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【INTERVIEW】「インターネットは、世界を覆う一枚の紙である」『本とコンピューター』オンライン版編集長・室謙二氏に直撃

1998年07月17日 00時00分更新

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 『季刊本とコンピューター』は、8月17日に、オンライン版の『The Book and The Computer』を創刊する。(http://www.honco.net/)和英両国語版があるが、内容は同一。東京とカリフォルニアの2班で編集する。今回編集長(オンライン版)を務める室謙二氏は、「デジタル革命後の印刷物について、世界の読者とともに21世紀までに究めたい」と意気込みを語った。



----『季刊・本とコンピューター』のオンライン版が8月17日に創刊されますね。

「現在、Online Journal 『The Book and The Computer』制作の真っ最中です。このプロジェクトは、“The Future of the Printed Word”のサブタイトル通り、“21世紀の印刷物はいったいどうなるのだろう”というテーマからスタートしました。米国では、ひとり当たり年間70kgもの紙を消費しますが、インターネットはそれを見直すために、注目されているのではありません。テレビや映画や広告と結びつき、金儲けにつながるメディアとして煽られています」

「しかしこのような米国モデルが通用する国は、世界でごくわずかです。13億の人口を賄うほどの紙がない中国では、インターネットは双方向コミュニケーションの手段やマルチメディアとしてより、テキストを読む手段つまり紙の代替物になるものとして期待されています」

「インターネットは、地球を覆う一枚の紙です。“本とコンピューター”という世界を巻き込む大テーマをこの紙の上で論じていきます。デジタル革命以後の印刷物の未来はどうなるのかを考え、その可能性を21世紀までに何とか追求したいという想いを込めて、このプロジェクトを始めました」

----このオンラインプロジェクトは東京とカリフォルニアの2班で遂行されるそうですが。

「今一番苦心しているのが、英語と日本語のバイリンガル編集です。アメリカ、フランス、イタリア、イギリス、中国、韓国、タイ、ボスニアなど世界中からオンラインで寄稿してもらい、世界中の読者に読んでもらいます。そのため、事実上の世界の共通語としての英語、そして日本語で刊行します」

「単に日本語版を英語に翻訳すればいいわけではありません。日本だけで通用する話題や日本語に依拠した論理あるいは表現を根本に戻って直さなければなりません。自国の自分の言語の読み手しか想像していない寄稿では、多様な文化を持つ世界中の読み手の心を掴めない。固有名詞の説明や表現の書き換えなど、単なる翻訳、編集の域に留まらない大変な作業です」

----具体的にはどのような内容になるのでしょうか。

「まず日、米、中国を中心とした本とコンピューターに関するグローバルクリッピングを主に扱います。また、世界各様の歴史を持つ本の文化から新しいコンピューターの世界を論じたいですね。ヨーロッパでのオンライン図書館の実態にも触れます。他には6ヵ月間“円卓議論”の特集を考えています。参加者は、ロジェ・シャルチェ氏(仏)、ハワード・ラインゴールド氏(米)、タネート・ウォンヤンナワ氏(タイ)、劉志明氏(中国)、日本からは上野千鶴子氏の6人。1回目は“本の未来”、2回目は“英語はインターネットの共通語で良いか”といった内容です。ここで本とコンピューターに関する議論を世界的な視点からするわけです」

----日英の2ヵ国語なのに、中国の関与が大きいですね。

「中国では、文化大革命発生後の文書の公開が強く求められています。人民日報をはじめ、膨大な量の情報がデジタル化されています。世界中の情報をテキストで取り寄せたいというデジタル社会への期待も大きい。紙に刷るかわりなのです」

「米国などが中国のメディアビジネスに高い関心を持っているので、報道したいのも事実です。米アマゾンコム社のオンライン書店のような試みは、実は中国にも存在します」

「世界の印刷の歴史はグーテンベルクの活版印刷から始まったかのように受け止められがちです。しかし東アジアでは19世紀までの千数百年の間、木版印刷が発展しました。文字と図版とが一体となった一種のマルチメディアです。この地域では、活版の歴史はたかだか150年にすぎません」

「アラブのように教典といえば朗詠するものという文化もある。本のあり方は、世界中で異なるのです。教典のCD-ROMのあり方も地域ごとに違います」

----インターフェースは、当然マルチメディアを駆使したものになるのですか。

「読者にオンスクリーンで“読んでもらう”ことを最も意識しています。“読むページ”は単色使いで、写真も白黒と従来通りのカラフルなマルチメディアページというように区別しています」

「フォントの問題、画面の見づらさ、画面では1回で読める量が少ないという難点はあるし、その解消に向かって努力はしますが、オンスクリーンでテキストを読む習慣を培わないかぎり、世界と論理で切り結ぶことができません。今回はあえてPDFは使わず、HTMLでのタグ付けにし、紙に頼らないWeb上のテキストを追求していきたいと思います」

「とにかく、世界でも例のない、初の挑戦です。内容もインターフェイスもTrial and Errorで流動的に作り替えていきたい。今、21世紀まであと3年を切りました。それまでに、世界中の人と投稿、編集などのプロセスを共有し、これからの印刷物を考えていきたいという想いでいっぱいです」と締めくくった。(報道局 篠田友美)

http://www.honco.net/

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