“SEYBOLD SEMINARS Tokyo / Publishing 98”が、10月21日から23日の3日間にわたって開催された。会場は、東京・池袋のサンシャインシティコンベンションセンターTOKYOで、小規模な展示会と数多くのコンファレンスで構成されていた。今回は、“SEYBOLD”のうち、最終日に開催されたJPCセミナーについて、千葉英寿氏の寄稿でお届けする。
“超人気”となったJPCセミナー
最終日に開かれた“JPCセミナー”には立ち見が多数出た。250名収用のホールに400名を超す参加応募があり、かなりの人に断りを出したという。膝詰め、立ち見状態という会場で、熱気に包まれての開催となった。セミナーは2部構成で開かれた。第1部では同団体の各部会ごとに、カラーマネージメント、PDF、フォント・組版などに関する問題点が提示された。第2部は、各部会から出た問題点や会場からの質問をモデレーターのJPC理事長、猪股裕一氏の采配でさばいた。これらの質問を、アップルコンピュータ(株)の渡辺泰氏、アドビシステムズ(株)の石井幹氏、マクロメディア(株)の手嶋雅夫社長、クォークジャパン(株)の早川裕子社長の4氏に投げかけ、それに対して回答してもらうという趣向で進められた。
「“ジャパニーズリクワイアメント”のソフトを!」
まず、Color Managemetについて。渡辺氏は「『アドビガンマ』と『ColorSync』のどちらを使うのか、アドビさんとよく相談したいですね。まず、インフラの整備が先で、具体的には来年からキチンとやっていきます」と答えた。文字については「“ジャパニーズリクワイアメント(日本語環境に特化した)”のレイアウトアプリケーションは、いつ出るのか」という質問が登場した。質問したのは、来場者として同席していたフォントワークス・インターナショナル社のロス・エヴァンス氏。同社は、日本語組版に造詣が深い。
早川氏が「まず、“ジャパニーズリクワイアメント”自体を固定しなければならない。こちらがそれを聞きたいくらいです」、石井氏が「ルール化できる部分は極力そうしたいですね。しかし、最後の部分まで自動化するのはどうかと思います。これではいつまでも完成しないので、自由な部分は残すべきでしょう」といずれも歯切れの悪い答え。
これに対して手嶋氏は「アメリカの会社に要求しても無理。日本のリクワイアメントは日本で作らなければならないでしょう。ゼロから書き上げていって、みんなに買ってもらえればできる」と提案した。これに対して、JPC副理事の郡司秀明氏(大日本スクリーン製造)は「わたしどもでは、元写植メーカーの社員がそうしたソフトを開発していますが、これは値段が高いので」と一筋縄ではいかないことを示した。
JPC副理事の郡司秀明氏 |
さらにエヴァンス氏は「Mac OS 8.5にはATUI(アツイ)という優れた日本語技術があるが、これにはいつ対応できるのか」と問い掛けた。これに対し、石井氏は「Adobe
Illustrator8が出たばかりですので、次のバージョンというタイミングかと思います。しかし、フルサポートするかどうかはケースバイケースですね」とした。早川氏も同様に「次期以降」という返事。
バージョンアップは永遠か?
猪股氏からは「バージョンアップというのは、永遠に続けるのですか」という本質的疑問。石井氏は「1つのアプリをずっと育て続けるのが本当にいいかはわかりません。テクノロジーが煮詰まったら、一から作り直すこともあります」と答え、さらに「私どもも、『K2(コードネーム)』という、よりハイエンドですべてをモジュール化したAdobe
PageMakerとはまったく違ったソースコードを持った製品を進めています。これはQuarkXPressに負けない、それ以上のものになります」と続けた。開発中のパブリッシングソフトK2の存在を、公開の場で認めたのは、日本では初めて。さらに会場からは、QuarkXPressやAdobe Illustratorの新バージョンに関わる質問が続出した。QuarkXPressは、高額なバージョンアップ料金やバグが多いということで物議を醸したし、Adobe Illustratorは、前バージョンが不安定だったためビジネスで使用しているユーザーに深刻な問題を与えた。会場の関心が高いのも当然といえる。
DTPコンサルタントの荻島由希夫氏の「(最新バージョンのQuarkXPress 4.0より安定している)QuarkXPress3.3は、いつまで販売を続けてくれるのか」という質問に早川氏は「在庫がなくなり次第」と答えた。また、Adobe Illustrator 8について石井氏は、「(バージョン7で迷惑をかけたことは)大変申し訳なく、わたしどもにとって笑いごとではありません。新バージョンは、クォリティを最優先に開発してきましたので、胸を張って出すことができます」と約束した。
ユーザーと直接対話するSEYBOLD型の増加を望む
このように、主要パブリッシングベンダーが直接ユーザーと対話するというJPCセミナーは、すでにSEYBOLDでは定番となっている。倍近い参加希望があったことが示すように大変人気が高い。他の展示会でも同様の方法で、ベンダーとユーザーの対話をぜひ実現して欲しいものだ。次回のSEYBOLD TOKYOは、舞台を幕張に戻してCOMDEX Japanと共同開催される。事実上の縮小となってしまった。しかし、こうしたやり方ならば、ベンダーが出展しやすくなる。事実今回は、WORLD PC EXPOに出展したばかりなので、SEYBOLD出展をあきらめたベンダーもあった。時期がずれ、共同開催となることで、さらに充実が期待できるのではないだろうか? 主催者には世界のSEYBOLD TOKYOをさらに盛り上げていって欲しいものだ。
- SEYBOLD SEMINARS Tokyo / Publishing 98
- JPC 注:JPC(Japan Publishing Consortium)は、デジタルパブリッシングのさまざまな課題に取り組んでいる団体である。アップル、アドビ、マクロメディア、クォークといった主要なパブリッシングベンダーと印刷、出版、デザインの関係者(法人、個人の両方を含む)で構成されている。