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【INTERVIEW】藤本健『TECH B-ing』編集マネジャーに訊く、デジタル技術者の転職事情

1998年07月22日 00時00分更新

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 不景気に覆われ、過去最高の失業率を記録する日本経済だが、コンピューターなどデジタル技術の分野だけは、今後も技術革新とマーケットの拡大が期待される数少ない分野ともいえる。デジタル技術者の転職の実態や、企業の求人動向などについて、(株)リクルートが発行する技術者向けの求人情報誌『TECH B-ing』(水谷智之編集長、公称8万部)の藤本健編集マネジャーに伺った。

藤本健氏 藤本健氏



----最近の『TECH B-ing』の部数はどうか?

「最近は景気が非常に悪いこともあって、求人広告は減少している。しかし、部数は、ここ2年間、毎月の部数は前の年に対して十数パーセント増ぐらいの伸びを続けている」

----最近の特集記事で、反響の大きかったものは?

「半年ぐらい前に行なった“転職するリスク、続けるリスク”という特集は、かなりの読者の支持を得た。実際に転職するかどうかは別にしても、転職について何も考えていない人はいない、ということだろう。これ以外で、好評だった特集のタイトルは、“新エンジニア限界説”や、“技術者の「やりたい」を実現する会社の利用法”などで、技術者としての今後の人生をどう考えるかというテーマは関心が高いようだ」

----どのような分野の技術者が求められているか?

「ハードの技術者は、メーカーが独自で育てる傾向にあり、求人全体の2割くらい。中心はプログラマーで、CやC++のプログラマーは恒常的に求められている。VisualBasicも業務系のシステム開発に用いられることが多く、求人も多い。Javaのエンジニアは探せばある程度で、求人はほとんどない。UNIXからWindows NTへのシフトが急速に進んでおり、NTの求人も急激に伸びている。求人はNTが圧倒的に多い。その一方で、UNIXの技術者の求人も微増を続けている。これは、ネットワーククライアントがNTでも、システム全体がUNIXで作られていることが多く、それを管理できる人が求められているためだ」

----企業の求める人材の最近の傾向は?

「1~2年前は、ネットワークエンジニアの経験のある人材が求められていたが、最近ではネットワークの知識は、あって当たり前のものなっている。ネットワークエンジニアとしての募集は、いまではあまり目立たない。最近では“コンサルティングSE”といわれるような求人が増えている」

----コンサルティングSEとは?

「基幹業務のシステム・インテグレーションやコンサルティングをできるSE。流通や製造業など、顧客の業務に関する知識を持ち、システムについても分かり、さらに客に提案を行なえる人材のことをいう。これらの能力を兼ね備えた人材がたくさんいるかと言えば、あまりいない。企業も、技術のレベルよりも、コミュニケーション能力や、顧客にいろいろと提案できる能力を求めているようだ。人と話ができないようなタイプのプログラマーは、あまり求められていない」

----大手メーカーが、『TECH B-ing』を通じて求めている人材は?

「ある組織で下働きをする人材を求めるのではなく、チームのリーダーとしてプロジェクトを動かしていくタイプの人材が求められている。変化の激しい世界なので、中で育てるよりも、外から引っ張ってきてでもいいから、人材を求めている。年齢的には、30歳前後でのリーダークラス。『TECH B-ing』を利用しつつ、ヘッドハンティングの会社も並行して利用しているようだ」

----企業の求める人材は、簡単に見つかるのか?

「大手の求める人材は、率直に言って、『こんな人日本にいるのだろうか?』と思うようなことが多い。特殊な分野での技術があり、その要求水準が高い。さすがに、“Javaの経験5年以上”というような求人ははないが、それに近い要求をするケースがある。“ライバルメーカーのあの製品を作ったあの人”以外には思いつかないような求人をしてくるケースもある」

----要求水準の高い求人に対して、企業が提示する給与額はどうか?

「高額の給与で採用しているケースはほとんどない。それまで、一般的な水準の給料をもらっている人が転職しても、給料が大きく増えることはない。外資系の企業でも、会社ごとにばらつきはあるが、入った会社の給与水準を大きく上回る給料が支払われることはほとんどない」

----過去の転職ブームのころと比べて、現在の状況はどうか?

「80年代のバブルの時に技術者の転職ブームがあった。当時は、転職すると給料が上がったケースが多かったので、少し浮かれた部分もあった。6~7年前にも転職ブームがあったが、この時は、ダウンサイジングによって、汎用機からPCへ移行した時期で、ソフトハウスもたくさん潰れている。特に、COBOLの技術者は、生き残れなくなって他の業界に転職した人も多く、一番悲惨な時期だった。今は、確かに景気が悪いが、技術自体が廃れるわけではないので、それほど悲惨な状況ではない」

----それでも転職は増えているようだが?

「バブルのころのように給料が上がるからといったような浮かれた感じはないが、それでも転職を考えるのだから、一人一人にとっては深刻な問題をはらんでいるともいえる。というのも、結局、これからの人生をどうするかということが転職の重要なポイントになっている。このまま技術者としての仕事を続けられるのかあるいは管理職になるのか、大企業にずっといるのか、独立するのかといった自分の人生に関わることが転職のきっかけとなっているようだ」

----ずっと技術者でいたい、あるいは独立したいという傾向は強いのか?

「アメリカならば50歳になっても、現役のプログラマーをしている人もいる。大きなメーカーで、研究所の所長として、技術の現場の指揮をとることもある。日本も、そうなってほしいと思っている技術者は多いようだ。また、独立したいと思う技術者も多く、SEの派遣する会社に入った上で、仕事をしながら顧客を探し、いい顧客がいたら、その顧客を抱えたまま独立してやろうと思っている人も多い。必ずしも、大企業指向が強い訳ではない」

・『TECH B-ing』



(株)リクルート発行の転職情報誌『B-ing』の臨時増刊として、技術者向けの求人情報誌として'91年6月に創刊、毎月第1木曜日発行。公称部数は8万部。

 現在リニューアルを進めており、9月3日発売号からは、創刊号から続いているアインシュタインの表紙をやめ、毎号違った表紙にする予定。また、誌名もB-ingを外し『TECH』だけにする予定という。リニューアル号からは、付録として、ビデオによる求人情報や、アメリカの最先端技術を紹介したCD-ROMをつけ、インターネットとの連動させた誌面づくりを目指している。

(報道局 佐藤和彦)

・(株)リクルート
  http://www.recruit.co.jp/
・デジタル・ビーイング
  http://job.rnet.or.jp/BING/index-j-s.html

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