“世界で一番小さな放送局”というキャッチフレーズでデジタル業界をビデオレポートする放送局がある。その名は“Kanda
News Network”(KNN)。その社長兼プロデューサー兼ディレクター兼シナリオライター兼カメラマン兼アナウンサーが神田敏晶氏だ。
KNNが公式発行する“PRESS”カードを24時間身に付けている。このプレスカードを胸に、数々の大イベントに堂々と入場。ゴア副大統領やビル・ゲイツ会長とのツーショットを腕を伸ばして自分に向けたビデオカメラに収めた。
寝袋とテントとビデオカメラとをカートにくくり付け、アポイントなしで世界の著名人に直接アタックする。フランスワールドカップではチケットなしで取材を挑み、一部では“デジタル猿岩石”という名で一躍有名になった。ビデオジャーナリスト神田敏晶氏にアメリカでのベンチャー企業訪問記を語っていただいた。
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KandaNewsNetworkの神田敏晶氏 |
----今回、訪ねたベンチャー企業にはどういった会社がありましたか?
「東海岸、西海岸のベンチャー企業を9日間で大小合わせ、約20社程度まわりました。シリコンバレーの街角では、バスの横に“infoseek”と書いてあるバスが走っていたりして、インターネットビジネスが新しい産業として根付いていることを実感しました」
----思い出深いのは?
「印象に残ったのは米リンクエクスチェンジ社(サンフランシスコ)と米New
Paradigm Communications社(ニューヨーク)。リンクエクスチェンジ社は、最初2人で始めたバナーエクスチェンジの会社で、現在25万以上のメンバーサイトを抱えるWeb最大の広告ネットワーク。現在は従業員70人で年間4億円以上の利益があるそうです。New
Paradigm Communications社は週に1回、約2万人の会員にシリコンアレーの最新情報を提供しています。ここのWebサイトでシリコンアレーの情報が何でも揃うのですが、たったの3人で作っているというから驚きです」
・バナーエクスチェンジとは?
お互いのホームページで
バナー広告を交換して掲載するシステム。ホームページで宣伝を流してもらえば多くの人を集めることができるが、持ち主にいちいち依頼するのは大変な作業だ。そこでホームページ上の場所を提供し、お互いのバナーを表示し合う仕組みが登場した。この一連の作業を米リンクエクスチェンジ社では行なっている。
・シリコンアレーとは?
西海岸のシリコンバレーが、広大な土地で斬新なテクノロジーやソフトウェア開発をしているのに対し、ニューヨークはマンハッタンのシリコンアレーは、工場など大きな建物がない狭い地域だ。そもそも“アレー”とは“小道”という意味。マンハッタンには出版や広告・放送などの世界の窓口が集まっており、比較的新しいインターネット技術も注目を浴びている。マンハッタンの南地区は、いつしかシリコンバレーに呼応して、シリコンアレーと呼ばれるようになった。
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![]() | 米New Paradigm Communications社がテナントして入居しているNYITC(左)と、発行人ジェイソン・シェイバカス氏(右) |
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----神田さんが編集長の1人を務めているメール配信サービス“日刊・デジタルクリエイターズ”は、3人で発刊されています。3年後なら総勢100人で億万長者というのも夢ではありませんね。
「そうはいきません。私の放送局や電子メールは、儲かるという状態からはほど遠いのです。今回の出張費用ですが、飛行機代はワールドカップの寄り道ということでタダ。またアメリカのマルチメディア企業のレポートを某シンクタンクに提出したり、講演会で今回のビデオを紹介したりでようやく費用を捻出してるんですよ」
----そのお話しで判断するかぎりでは、同じように少人数のメール配信をしているNew
Paradigm Communications社と、神田さんとはビジネスとしての成長性に大きな開きがありそうですね。
「そうですね。アメリカはベンチャー企業が非常に育ちやすい風土だと思います。まず、インキュベーター(企業孵化器)の機能が日本とはまったく違います。インキュベーターとは、創業して間もない企業を育てることを目的として作られた施設。例えばアメリカではインキュベートセンターで、オフィスに必要なOA機器の貸し出しから、技術相談、マーケティング、マネージメントなどの経営相談支援まで行ないます。一方の日本では、家賃を安くするだけでインキュベートしていると思っている」
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マイクやビデオカメラなどを持ち込んで、ホテルの一室が放送局に変身 |
「また、投資家であるベンチャーキャピタルに関わる制度が日本に比べて整備されているという点もありますね。例えば、寄付金には税金が掛からない、失敗した投資分と成功した投資分とを合算してプラスになった分に税金が掛かるといった点です。ベンチャーを取り囲む投資家の税制措置などの土壌がきちんとできているのです」
「日本に比べて株式を店頭公開しやすいという点も大きな理由の一つでしょう。ベンチャー企業が大きくなるまでの猶予期間としては5年がめどなのですが、その後も“エンジェル”と呼ばれる個人投資家によりサポートされます。これらによってベンチャー企業への投資が活発に行われ、活力ある企業が創出されるんですね。ベンチャービジネスを志す人たちはみな、目がギラギラしているのではなく、キラキラしているんですよ」
「どんなカードがきても勝てるという意気込みと、小さなビジネスチャンスをどれだけ派手に大きく見せることができるかで、勝負は決まるのでしょうね。そういう気風がシリコンバレーを代表とする米国のベンチャー風土には溢れていた気がします」
