米ライコス社が設立されたのは、'95年。3年の間、同社が提供するWebサイトは確実にアクセス数を伸ばし、Yahoo!、MSN、AOL、エキサイトなどと並んで、押しも押されぬ人気サイトに成長した。'97会計年度('96年8月から'97年7月まで)の売上は2230万ドル(約32億円)で、'98会計年度には5400万ドル(約78億円)にも達するとの話だ。今年に入ってからも、2月にホームページ制作の行なえる人気サイトを運営している米Tripod社を5800万ドル(約84億円)で買収、ディレクトリー構築技術を持つ“WiseWire”を3975万ドル(約87億円)で買収するなど、活発に勢力を拡大している。
その一方で、同社は4月に住友商事(株)、(株)インターネットイニシアティブと共同出資して、日本法人を設立。7月には、アジアでは韓国に次いで2番目となるオンラインサービスを開始している。現在提供しているのは、検索サービスのみだが、10月には情報提供サービスを含む本格的なサービスを開始するという*。今回は、来日した本社COOのEdward
M. Philip氏に、アメリカにおけるサービスを中心にお聞きした。同氏は、日本法人の副社長も兼務している。
左から、Eric Gerritsen・ライコスジャパン取締役、David Kim・ライコス本社ファイナンス/戦略マネージャー、Edward Philip・ライコス本社COO |
人気のパーソナライズサービス
----まず、アメリカでのサービスの特徴についてお伺いしたいのですが。「ライコスは、“フル”なサービスを提供する唯一のサイトです。株式情報、スポーツ、エンターテインメント、天気、占い、カレンダー、アドレスブックなどユーザーにとって便利な情報を提供するだけでなく、Webの検索機能や、ユーザーそれぞれがホームページ制作、Eメール、チャットなどを行なえるコミュニティーとしての機能もブレンドされています」
「情報をカテゴリー別に分けた“WEB GUIDES”には、WiseWireの技術が使われています。これはロボット型エンジンにネットワークを巡回させてWebサイトの情報を収集し、ディレクトリーを構築する技術で、情報量が豊富である、情報が最新である、完全な収集を行なう、などのメリットがあります。Yahoo!などはサイトの情報を手で入力しているので、登録されていないサイトの情報は検索できません」
----自分のほしい情報だけを選択、編集できる“パーソナライズサービス”に興味を持っているのですが、反響はいかがでしょうか。
「非常に人気のサービスです。正確な数字は出していませんが、利用者は数百万人にのぼると見ています。ライコスが提供するコンテンツの多くがパーソナライズでき、いちいち検索をしなくても必要な情報を見られるというメリットがあります。コンテンツが選択できるだけでなく、サイトの色やコンテンツのレイアウトなどもアレンジできます」
----ヤフー、エキサイトなどの提供する同様のサービスについてはどう見ていますか。
「ライコスとはまったく違うと考えます。彼らはわれわれのサービスの一部を提供しているに過ぎません。主なところでは、Tripodのサイトで個人のホームぺージを作成できる、ということが挙げられます」
企業の買収および企業との提携
----そのTripodについてですが、2月の買収以来、ライコスのビジネスにどのような影響を及ぼしていますか。「6ヵ月間で、Tripodのページビューは3倍に伸びました。現在、www.lycos.comとwww.tripod.comを合計したライコス全体のページビューは1日2400万で、そのうちの3分の1をTripodが占めています」
----TripodやWiseWireの買収のほかに、AT&Tとの提携も発表されていますね。
「この提携により、毎月12.95ドルでインターネットに接続できる通信サービス“Lycosオンライン”が実現しました。また、ライコスのサイトで、AT&Tの通信サービスを低価格で販売し、料金の一部をマージンとして受け取っています」
----今後、他社との提携の話はどのような形を想定していますか。たとえば、映像メディアなどについてはいかがでしょうか。
「いくつかのメディア企業とは、コンテンツを提供してもらうよう交渉を進めています。また、これまで通り、企業の買収は積極的に行なっていくつもりです」
----具体的な話は明かせますか。
「やはり詳しくはお話しできません。ただし、Tripodのように、ライコスのサービスの幅を広げる企業、WiseWireのように技術を持った企業という2通りの企業との提携が考えられます」
今後の収入源は電子商取引に期待
----広告収入と電子商取引の手数料とが、ライコスの主な収入源のようですが、その比率は。「今、4分の3が広告収入、4分の1が電子商取引の手数料となっています。しかし、今後1年間で50パーセントずつに推移すると見ています」
----電子商取引の将来性を見込んでいるわけですね。
「そうですね。今、インターネット広告の市場が1億ドル、電子商取引の市場が20億ドルともいわれていますが、数年後には広告が6~12億ドル、電子商取引が10倍の200億ドルになるだろうと見ています」
----ライコスのサイトでは、どのような電子商取引が人気ですか。
「一番人気があるのは、Barnes & Nobleがライコスに提供している本のオンライン販売です。そのほか、CDや旅行のチケットが購入できるサービスも人気があります」
オンラインコミュニティーとしての“到達点”になりたい
----今後のサービスの方向性についてお聞きしたいのですが。「現在の“フル”なサービスをさらに充実させるということに尽きます。株式の売買、映画や音楽のダウンロード、品物の購入など、ユーザーの望むすべてをかなえることが目標です。そして、オンラインコミュニティーとして“到達点(Destination)”になりたいと考えています。“ポータルサイト”というような単なる入り口でもなく、また通過点でもなく、Webにおける最終的な到達点を目指したいのです」
「分野別にいうと、スポーツやエンターテインメントに力を入れたいと考えています。たとえば、ユーザーが好みの本、音楽、ビデオなどをピックアップすると、似たようなタイプのものも紹介する、というようなサービスも提供したいですね」
----インターネット上でサービスをする立場から、インターネットやTVの未来をどう見ていますか。
「TV、読書、レジャーなどは、人の時間を奪い合うという意味で、インターネットにとって競合相手。TVでインターネットが閲覧できるようにもなってきていますが、われわれはよいコンテンツを提供するだけです」
----それでは、TV、読書、レジャーなどの競合がひしめく中で、インターネットはどう成長していくのでしょうか。
「これまで、インターネットは競争に勝ってきたといえます。人がTVや読書に費やす時間は年々減っているのに対し、インターネットに費やす時間は増え続けています。そして今後は、インターネットにとって、マルチメディアの重要性が高まるでしょう。より高品質なサービスを提供することで、多くのユーザーを獲得できるはずです」
インタビュー後も、ライコスは確実に拡大を続けている。同社が発表したニュースによると、オンラインサービスを提供している米GuestWorld社、米WhoWhere社をそれぞれ390万ドル(約6億円)、1億3300万ドル(約192億円)で買収したほか、健康保険のオンライン販売を行なうサイト“HealthAxis”との提携も発表している。これらのサイトは、互いに緊密にリンクされ、ネットワーク上に一大コミュニティーを形成している。Philip氏が語った、“フル”なサービスが成熟しつつあるといえる。
そして、情報が充実すればするほど、それを個人ごとに取捨し、編集できる“パーソナライズサービス”が威力を発揮することになる。インターネットのように情報が氾濫するスペースでは、パーソナライズは今後有力な流れになっていくだろう。
また、ライコスが電子商取引に大きな期待を寄せていることは興味深かった。ライコスのようなオンラインサービス、ひいてはインターネットビジネスは、電子商取引のインフラが整い、誰でもが簡単にオンラインショッピングできるようになって、さらなる飛躍を遂げるに違いない。
(7月28日、ライコスジャパンにて)