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【INTERVIEW】電子透かしの最新動向~エム研・斎藤直哉氏

1998年11月13日 00時00分更新

文● 報道局 原武士

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 かながわマルチメディア産業推進協議会(KM協)は12日、“電子透かし~最新技術と活用事例~”というテーマで、電子透かし技術に関するセミナーを開催した。講師は(株)エム研、要素技術研究グループ、画像処理チームのリーダーである斎藤直哉氏。ASCII24では今回、講師として講演を行なった斎藤氏に単独インタビューを行なった。

■セミナーの模様


斎藤直哉氏



電子透かしについて

 電子透かしとは、画像や音声などのデジタルデータに著作権情報をはじめさまざまな情報を埋め込み、不可視状態で隠し持たせたもの。利用者はその存在を意識せずにデータを利用できる。透かし情報は抽出プログラムを使用することで、必要に応じて参照できる。

電子透かしの用途

 電子透かしには以下の用途が考えられている。

1.著作権情報の埋め込み
2.ラベル情報の埋め込み(成人指定など)
3.秘匿通信用途(暗号伝達など)
4.改ざん防止用途(電子透かしが壊れている部分は改ざんされたとわかる)

 1番目の著作権情報は、電子透かしの利用用途の中で、現在もっともポピュラーなものである。既に絵画紹介などのマルチメディアタイトルCD-ROMでは利用が始まっている。

 2番目のラベル埋め込みとは、データにその属性を埋め込んで管理を行なうことにより、利用者に正しい情報を伝えるというもの。例えば成人指定の画像を教育機関や会社のコンピューター上では表示できないようにするなどの用途が挙げられる。

 3番目の秘匿通信とは、暗号化されていることを第三者に気づかれることなく、目的の人物へ渡すことが可能というもの。斎藤氏の所属するエム研では、この分野に特に注目している。

 4番目の改ざん防止は、パスポートや免許証のデータに、比較的壊れやすいレベルの電子透かしをまんべんなく埋め込むことで、透かしが壊れている部分から改ざんを割り出すというもの。

 斎藤氏は電子透かしに必要な要件として、以下のものを挙げた。

1.フォーマット変換、編集、拡大・縮小、回転などの加工を加えても透かしが残る。
2.第三者が透かし情報を除去した場合、データのクオリティが大幅に落ちる。

 これらは、電子透かしの技術において一番の課題点であった。最近の研究・開発では、既に一般利用できる段階にまで技術が向上しているという。

エム研の電子透かし技術について

 ここで、斎藤氏はエム研が開発した透かし技術について紹介した。同社では、透かし認証をデータの依頼側の利用目的や形式にあわせ、さまざまな形式で埋め込むようにしている。

 たとえば、画像データにおいては既存の電子透かし技術では、埋め込んだ後に画像の劣化が目立つ場合があった。これに対する処置として、電子透かしを埋め込む前段階で画像解析を行ない、輪郭や模様といった複雑なデータ部分に透かしを重点的に埋め込むことで、埋め込み後のデータ劣化を防いでいる。同社の手法では、320×320ドットの写真画像データに400文字程度の情報を埋め込むことができるという。

 電子透かし技術の開発・研究においては、技術者の視点からのみではなく、アーティストやミュージシャンといったデータ制作者にも協力を依頼し、電子透かしを埋め込んだ後のデータが制作側に納得のいくものかどうかの検証を続けている。

ガイナックスも採用

 斎藤氏は、実際に同社の電子透かし技術を採用しているマルチメディアタイトルの紹介を行なった。

 日本経済新聞社の絵画集CD-ROM『加山又造の世界』では、今までは不正コピーに対応するため画像クオリティーを下げて制作されていた。それを、著作権情報を埋め込むことによって、高解像度の高クオリティーのまま制作できるようになった。

 アニメプロダクションとして知られる(株)ガイナックスのCD-ROM『新世紀エヴァンゲリオン』『トップをねらえ』では、画像だけでなく音声といったコンテンツすべてに著作権情報を埋め込んで販売を行なっている。

 その他にも、実際に電子透かしを埋めこんだ静止画、動画、音声データのデモンストレーションや、電子透かしを利用しているウェブサイトについての紹介を行なった。電子透かしは目に見えないだけに、透かしを入れていないオリジナルの物と透かしを入れた後の物を比べても違いがほとんど分からず、会場の参加者も首をかしげるのみであった。

 紹介されたウェブサイト“music.co.jp”(http://www.music.co.jp/)では販売されるMIDIデータ、楽譜データなどすべてに電子透かしが使用されているという。

 斎藤氏は今後、電子透かしが採用されるであろう分野の紹介も行なった。ワープロ文章や地図、MP3(MPEG Audio Layer 3)形式のデータにも電子透かしの需要があり、これらについても同社での研究開発がすすめられている。さらに、まだ小規模ながら、PDF形式で配布される学会論文情報にも同社の電子透かしが利用され始めている。

 最後に、同社が提供する電子透かしに関するサービス“インターネット検索システム”と“デジタルコンテンツ不正利用監視センター”が紹介された。インターネット検索システムとは、ロボット型の検索エンジン技術を利用しウェブ上のコンテンツから著作権情報を抽出し管理するもの。“デジタルコンテンツ不正利用監視センター”は、インターネット検索システムで検索したコンテンツが違法利用されていた際、著作権所有者に対し通知を行なうもの。

■斎藤氏に聞く



---(株)エム研に付いて教えてください。

「エム研は設立してから今年で11年になります。ニューラルネットワークを利用した認識技術や、カオスを利用した信号解析・研究を行なっています。最近ではコンテンツに対する電子透かしの埋め込みや、秘匿通信の研究を行なっています」

「また、来年からですが、コンテンツの配信も計画しています。手始めにMIDIデータから配信する予定です。ニューラルネットワークに関しては東京大学教授の方との共同開発を行なっています」

---配信するMIDIデータには電子透かしが入るのですか。

「はい。当然電子透かしが入ります。またMIDIデータへの電子透かしのアルゴリズムに関しては、現在、弊社とヤマハ、ビクターで標準企画を策定してます」

---電子透かしには、具体的にどのような技術を使用しているのですか。

「ニューラルネットワークをはじめ、暗号化の技術にはカオス理論も応用しています」

---電子透かしの技術はどのような形で販売、提供しているのですか。

「現段階ではパッケージとしてのソフトウェア販売は行なっていません。必要とされる顧客から申込みという形でデータを頂き、利用目的やデータ形式に合わせた電子透かしを埋め込んで返送してます。ただし、エンコーダー、デコーダーの契約販売もわずかですが行なっています」

---今までにどれくらいの利用がありましたか。

「だいたい30社くらいです。ガイナックス社などは、数ある電子透かしを実際に試した中から弊社のものを採用したそうです」

---一般向けに販売を行なう予定はありますか。

「当面はありません。ですが、一般の方には電子透かしの入ったデータを利用するという形では普及するでしょう」

---電子透かしでの一番の課題は。

「データの劣化です。エンジニアが大丈夫だと感じても、データの提供元である画家や音楽家の感性では納得のいかないものだという事も多々あります。そこで、弊社ではそういった専門家の意見を取り交ぜつつ開発を行なっています」

---と、いうことはデータの形式ごとにアルゴリズムが異なるということですか。

「そうです。ですから、現段階では申込み型の販売を行なってます。その方が柔軟に、顧客のニーズに対応したレベルでの電子透かしの埋め込みができるからです」

---どういった需要が多いですか。

「今の所、一番多いのが画像関係です。最近では、音楽方面での需要が強まってきています」

---埋め込まれる電子透かしですがどの程度の耐久力があるのですか。

「例えば画像データでいえば、元画像をJPEG形式でのかなり高い圧縮率、具体的に言うと元データの10パーセント程度迄の圧縮率であれば透かしの抽出が可能です。拡大縮小に関しては、拡大はいくらでも、縮小は1/2程度までなら抽出可能です。透かしの抽出ができないレベルまで変更を加えたデータは、既に利用価値が無いものまで質が落ちてしまいます。これは音楽データにも言えることです」

---WAVデータをMP3などに変換した場合でも透かしは残りますか。

「その点については、まだ実用レベルではありません。しかし、NTTの圧縮技術であるTwinVQではかなりのレベルまで研究が進んでいます。MP3形式のデータに関しても当社では既に開発を進めています。実用レベルになるのも、そんなに遠くはありません」

---データを印刷した状態では検知できますか

「既に、PDF形式のデータで研究が進んでいます。スキャナーで読み込むことで、透かしを抽出すると言う研究をおこなってます」

---今後の電子透かしの利用分野についておしえてください。

「アナログメディアへの利用を検討しています。また、ハードウェアに透かし埋め込み機能を付け加える事も研究中です。実際に、あるデジカメのメーカーと開発を検討しています。これが実現すると、建築現場などでデジカメで撮影した画像が証明写真として利用可能になるなど、さまざまな可能性が生まれます」

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