このページの本文へ

【INTERVIEW】ソニー、2000年には家庭に娯楽ロボットが

1998年08月06日 00時00分更新

文● 報道局 西川ゆずこ、桑本美鈴

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ソニー(株)は、6月10日、エンターテインメントロボット用のアーキテクチャー“OPEN-R”の開発を発表した。産業用ロボットとは異なり、趣味や娯楽などの用途を狙った“OPEN-R”。これまで、ロボットといえば“高い”、“難しそう”、“とっつきにくい”と遠い存在だった。

 “OPEN-R”アーキテクチャーをベースにした製品版を「2000年には市場に出す予定」と言うからには、近い将来、家庭にロボットが登場することになりそうだ。形態も4足で、「ソニードッグ」との愛称からも分かるように、ペット感覚なもの。価格も「日常家庭への普及を目的としており、お年玉で買えるぐらいの値段を想定している」とお手ごろな予感がするこのロボット。

 2000年というと、もう目と鼻の先。“エンタテインメントロボット”の実物・開発者の取材に行ってきた。

新しい市場への参入・新しい競争によって、ロボットの進化を促したい





----エンターテインメントロボット用のアーキテクチャー“OPEN-R”の開発の主旨は。

「これまで、ロボットというと工業用、産業用が主流だった。例えば医療用とか検索用の実際に役に立つロボットの開発コストは100億円単位だ。しかし、それだけ開発に力を入れても、結局買う人が限られているので、採算はとれてもビジネスが発生しない」

「我々は、そういうアプローチを1回捨てて、“エンタテインメントロボット”というアプローチを試みようと考えた。何もできないけど、なんだかおもしろい。そういったロボットを作って、“おもちゃ”としてのロボットで市場に参入しようと考えた。新しい市場に参入することによって、新しい競争が起こり、ロボットの進化を引き起こすことができればと思っている」

「ただ、色々なメーカーが別々な規格を定めても、ロボットそのものは進化しないので、エンターテインメントロボット用のアーキテクチャー“OPEN-R”を開発して、規格を定めたいと考えた。その上で、使い方、応用は、このロボットでビジネスをしたい人が考えるという形にしたいと考えた」

モジュール化によって、2次的ビジネスを発生させる

----なぜ、ハードウェア・ソフトウェアのモジュール化したのか。

「去年の8月発表したモデルは“OPEN-R”アーキテクチャーができる前の試作品だった。これは、足が外せなかったりとモジュール化されていなかった。“エンタテインメントロボット”のビジネスをモジュール化をしないまま行なっても良かったのだが、モジュール化することによって、例えば、携帯電話のストラップのように、2次的なビジネスが発生すると我々は考えた」

「規格を定めるメリットは、各メーカーが得意分野に専念できるということだ。例えば、足の製造が得意分野のメーカーは足だけを製造すればいい。我が社でなくても、他のメーカーの参入が可能だ」

「コンピューターでも、仕事に使う人もいれば、インターネットのページビューだけという人もいる。色々な楽しみ方、使用法がある。我々は、規格を定め、ベースを提供する。そして、モジュール化することによって、色々な楽しみ方、使用法の開発・提案を可能にしたいと考えている。その結果、今まで誰も考えない新しい使い方が出てくるかもしれない。そういった進化を期待している」

----2足、球体など、いろいろな形態のロボットが考えられたと思うが、なぜ4足歩行型を開発したのか?

「“OPEN-R”の目的は、ロボットでエンタテインメントの市場を切り開くことだから、まず規格を定めることが先決と考えた。2足は敷居が高い。また、作り出すと別の研究、本田みたいに歩行の研究になってしまう。規格が定まってから2足のモジュールを開発すればいい。一方、6本足だと愛着が湧かない。見た目は、虫。6足だとかわいいと思わない。結局、猫とか犬とか私たちの身近にいる動物が4足で動いていて、それと同じ形態にすることでロボットにも愛着が持てるようにと考え、割と初期の段階から4足歩行型に専念して、開発を進めてきた」

ハードウェアのモジュール化により、市販のものを活用、修理、目的別使用が可能



----具体的なスペックは。

●ボディー
「この試作品は、前足・後足・尻尾が外せる。前足・後足もモジュールは一緒。足が1本壊れても、別の足を持ってきて動かせるといった形で、修理をする手間が省けるようになっている」

「また、後足を外して、2輪のタイヤユニットを付けることができる。足のモジュールには、足に関する物理情報、長さ、形状などの情報が書いてある。よって、足をタイヤのユニットに変えると、2輪のタイヤユニットがついていると認識して動くようになっている」

「この試作品では、頭が外せないが、技術的には可能だ。重さは1.25キログラム。バイオより軽い。素材は、プラスチックとアルミニウム合金(前のモデルはマグニシウムだったけど)。」

●バッテリー
「CPU・コンピューター系は市販のHandyCAM用のリチウムイオン電池を使用。モーター系はバッテリーの特性上の制限で、別で、ニッケルカドミウム電池を使用している。バッテリー駆動時間は、立ったり座ったしの動作が続くと15分ぐらい。逆に、寝ていれば駆動時間は長くなる」





●歩行速度
最速毎分7.2m、通常は毎分6m程度。

●OS
Aprios(ソニー独自のリアルタイムOS)。

●PCカードスロット×2
「ソフトは、PCカードに入っている。PCカードを差し換えることによって、ソフトウェアモジュールを交換することが可能。スロットが2つあるので、例えば市販のモデム、あるいは携帯電話のユニットを挿して、ロボットが電話の機能を持つことも可能。市販のLANカードを挿して、このロボットについているCCDカメラを通した、リアルタイムの画像を受信することも可能だ」



ソフトモジュールは、画像・音階・音声認識、性格付けのモジュールを開発

 



●画像認識モジュール

「これは、色を認識して、例えばオレンジ色のボールを認識して追いかけるモジュール」

●音階認識モジュール

「ロボットにステレオマイクホンが付いていて、3つの音で1つのコマンドを形成している。コマンドを指示すると、ロボットが立ったり、座ったり、踊ったりする。踊りのパターンは3つ。また、国歌斉唱ができる。これは、7月3日-7日までフランスで行なわれた“Robocup'98”*のために制作したもの。フランス国家と米国国歌を斉唱した」

●音声認識モジュール

「これが一番難しい。仏“Robocup'98”のために作ったので、フランス語しか認識しない。なかなか通じないので、発音練習機だね。もちろん、辞書を日本語に変えれば日本語にも対応する。“お座り”、“立て”などのコマンドをロボットが認識する」

●ペットアプリケーションモジュール

「これは、ペットのようなアプリケーションで、性格づけがされている。青を見ると歩き出し、ピンクは嫌がる。頭を叩かれると不機嫌になる。もっと叩くと、もっと不機嫌になる。機嫌を良くするには頭を撫でる。頭にスイッチが入っているので、それで叩かれているのか撫でられているのか判断するようにできている。いっぱい撫でられて機嫌が良くなって、尻尾を振る、拍手をするといった感じ」

----ソフトモジュールに記録できるコマンドやモーションの数は。

「コマンドやモーションの数は、基本的にメモリーがある限り収録できる。今のメモリーは8MB。試作品のロボットで多いのだと、100ぐらい。作ったデータ自体は250ぐらいある」

世界で一番いうことを聞かないロボット

 



----収録されているモーションは。

「4足で動いている身近な動物の動きというと犬や猫なので、ペットを参考にした“立て”、“お座り”、“お手”などといったペット系のモーションを収録。ほか、パフィーの踊り、パイレーツの“だっちゅーの”のポーズ、宴会用のモーションなど約100のモーションが収録されている」

----4つのモジュールの実演を見せていただいたが、例えばモジュールの統合は。

「今は、項目を分けるためにカードを分けているが、必要であれば全部の項目をひとつのカードに入れることは技術的には可能。ただ、全部一緒に入れるとますます何をするかためのもの分からないというのはあるけど」

「世界で一番いうことを聞かないロボットだね。“エンタテインメントロボット”は、「歩く、こける、起き上がる」といった行為が許されるもの。例えば、原子炉で作業をするロボットは、「歩く、こける」といった行為は許されない。間違いが許されない。間違いが許される、何をするか分からないというロボットとしては、はじめてなのでは」

 実物を見た感想は、「おもしろい」「かわいい」につきる。ロボットとはいえ、「お手」をしたりすると、「きゃー、かわいい」と反応してしまった。開発者の意図にまんまと引っ掛かかってしまった。

 2000年までの市場参入を期待しよう。そして、その先のロボットの進化に期待したい。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン