このページの本文へ

【INTERVIEW】小笠原朗日本開発銀行新規事業部副長に訊く~知的所有権担保融資の現状~

1998年08月03日 00時00分更新

文● 報道局 佐藤和彦

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 日本開発銀行(開銀)は、特許や著作権を担保にして融資を行なう“知的所有権担保融資”を'95年より行なっている。技術力はあるが、不動産など担保を持たないベンチャー企業の研究開発を支援するのが、主目的である。開銀の本店だけで、すでに40社、残高にして約30億円分が同融資の適用を受けているという。“知的所有権担保融資”の仕組みや現状について、小笠原朗日本開発銀行新規事業部副長に伺った。

----“知的所有権担保融資”とは、どういう制度なのでしょうか?

「“知的所有権担保融資”は通称で、正式には“新規事業育成融資”といいます。この制度ができたのは、'95年のことで、その少し前から、日本では、第3次ベンチャーブームがおきていました。しかし、日本には、アメリカのような、起業段階や発展段階のベンチャー企業に投資をする投資家、いわゆる“エンジェル”が存在しなかった。また、銀行が中心となって、ベンチャー企業に投資を行なう企業としてベンチャーキャピタルが作られたものの、投資を行なう上で、株式公開を前提とするなどの条件がつけられるなど、ある程度成長した企業を投資の対象にしたものだった」

「そこで、日本でも、企業段階や発展段階のベンチャー企業を支援する融資制度はできないか、ということで、作り出された制度です。よく、『アメリカの制度を真似して作ったのですか?』と尋ねられることが多いのですが、アメリカにはこうした仕組みはありません。担保をとらずに、融資ではなく投資をしてくれる層が存在するからです。開銀のほか、通産省、民間銀行、ベンチャーキャピタル、日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(パソ協)のメンバーが集まって勉強会を開き、その中でいろいろと研究して作り出したもので、日本独自のものです」

----どのような企業や事業が融資の対象となるのでしょうか?

「売上が20~30億円、従業員100人程度の発展段階にある企業で、技術志向性が高い企業が、融資の対象です。開銀としては、特許に担保性がある、と認定できれば、技術力のある会社と認定する、というスタンスです。重要なのは、技術志向性が高いという点で、いくら成長性は高くてもラーメンのチェーン店などは、融資の対象にはなりません。また、たとえばゲームソフトを作っている会社の場合は、アミューズメントだから駄目ということではありませんが、しっかりした技術がなければ、融資の対象とはなりません」

----どのような知的所有権が担保となるのですか?

「特許でカバーされている事業で、その事業に事業性があれば、担保とみなします。ある特許が、担保になりうるかを検証する作業は、その企業の持つ技術力とその技術の事業性を見極める作業とまったく同じといっていいでしょう。開銀は、原則として無担保融資はできないので、苦肉の策で知的所有権を担保にとる融資を作り出したという側面があります。したがって、限りなく信用貸しに近く、担保は形式的にとるだけ、という批判はあり、それがまったく的外れの批判とは言えません。しかし、担保は、どんなものでもよいのではなく、処分の可能性や市場性の有無をみます。また、複数の特許や著作権で、ある事業が支えられているとしたら、その特許や著作権はすべて担保としてとります」

----担保の評価はどのように行なうのですか?

「いろいろと検討する中で、開発コストをもとに計算する方法や、類似の特許や技術の取引事例をもとにする方法などが検討されました。しかし、開発コストを特定するのは容易ではなく、類似の取引事例もそれほど多くないといった理由から、アメリカでM&Aをする際に用いられるディスカウント・キャッシュフロー法(DCF)という方式を採用することにしました。これは、向こう何年かの売上や経費を想定し、売上から経費などを引いたキャッシュフローを一定の比率で現在価値に割り引く、という方式です。“現在価値に割り引く”とは、ある金額の投資が、何年か後に何%プラスされて返ってくる、という前提をもとに、何年か後に、ある金額のキャッシュフローが得られるならば、現在どれくらい投資してももとがとれるかを、逆算して求めることをいいます」

「この割引率は、知的所有権担保融資では、20%としています。この場合、1年後に120のキャッシュフローが得られる事業なら、現在価値は100である、ということになります。すなわち、100以下の投資で1年後に120のキャッシュフローが得られるのなら、リスクを見込んでも割に合うというわけです。このように算出された事業の価値を担保価値とみなします。担保価値と融資の上限との比率は、通常の担保と同じように7割程度です」

----開銀の融資の実績は?

「開銀の本店だけで、これまでに40社に融資をしています。融資対象となった事業は、マルチメディア関連、メカトロニクス、その他に分けると、その比率は4対3対3で、最近は、マルチメディア関連が増えつつあるようです。この40件のうち、ほとんどが、特許かプログラム著作権を担保にしています。1社だけ実用新案を担保にした会社があります。また、コンテンツを作る会社の場合は、コンテンツの著作権を担保にとったこともあります。しかし、いくら担保をとったからといって、もし融資先の企業が行き詰まっても、土地や建物のように、簡単に処分できるものではありません。40社のうち、多くは順調に発展していますが、わずかながら倒産しているところもあるため、年間1件につき1億円がガイドラインとして定められています」

----民間銀行も含めて、最近の知的所有権担保融資の傾向は?

「産業振興に熱心な銀行を中心に、民間銀行も、制度ができてしばらくは、融資を積極的に行なっていた。ただ、特許をもとにして事業性を判断する、という作業は、いろいろと手間がかかり、面倒だったために、民間銀行のほとんどは、担保の評価がしやすいプログラム著作権を担保にしていました。民間銀行で、特許を担保にしたケースは、ほとんどなかったようです。制度発足当初は、開銀と民間銀行が共同で融資をしたこともありましたが、民間銀行は、特に、ここ1~2年、腰がひけた感じがしています」

「いまでは、開銀が孤軍奮闘している、という感じです。特に、ちょうど1年前くらいから、民間銀行の貸し渋りが激しくなっているようで、いままでは、開銀の門はたたかなかったような優良な企業が融資相談にくるようになりました。知的所有権担保融資は、運転資金に協力するものではなく、長期の研究資金を固定的に貸す制度です。とはいっても、民間銀行が、きちんと運転資金を供給したうえで、それと連携してやっていかないとなりたたないのではないか、と思います」

    問い合わせ先:TEL.03-3244-1976

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン