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國領二郎助教授、ネットワークと産業との関連を語る。月定額1万円のベストエフォート型通信サービスの必要性を強調

1998年09月28日 00時00分更新

文● 報道局 植草健次郎

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 (財)社会経済生産性本部は、第5期情報推進懇話会第6回例会を開催した。同会では、慶應義塾大学の國領二郎(こくりょうじろう)助教授を講師に迎えて“ネットワーク普及がもたらすあたらしい経営 -オープン・ネットワーク上に展開される新しい産業やビジネスのモデル-”と題した講演を行なった。國領氏はこの中で、月定額1万円のベストエフォート型通信サービスの必要性を特に強調した。

 講演では、インターネットなどのコンピューターネットワークが新しいビジネスモデルを創り出していること、産業の業態に変革をもたらしていること、生産者と消費者の関係を変化させていることなどが語られた。

インターネットが生み出した新たなビジネスモデル

國領二郎・慶応義塾大学助教授 國領二郎・慶応義塾大学助教授


「インターネットのようなオープンなネットワークによって新しいビジネスモデルが生まれている。例えば、

1.BTO(Build To Order)方式による受注生産方式
2.価格の透明化と営業経費の削減
3.試作回数の削減と開発時間の短縮

 といったことが挙げられる。1では、ネットワークにより受注から生産に移る時間を短縮して、受注生産でも短時間で納品できるようし、製品在庫を持たない仕組みを作っている。これは、単に在庫を持たないことでコスト削減することだけが目的ではない。在庫を持たないことで新製品を迅速に販売できるし、新製品により従来モデルを持っている販売チャネルを困らせることもない。直販できるのもインターネットにより、ユーザーの側の情報を吸い上げる仕組みが作れたからだ」

「2では、消費者がインターネットで価格情報が手軽に入手できるため、価格情報が共有化されてくる。必然的に販売価格はもっとも低いところにそろってきてしまう。これを逆に取って、出荷のときから最低の価格で出荷し販売することで、値引き交渉などの営業活動のコストを削減できる」

「3では、3DCADにより、開発の初期段階での試作回数を削減できるとともに、試作にかかるコスト、時間を削減できる」

「これらを可能にしている要因として以下の二つが挙げられる。

1.ベストプラクティスの結合による効率性の増大
2.知恵、知識、知的生産物の結合による創造性の増大

 1は、自社の中核業務に注力し、弱い部分は他者がブラッシュアップしてきたものを使用するというように、互いのベストのものを組み合わせることで効率を高めることができる。例えばパッケージソフトは、特定の用途のために洗練されつづけてきたソフトウェアであり、これを取り入れることで弱みを克服し、自社の中核では自社によるシステムを構築するといったことができる。2では、例えば3DCADでは、ネットワーク上で3次元のモデル共有し、互いの意見、知識を交換し合いながら開発が進められる」

戦略構造の変換

「上記の要因がどのように表れてくるかだが、従来の大量生産のころには、1つの市場で開発から販売まですべてを囲い込む型の戦略が多く取られた。今後は、横断的にすべての市場で一部の機能として使用される、プラットフォーム型の戦略への転換が進んでいくだろう。一部の全部を狙うか、全部の一部を狙うかということだ」

「開発コストが増大しつづけるのが知的生産物の、ひいては知的社会の特徴だが、ソフトウェアのように開発費を配分する分母を大きくしたほうが良いもので、プラットフォーム型への変換が進んでいる。IT産業ではこの傾向はすでに、一通りの変革が終わったようだが、今後プラットフォーム型への変革は、すべての業界で進んでいくだろう」

電子市場の展開

「コンピューターネットワークを利用した商業展開では、開発費以外の生産や流通などの変動費をほぼゼロにすることが可能になる。このことにより、コストの回収の仕方が、従来のモノの購入時に対価を支払う方式ばかりではなくなってきた。ネットスケープ社の『Netscape Communicator』や、マイクロソフト社の『Microsoft Internet Explorer』などが例として挙げられる。無料で配布しても、別の手段でコストを回収できればよいということになる」

消費者と生産者の関係の変化

「かつての大量生産の時代には、情報は売り手から買い手へしか流れない一方的な市場だった。現在では売り手と買い手、1対1の双方向のやり取りだけでなく、顧客同士がコミュニケーションを取り合うようになっている。コンピューターネットワークにより、顧客間でのコミュニケーションができるようになった。そこで自由に情報をやり取りすることで、顧客側の情報量も増し、そこに一種のコミュニティーが醸成されている」

「このコミュニティーは企業にとって強い味方となりうる。例えば、電話によるサポートよりも、(株)ニフティの“NIFTY SERVE”上での、特定のハードウェアやソフトウェアの会議室など、ユーザー同士の場で質問を投げれば親切ですばやい対応が得られたという例がある。これはサポートサービスをユーザー自身が生産しているといえる。企業自身が同じサービスを行なおうとすれば多額のコストがかかる。ユーザー同士がそのようなサービスを生産してくれる上に、企業にとっても情報収集の場として有効に働くだろう」

「気を付けなければいけないのは、このコミュニティーは強い味方にもなるが、大きな問題になることもあるということだ。企業側がコミュニティーを縛ろうとしたり、強要しようとすると反発されて、製品が売れなくなるということもある。企業側は、このような価値の生産の核になるような場を提供して、そこにできるコミュニティー全体を取り込んで行くよう行動すべきだろう。ワントゥーワンマーケティングが叫ばれて久しいが、以前のようにユーザーを集団として見るようになっていくのではないだろうか」

月1万円のベストエフォート型通信サービスが不可欠

「企業にとって、消費者の情報を取り込むために、コンピューターネットワークが重要な手段になってきている。ユーザー側がネットワークに参加することへの敷居を低くするためにも、2000年までに競争原理のもとで、全国で月額1万円未満でベストエフォート型の64kbps以上の定額サービスを利用できるようにする必要があるだろう」

 PCそのものが高額というのもあるが、通信料金が決して安いとはいえない金額であることも、インターネットへ参加する人が増えない要因のひとつであろう。低料金の定額性の導入はぜひ実現してもらいたいと思う。

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