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【INTERVIEW】「具体的な製品をもって真の革新を目指すアップル」-米アップル社副社長Philip Schiller氏

1998年10月06日 00時00分更新

文● 本文:大谷和利、写真撮影:阪倉孝幸

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 9月30日から10月3日の4日間に渡って幕張メッセで開催された“WORLD PC EXPO”は、ある側面では“iMac Expo”ではないかと思えるほど『iMac』の露出が目立ち、米アップルコンピュータ社の日本市場にかける意気込みがうかがわれた。ここでは、ショーに合わせて来日し、基調講演でも今後の米アップル社の在り方についてのスピーチを行なった、同社ワールドワイド製品マーケティング担当副社長であるフィリップ・シラー(Philip Schiller)氏に、これからのソフトウェア戦略などに関して聞いた。取材、構成はフリーライターの大谷和利氏である。

米アップルコンピュータ社ワールドワイド製品マーケティング担当副社長フィリップ・シラー氏米アップルコンピュータ社ワールドワイド製品マーケティング担当副社長フィリップ・シラー氏



検索機能“シャーロック”のように出来上がりで勝負

----現在、『Mac OS X』までのシステムロードマップが公開されているが、それについて、各ステップにおいてどのような革新が進められるのか? 特に『ソナタ』、『Mac OS X(テン)』の位置付けや役割などをお聞かせ願いたい。

「1年ぐらい先までのOSのロードマップを公開していくことは、非常に重要な意味を持っている。OSに対する理解とサポートを得る上で、とても有効だ。と同時に、外部とのコミュニケーションに関して、できるだけシンプルなかたちで、わかりやすいものにしなければならないとも思っている。特に、予定される仕様については、必要以上に喧伝することなく、責任を持って慎重に扱うつもりだ」

「というのも、将来のMac OSの位置付けや重要なフィーチャーなどは、アップルのエンジニアとデベロッパーが一体になって議論し、煮詰めることが必要だと思うからだ
。また、実際に使ってみるまでは、その重要性に気付いていただけない仕様もあって、それらをあまり先走って公開しても、混乱を招く可能性がある」

「例えば、『Mac OS 8.5』における重要な機能の一つである検索機能“シャーロック”について、1年前までは、この機能を重視するデベロッパーは少なかった。ところが実際にこの機能を手に入れて使ってみた人たちは、そのユニークさと有効性に驚いている。このように、口先だけで機能を説明するのではなく、実際にできあがったものを見て理解していただく中から、真に革新的なフィーチャーが生まれてくると思う」

「『Mac OS X』のコアになる部分についても、まだ現時点では予想もされないような機能が組み込まれる可能性がある。ただ、はっきり言えるのは、Webアプリケーションへのさらなる対応を考えると、方向性としてはマルチタスク化、マルチスレッド化が一層推し進められることだ」

「『Mac OS 8.6』の次に予定される『ソナタ』についても、まだそれが『Mac OS 9.0』と呼ばれるかどうかを含めて決まっていない部分が多いので、議論するのはまだ時期尚早と考える」

ソフト投資はコアテクノロジーに集中、他社技術導入もいとわない

----今後のハードウェアやソフトウェアに関する展望はどうか?

「ハードウェアに関しては、これまでにも発表してきたように、プロシューマーとコンシューマー、デスクトップとポータブルを組み合わせた四つの分野で具体的な製品提案を行なっていく。『iMac』については特にデザインを重視した製品だが、コスト削減を含めて、今後の我々がどういう方向に進んでいくかを明確に示している」

「ソフトに関しては、従来は手を広げすぎていた部分があったが、今後はメインとなるOSをはじめ、Quick Time、カラーシンクなどのカラーマネージメント、ネットワーク、Javaといったコアテクノロジー分野に注力し、投資を集中させていきたいと考えている」

「たとえば、デザインに関して見れば、『パフォーマ』も悪くはなかったと思うが、『iMac』は群を抜いている。同じように、インターネットコネクションキットも使いやすいソフトだが、シャーロックの素晴らしさとは比較にならない。そういう革新を行っていくということだ」



----そのコアテクノロジーの中に、ストリーミングメディアや音声認識、エージェント機能などは含まれないのか?

「ストリーミングメディアの取り込みに関しては、QuickTimeを利用して鋭意努力していく。3.0では、かなりサポートが強化されていると思う。ライブストリーミングには、今後のバージョンで対応を高めていく。音声認識については、我々の望むレベルを達成するには、まだ技術的な問題点が多い。逆に、今のところは、IBMのVia Voiceやドラゴンシステムズの技術など、すでに定評のあるテクノロジーがMac OSに移植されても良いのではないかと考えている」

「エージェント機能についても、残念ながら、短期的にはまだ現実的ではない。ただし、興味深い技術であることは事実であり、QuickTimeムービーを利用したインタラクティブなヘルプ機能など、身近なところから実現していきたい」

「『Mac OS X』も『ラプソディ』もPowerPC専用」

----『ラプソディ』はどうなるのか? Windows版は?

「『ラプソディ』は、のコアとして位置付けている。『Mac OS 8』と『ラプソディ』が、『Mac OS X』の親にあたるわけだ。そういう意味で、ロードマップから切り離されることはない。ただ、『ラプソディ』に関しては、クライアントでもなければ、コンシューマーでもないことから、メインOSとして扱うことは考えていない。基本的には、『Mac OS X』サーバーが出てくるまで、サーバーOSとして機能するものとして考えて欲しい。今後の動向については、我々の方からも慎重にコミュニケーションを図って、誤解のないようしていきたい」

「また、『ラプソディ』にしても『Mac OS X』サーバーにしても、ポータビリティーを重視した構成にはなっているが、今のところPowerPC専用として開発されている」



----G3以前の機種をサポートするOSの開発は、いつまで続くのか?

「基本的には今後ともできるだけサポートしていくつもりだ。しかし、たとえば、『Mac OS X』が登場するころにはiMacも発売から1年たち、その他の機種も含めて、ハードウェアのプライスパフォーマンスは相当なところにまで来ていると思う。確かにMacintoshのハードの寿命はWindowsマシンに比べて長いものの、『iMac』のような機種が登場してきたことや、今後のPowerPCの進化を考えると、ユーザーも積極的にハードウェアをアップグレードする道を選ぶのではないかと思う」

ユーザーと話し合いながらも自分の勘を信じる」

----ユーザーとのコミュニケーションは?

「アメリカはもとより、日本でもいろいろな方々との話し合いをスタートしている。グローバルスタンダードを意識して、アメリカオンリー、日本オンリーということでなく、世界各地で同じようなプログラムをスタートした」

「日本であまりコミュニケーション活動を行なっていないと思われるかもしれないが、実際には、水面下で大きな動きを作っている。事前に情報が漏れて、製品が偏った見方をされることは避けなければならない。『iMac』が良い例であり、製品を出したときに、ユーザーにとって嬉しい驚きが生まれるようにしていきたいと思う」

「ユーザー以外にも、現在マシンを購入していない方々からも情報を収集しているが、かといって、一方的にそういうマーケット主導型の製品開発に切り替えたわけではない。たとえば、『iMac』を出すことができたのは、我々アップルが自分自身の勘を信じたからである。ユーザーの意見は貴重だが、仕様や方向性などは、あくまでも自らが主体になってまとめるべきだと思う」

 インタビューを終えての感想としては、全体に、数年前に見られた計画発表を先行させる戦略を改めて、現実の製品で勝負するという地に足のついたビジネスに切り替えた印象が強い。これは、ビジョンを強く打ち出していた80年代のアップル社においても、実は製品開発の根底に流れていたポリシーであった。細かい情報が堅いガードに阻まれて表に出てこないのは、ある意味で寂しい気もするが、『iMac』のような具体的な製品がこれからも積極的に登場してくるとすれば、この基本に立ち戻る戦略変更には大いに意味があると言って良いだろう。

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