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マイクロソフトのChromeffects戦略

1998年09月08日 00時00分更新

文● 中澤勇

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  マルチメディアコンテンツ制作のための新技術『Chromeffects』の正式版が近々配布される予定だ。このChromeffectsについて、ASCII24では2日連続でレポートする。



Chromeffectsの必須環境

 今回は、マイクロソフトのChromeffectsに関する戦略を紹介したいと思う。前回も書いたとおり、出版社向けの配布はもうすぐ始まるはずだが、一般ユーザーは、いつ、どのようにすればChromeffectsを入手できるのだろうか。

 この疑問に答える前に、まずChromeffectsの動作条件を紹介しておこう。これは入手方法にも関わってくる。

●ハードウェア

CPU:Pentium II-300MHz(K6-2-300MHz)以上
メモリー:64MB以上
グラフィック:3DサポートAGPビデオカード(ビデオメモリー4MB以上)

●ソフトウェア

OS:Windows 98
そのほか:Internet Explorer 4.0x以上、DirectX 6.0

 まあ、Windows 98ならIE4.0xは標準機能だし、Chromeffectsのランタイムをインストールすれば、DirectX 6.0も自動的にインストールされる。Windows 98なら特になにかを用意しなくても、Chromeffectsは利用できるということだ。

 では、上記の条件をすべて満たさなければ、Chromeffectsは動作しないのか? 実は、動かないことはないのである。ハードウェアの条件に関しては、完全にパフォーマンスの問題でしかない。これ以下の環境でも、遅いが動く。ソフトウェアに関しても、Windows 95+IE4.0x+DirectX 6.0で、おそらく動くだろう。ただし、動作保証はされない。その理由はあとで説明する。

ランタイムを入手するには20万円かかる?

 Chromeffectsの配布形態だが、これはランタイムとSDKに分けて考える必要がある。SDKに関しては、すでにマイクロソフトのWebサイトからダウンロードできる。MSDNにも収録されるだろう。雑誌の付録CD-ROMに収録される可能性もある(マイクロソフトには、その用意があるという)。

 厄介なのは、ランタイムだ。これがなければ、SDKがあってもChromeffectsの動作を確認できないのだ。

 おそらく、Chromeffectsのランタイムは、これから年末にかけて、全国のPCショップに並ぶだろう。価格は……はっきりとはわからないが、20~40万円もあれば買えると思う。

 なに? ランタイムにしては高すぎる? いや、それほどでもない。だって、PC付きなんだから。そのスペックだってなかなかのもの。最低でもPentium II-300MHzにメモリー64MB、AGPのビデオカードが搭載されていて、Windows 98がプリインストールされている。もっとハイスペックかもしれないし、機種も自由に選択できる。

 感のいい人なら、もうおわかりだろう。Chromeffectsのランタイムは、「これから発売される、動作条件を満たした」PCにプリインストールされるのだ。単体売りも、Webからのダウンロードサービスもない。いくらPentium II-450MHzに128MBのメモリーを搭載したマシンを使っていたとしてもダメ。ランタイムを入手するには、これから発売されるパソコンを買うしかない。

 これでWindows 95がサポートされない理由もおわかりだろう。これから発売されるPCにプリインストールされるのはWindows 98だからだ。Windows NT4.0も、ほぼ同じ理由でサポートされない(また、NT4.0はDirectX 3.0までしかサポートしていない)。

「批判は覚悟の上」とマイクロソフト

 この出荷形態はOSR2.xによく似ている。これでは、またユーザーから不満の声があがるだろう。

 こうした懸念をぶつけてみたところ、マイクロソフトの本島氏(前回参照)は「覚悟している」という。では、なぜ?
「まず、コンテンツデベロッパーに安心して高度なコンテンツを作っていただくために、対象となるユーザーの最低限の環境を保証しよう、ということです。“Pentium II-300MHz以上”とすることで、コンテンツデベロッパーの方々にそれに合わせたコンテンツを作っていただくことができます」

 Chromeffectsの能力をフルに活用したコンテンツを作ってほしい、という気持ちはわかる。しかし、コンテンツデベロッパーは、コンテンツを少しでも多くのユーザーに見てもらえるように、と考えるものではないのだろうか? この配布形態では、Chromeffectsコンテンツを見ることができるユーザーは極めて限られてしまうではないか。

「Pentium II-300MHz以下のユーザーさんがChromeffectsのコンテンツを見て、“遅い”というイメージを持たれても困るんです。そうしたイメージが先行して、Chromeffectsを廃れさせたくありません。あれは、もっと長いスパンで育てていきたい技術ですから」

 話を聞いていて、Chromeffectsを育てたい、という気持ちは充分伝わってきた。そのための戦略となれば、否定はしない。また、SDKに含まれるドキュメントにもOEM出荷のみと書かれているので、これは米国本社の決定にちがいない。日本のマイクロソフトにはどうしようもないことだ。

 しかし、これが最善策であるとは思わない。コンテンツデベロッパーは、インターネットユーザーの一部であるWindowsユーザーの、さらに限られた人々にしか見られないコンテンツを作るだろうか。しかも、バナー程度なら簡単だが、「PentiumII-300MHz以上」を対象とした高度なコンテンツとなれば、作るにはかなりの手間がかかるだろう。その結果、見られるのは全インターネットユーザーのごく一部。本島氏が言うように、「ヒット数を重視するのではなく、小人数でも確実に見てくれるユーザー層を狙ったWebサイト」なら、確かにあるだろうし、Chromeffectsを採用するかもしれない。だが、こうしたサイトもまた、全Webサイトのごく一部だろう。

 また、OSR2.xが入手できなかったユーザーの心情も見逃せない。彼らは、Windows 98の登場によって、やっとOSR2.xユーザーに追いついたのだ。それなのに、またしてもこれからPCを買うユーザーだけが最新の機能を手に入れる。こうしたことが続けば、「OSはPCにプリインストールされたOEM版のほうがよい。しかもOSが出てからしばらくはパソコンを買わないほうがよい」ということになってしまう。これはPC業界全体にとってマイナスとなるだろう。

 OSR2.xのときは、ハードディスクやCD-ROMドライブとのセット売りといった抜け道があった。だが、Chromeffectsを配布するには、あくまでも冒頭に紹介したスペックを満たした場合のみ。組み立てキットなど、CPUやメモリ、ビデオカード、OSがセットでなければ配布できないのだ。

 あまり遠くない未来に、Chromeffectsの配布形態が変更されることを祈る。

Chromeffects次バージョンとコードネーム「Spice」

 Chromeffectsは、Final版が完成したことで、とりあえずひとつの区切りがついた。しかし、これだけでもう終わりというわけではない。

 まず、Chromeffectsには次バージョンがある。現時点でわかっていることは、DirectMusicがサポートされるということだ。ご存知のとおり、現在のDirectX 6.0にはDirectMusicが含まれていない。そのため、今回のChromeffectsにはDirectMusicを利用するための手段が含まれていないのだ。

 対象OSは、NT5.0にも拡大される。IEのバージョンも、将来的には5.0になるだろう。

 さらに、マイクロソフトはChromeffectsをサポートしたオーサリングツール(コードネーム『Spice』)を開発中だ。これは年末にはダウンロードできるようになるという。立方体や円錐などの単純なオブジェクトはSDKでも作成できるが、複雑な3Dグラフィックを多用するなら、オーサリングツールは必須だろう。また、Chromeffects対応オーサリングツールについては、マイクロソフト以外のメーカーからも発売される予定だ。

GDI2kには1GHz CPUが必要……かも

 3Dのボードが配置されたChromeffectsコンテンツをActive Desktopとして画面いっぱいに広げると、その動きはまさにGDI2kを彷彿させる。デスクトップを3D化するGDI2kに関しては、賛否両論(否のほうが多いか?)だが、Chromeffectsを使ってちょっと「それっぽい環境」を作ってみる程度なら、なかなか面白い。

 しかし、実際にそれが標準となるとしたら、ちょっと怖い。ChromeffectsのコンテンツをIE上に表示させただけでも、マシンにかなりの負荷がかかっているからだ。

 ちなみに、筆者のマシンはPentium II-400MHzにメモリー64MB、RIVA128を搭載したDimension R400だ。この環境でも、大きめなChromeffectsコンテンツを表示させると、ショートカットメニューなどの表示がもたつく。

 GDI2kがOSに標準搭載されるころまでには、1GHz駆動のCPUが手ごろな価格で買えるようになっていてほしいものである。

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