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【Microsoft Professional Developer Conference 1998】Windows NT 5.0テクノロジーを基盤としたWindows DNA戦略を再確認

1998年10月14日 00時00分更新

文● 風穴 江

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 10月12日(現地時間)から、米コロラド州のデンバーにおいて、毎年恒例となっている米マイクロソフト社による開発者向け会議“Microsoft Professional Developer Conference(PDC) 1998”が開幕(開催期間は16日まで)した。同社の発表によると、今年は6000人、131社の参加者がデンバーに集まった。

会場となったデンバーのConvention Center
会場となったデンバーのConvention Center



中核戦略が公表されることの多いPDC

 PDCという略称で呼ばれる同会議には、これまでにも、Windows 3.1やWindows 95、Windows NTなど、同社の戦略の中核をなす戦略がここで発表されてきたという経緯がある。そのため、開発者の中に混じって、世界各国からのプレス、アナリスト関係者も多数参加しているのが特徴となっている。

 内容は、初日に必ずビル・ゲイツ氏による基調講演があり、そこでマイクロソフトの基本的な戦略の方向性が示されるのが通例となっている。そして初日の午後からは、開発ツール、システム管理、プラットフォーム(今年はWindows CE)といった、細かい分野ごとに分かれてのセッションが始まる。開発者向けというだけあって、セッションの内容は、実践的かつ非常に突っ込んだものとなっている(今年は全部で125セッション用意された)。また“Hands-on Lab”という、実際に体験しながらのチュートリアルに近いセッションも用意されている。

 ちなみに、パーソナルコンピュータ関連の重要な開発者向け会議としては、毎年春ごろに開催される(今年は3月だった)“Windows Hardware Engineering Conference(通称“WinHEC”)”というものもある。こちらは名前の通り、主にハードウェアに関する、パーソナルコンピューターの技術的方向性を示すものとなっている。たとえば、PCIやAGP、USBなどの新しいハードウェアインターフェースへの移行プログラムが発表されたのもこのWinHECにおいてであり、そこでのキープレーヤーはもちろん、Wintelの一翼を担うIntelである。同じようにこのPDCも、パーソナルコンピューターのソフトウェア環境においてイニシアティブを発揮してきたマイクロソフトの戦略が示される場とあって、業界関係者の間では、一私企業のプライベートカンファレンスということ以上に重要なものとして位置づけられている。

お約束の“Top 10 List”はマンネリ

 初日の朝8:30から予定されていた同社会長兼CEO、ビル・ゲイツ氏の基調講演に先立ち、同社のテッド・ニールセン(Ted Nielsen)氏(General Manager of Developer Relations and Platform Marketing)が前座(?)として登場した。“Top Ten Lists That I Consider For Today's Top 10 List”(私家版:今どきの“トップ10リスト”十傑)を披露し、今日から始まる“気難しい会議”の景気付けを行なった。“~が~する10の理由”といった形を使ったパロディーはアメリカではお馴染のもので、もともとはサン・マイクロシステムズのスコット・マクネリー氏が好んでマイクロソフト批判に使っていた手法だ。したがってマイクロソフトとしては、同じ方法でサンにやり返しているということになるのだが、最近はこの手法がお互いに何度も繰り返されており、もはや“どっちもどっち”という泥仕合的な様相を呈している。Javaを人形にたとえ“それ(Java)は、自分が思っているよりも、実際のサイズはさらに大きい”とやり込めるなど、会場ではそれなりにウケていたものの、全体的には新味に欠けるものだった。

ゲイツ氏の氏基調講演ではWindows DNA戦略を再確認

 実は、その前に、スケジュール表でゲイツ氏の基調講演のタイトルが“Building Windows-based Applications for the Internet Age”となっているのを見て“今年は新しい発表はなさそうだな”と感じていた。このため、マンネリ気味のトップ10リストを聞きながらイヤな予感がしていたのだが、果たして、ゲイツ氏の講演でも、新しい発表はほとんど聞かれなかった。

基調講演のビル・ゲイツ氏
基調講演のビル・ゲイツ氏



 とはいえ、これまでの戦略に大筋で変更がない」ということが分かっただけでも重要なのがPDCとも言えるだろう。

 Windows DNA(Distributed interNet Applications)という言葉は、昨年のPDCで初めて発表されたものだと記憶している。そのときには、内容が抽象的すぎて、筆者(風穴)自身、何だか捉え所のない概念だなと思っていた。だが、今回、Windows NT 5.0が提供するテクノロジープラットフォームとともに語られると、それは急速に輪郭をはっきりさせ、昨年以上に同社の主張が明確になったように感じられた。

 ゲーツ氏に続いて登壇したデビッド・バスケビッチ(David Vaskevitch)氏(Vice President、Distributed Applications Platform Division)が、
  1997 Windows DNA Defined(Windows DNAを定義)
  1998 the dream take shape(夢が形になる)
と示していたが、もしかすると、昨年の発表時点では、同社内でもその位置づけや展開が具体化されていなかった可能性もある。

 そもそも、このWindows DNAという考え方は、疎結合かつ大規模という特徴を持つインターネット環境に、これまでずっとローカルなサービスを指向してきたWindowsをいかに適合させるかを示したものだ。世界中が接続されているインターネットは、どこに、どんなコンピューターリソースが、どのような状態で存在するかをあらかじめ前提できないという意味で巨大な分散環境である。同社としては、そうした基盤のうえに、いかにWindowsベースの世界を構築するかをトッププライオリティーの課題として掲げているわけだ。

 こうした考え方は、細部の違いこそあれ、サンのいう「ネットワークこそがコンピュータである」というメッセージですでに語られているものであり、それを“Sunの戦略の焼き直し”と揶揄することもできなくはない。実際、マイクロソフトがWindows DNAの中核技術として強調する“COM+(Component Object Model Plus)”という技術も、古くはOMG(Object Management Group)という業界団体によって進められているCORBAなどが実現しようとしていた世界観に対応するものであり、概念としては革新的なものはほとんどない。

 しかし、CORBAなどが古くからやっている割に現実的な応用例がごく限られたものにとどまっているのに対し、マイクロソフトが提示するWindows DNAの世界は、OSや開発環境も含めた非常に具体的、かつ身近なものとして感じられる内容となっているのが特徴だといえる(今年になってようやく具体化されたという側面もあるが)。こうした“現実的なアプローチと最適なタイミング”に対する敏感な感覚は、マイクロソフトがこれまで数々の成功を収めてきた要因の1つと言えるだろう。

 今回の基調講演の中では、同社の統合開発環境の最新版『Visual Studio 6.0』でCOM+コンポーネントの開発がサポートされることが発表された。さらに、COM+開発環境などを強化した『Visual Studio』の次期バージョン『Rainer(開発コード名)』を、Windows NT 5.0のリリース後60日以内に発表することも明らかにされた。また開発環境でいえば、アプリケーションコンポーネントをユーザーレベルでカスタマイズするための言語として『Visual Basic for Applications(VBA)』を積極的にプロモートしていく姿勢が強調され、同時に、カナダのCorel社との間で、VBAのライセンス契約を結んだことが発表された。Corelは、『WordPerfect』や『CorelDRAW』といった同社のビジネスアプリケーションでVBAをサポートするとしている。

新味のない内容は自信の現われ?

 コンピュータ業界では、他の業界に比べてトレンドの移り変わりが速いと言われているが、インタネットブームが起こって以来、そのスピードはますます加速されているように感じられる。そして最近の1年で最も大きな変化といえば、ネットスケープによるNavigatorのソースコード公開で一躍脚光を浴びることになったオープンソース戦略と、そのきっかけとなったLinuxというフリープラットフォームの認知、拡大という動きが進んでいることである。

 実は、筆者は、こうした状況に対するMicrosoftなりの“解釈”や、何らかの“反応”が見られるのではないかと、密かに期待していたのだが、残念ながらそれはまったく見られなかった。あえてそうした話題に触れないことで、Windowsプラットフォームへの自信を強調しているかのようにさえ見えたほどだ。

 むしろマイクロソフトが意識しているものとして挙げられたのは、64bit対応OSとしてのUNIXで、しかしそれに対しても、先行されていることは認めたものの、「具体的な応用の機会はまだ多くない。先行メーカーにしても、64bitサポートが始まったということ以上のものは何もない(The most oppotunity is yet to come. We have only seen the beginning.)」と、強気の姿勢を崩さなかった。そして、Windows NT 5.0のリリース時には、同社の過去の新規OSと比べても最大となる、6万本以上のアプリケーションがサポートされる見通しであることを高らかに宣言した。

 確かに最近のLinuxには、インテルによるRedHatへの出資や、データベースベンダーを中心としたサポートの輪の広がりなど、“追い風”と受け止められる動きが相次いではいる。しかし、各社がそこでビジネスを展開していくためのプラットフォームとしては、Linuxは、開発環境も含めて徹底的に作り込まれ、MSDNによる手厚いサポートも受けられるWindows環境には及ぶべくもないのは明らかだ。そうした現状では、Microsoftの対応は確かに当然といえば当然ともいえる。しかし、Linuxはユーザー自身の選択によって広がってきたという経緯もあり、その動きが広がり続けるかぎり、Microsoftとしても、このまま無視し続けることはできないのではないか。

 結局のところWindows DNA戦略とは、ネットワークというプラットフォームを同社のWindowsテクノロジーで制覇しようという戦略である。その意味では、サンという具体的な相手だけでなく、Linuxプラットフォームやインターネットコミュニティーなど、あらゆるものを巻き込んだ、これまで以上に熾烈な戦いになることが予想される。その戦いは、来年半ばといわれるNT 5.0のリリースによって本格化することになるだろうが、それまでの1年弱の動きによっては、情勢が大きく左右される可能性もある。

 個人的には、それまでに出されるかも知れない、かすかな“信号”を見逃さないよう、マイクロソフトの動きを注意深く見守りたいと思う。

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