったのは、人は死んで何を残せるのだろうかということでした。例えば、虎は死んで毛皮を残します。人間は何もないんじゃないかと思ったのです」

「それで考えたのがカード型のコンピューターです。コンセプトは第2の頭脳です。いつでも、どこでも、誰にでも使用することのできるこういった機器を通じ、“人は死んで記憶を残す”というコンセプトを提案していきたいと思います。ノートPCからウェアラブルに移行することで、コンピューターは真の意味で1人1台の時代になっていくのではないでしょうか。そして、それをさらに進めていくのがカード型のコンピューターになると信じています」

 インタビューの中で、豊郷氏は「弊社が持っている基本パテントをライセンス供与するという方向性もある」と語った。コンピューターがウェアラブルとなり、1人1台のものとなるためカギは、他社の参入による市場の活性化とそのコンセプトの普及に掛かっているようにも感じる。

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