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【INTERVIEW】球状半導体は世の中を一変させる可能性を秘めている―BALL Semiconductor社長、石川明氏

1998年07月09日 00時00分更新

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 従来のLSIは、円盤状のシリコンウエハーの表面に回路を露光して、トランジスターなどを生成していた。BALL Semiconductor(BALL)は、直径1mmという球状のシリコンボールの表面に回路を露光するという新しい技術を開発している。球状の表面に回路を形成するメリットは、単位体積あたりの表面積が、もっとも大きくなるからだ。単純に小さいということも半導体を基板上に実装する際に有利な条件となる。また、ひとつの工場内で単結晶生成から、露光、エッチングなどの過程を行なうことで、コストを下げると同時に、短時間での製品の製造が可能という。現在は開発の段階だが、すでに球状シリコン単結晶の上にMOSダイオードを形成するところまで来た。

 球状半導体の完成、実証が見えてきたなか、BALL Semiconductorの社長兼CEO、石川明氏ならびに同社の筆頭副社長兼COOの仲野英志氏にお話を伺った。

 

左から、BALL Semiconductor社長兼CEOの石川明(いしかわ あきら)氏、筆頭副社長兼COOの仲野英志(なかの ひでし)氏
左から、BALL Semiconductor社長兼CEOの石川明(いしかわ あきら)氏、筆頭副社長兼COOの仲野英志(なかの ひでし)氏



BALL Semiconductorの目指すところ

----御社のテクノロジーを簡単に説明してください。

「今までの半導体は過去40年間、平面状2次元の世界の技術開発をしてきましたが、われわれが目指すのは3次元の世界、球面に集積回路を作ることです。従来と違うのは、すべてのプロセスをパイプの中で行なう点です。原料が製品になるまで、パイプの中でほとんどの工程が行なわれます。現在は、その生産技術の確立に全力をあげているところです。まず材料作り、球面シリコンの生産から始まって、次はICを球面上に構築することになるわけです。この過程に膨大な苦労があります」

「1999年の暮れまでには、ボールの表面上にICを作るところまでの開発を終えたいと思っています。製品開発は来年から入る予定です。たぶん、サンプル出荷は来年中にできると思います。1997年から開発を始めて、3年間で開発を行なおうと考えていていますが、そのうち1年半が経って、現状はどうやって作るかがわかってきたところです。球面集積回路などを今週から作ろうと、集積回路用の露光装置などの最終組み上げに入っています」

球面上に形成する回路の概念図球面上に形成する回路の概念図



----今まで1年半開発を行なってきて、当初の予定から考えて順調に進んでいるのでしょうか。

「結果は順調です。思っていたよりも早く進んでいるくらいです。今の時点でマスク、設計、露光のための光学系もできたので、じきに球面上にICは出来るでしょう」

----というと、当初の3年間の予定よりも早く、開発が終わる可能性もあるわけですか。

「そんなに順調にはいかないでしょう(笑)」

ユニークなノウハウがボールを実現させる

----従来のウエハーとボールとでは、設備投資の面ではどう違うのでしょうか。

「だいたい半導体の8インチウエハー1万枚から2万枚の月産能力で設備に1500億円かかると言われています。それに対して、同じ面積を持つボール上にICを作る場合の投資金額は100億円程度と想定しています」

----なぜ生産ラインのコストが一桁以上も違うのでしょうか。

「生産装置を買うと1台2、3億円しますが、ボールの場合は同じプロセスを内径2mmのパイプの中を直径1mmの球が通過していく中で行なうわけです。内径2mmのパイプというと、ちょうど、つまようじと同じ太さです。600mから1000mの長さをひとつのプロセスに必要としますが、細いパイプですから値段はそう高くありません。個々の装置が小さいので、価格も安くできます。露光に使うミラーは1cm程度のものなので、もしダイヤモンドで作ったとしても1億円もしないでしょう。工場は、細いパイプが8mくらいの高さでグルグルとプロセスごとに回っているようなイメージになります。今までの半導体工場とは大きく異なったものになるでしょう」

----クリーンルームは必要ないのですか。

「チューブの中だけしか通りませんからクリーンルームも必要ありません。露光過程だけは、パイプから出さないとできないので、3畳程度の小さなクリーンブースを作って対応します。ボールがいったんパイプから出て、露光されて、またパイプに戻るわけです。そして、パイプの中を通過しながら現像が行なわれます」

----クリーンルームなどのコストも削減できるので安くできるのでしょうか。

「クリーンルームだけでもウエハーファブ用を作ると100億円はしますが、ボールの場合は不要ですから、そのぶんも安く済むことになります」

----パイプの中で行なわれるプロセスは従来と同じなのでしょうか。

「プロセスの順番はまったく同じです。過去40年積み上げてきた半導体の要素技術があるので、それを流用しています。そのため、短い期間で開発できるという面もあるのです。われわれなりのユニークなノウハウはありますが、まったく新しい技術を作り出しているわけではありません」

----球状では、生成した回路に電極を付けるような場合の位置決めが困難ではないのでしょうか。

「最初のときにボールにアライメントマークを付けておいて、このマークにしたがってレーザーで位置を正確に決めるので、それほど難しくはありません。位置決めが必要なのは、露光する際と電極を付ける時だけです。通常のパイプの中を通る部分は、パイプの中を非接触で中空に浮いた状態でボールが流れるので、位置は問題ありません。これをノンコンタクトプロセッシングと呼んでいますが、この技術はBALLの技術の要のひとつです。ただ、露光ではマスクからICの設計パターンを半球状の鏡を使って転写するため、ボールを静止させなくてはならないので、ボールの下側をつかむ必要があります。このときに、アライメントマークを使った位置決めを行なうわけです。1mmのボールというと、すごく小さく位置決めが難しいように思われますが、マイクロマシーンの世界から見ると、1mmもある巨大な物体ということになります。実は、それほど難しいものではありません。ちなみに、ボールの下側は、最終的には電極の内側、回路の形成されない部分になるので、露光されなくても問題ありません」

原料となる粒状多結晶シリコン。この中から直径2mm以下のものを選んで使用する。原料となる粒状多結晶シリコン。この中から直径2mm以下のものを選んで使用する。



----1mmの球状シリコン球を作るのは、従来の引き上げ法とは違うのでしょうか。

「まったく異なります。粒状多結晶シリコンを2mmのパイプの中に入れて、落ちていく途中で、一度熱を加えて解ける寸前にまで暖めてから、2000度から8000度くらいのプラズマの炎の中を通して一瞬で溶かしてから徐々に冷やして単結晶にします。ただ、この状態では、まだ真球ではないので、ボールベアリングを磨くのと同様の方法で、磨いて真球にします。これは、ウエハーの表面を磨くのと同じです」

----1mmという大きさはどのような理由で選ばれたのですか。

「特別な理由はありません。シリコンにICを実装する場合、シリコンの表面の部分しか使わないので、中身は無駄になります。ですから、なるべく小さいほうが効率がいいわけです。別に0.9mmでも良かったのですが、きりのいい数字の1mmを選びました。ちなみに、この1mmというのは最大径であって、最終目標は20ミクロン(μm)、脳細胞と同じ大きさまで小さくしたいと思っています」

1mmのシリコン単結晶。ボールペンの先と比べるとその大きさが良くわかる。1mmのシリコン単結晶。ボールペンの先と比べるとその大きさが良くわかる。



ボールに立ちはだかる壁とその超えかた

----どういう形で実際に実装するのでしょうか。

「フリップチップのように樹脂上に載せることを考えていますが、使い方はユーザーの自由です。パッケージが不要なのは、従来の四角いチップは、角があるため、非常にストレスに弱く、保護するためにパッケージする必要があったわけです。ところが、球の場合はストレスに強いので特別なパッケージは不要です。しかし、メモリーなのか論理回路なのかわからないと困るので、識別用の色をコーティングすることは考えています。信号を取り出すための電極は回路を露光しない部分の縁、回路の端に、40ミクロンのアルミニウムの半球を付けます。これでは電極を取れる数に限りがありますが、球の表面のどこからでも取り出そうと思えば取り出せるので、いくらでも電極を増やすことはできます。ただ、そうなると設計が難しくなるのでしょうが……」

----1つのボールに持たせられる機能には限界があるのではないでしょうか。

「クラスタリングと呼んでいますが、機能の違うボール同士を複数つなぎ合わせて、VLSIを作ることもできます」

クラスタリングの概念図クラスタリングの概念図



----放熱問題はないのでしょうか。

「冷却効果のある球、たとえばペルチェ素子であるとか、単純な熱伝導性の高い金属球を並べて冷やすことを考えています。発熱の多い部分ではこれで冷却します。通常の冷却はボールの表面の空気の対流によって、熱が抜けると考えています。球状なので、びっしりと並べても空間があくため煙突効果で自然に冷却が行なわれるわけです」

BALL Semiconductorの見る未来

----製品はどのようになるのでしょうか。

「実は、実際の製品についてはあまり考えていません。出来てみないと分かりませんが、たとえば、基板の中に埋め込んでしまったり、回路の中で信号の訂正に使ったりといったこともできるでしょう。小さいので実装する場所を選びませんから。ただ、ICが考えられた当初、多くの人がその用途が想像つかなかったように、ボールの場合も将来思いも付かなかったような使われ方をすると思います。たぶん、将来の頭のいい人が面白い使い方を考えるのではないでしょうか」

----近々、カンファレンスを開かれるそうですね。

「ボールセミコンダクターテクノロジーカンファレンスと題して、7月11日よりBALLのコンセプトとそれがどのあたりまで来ているのかを、将来のビジネスパートナーとなるであろう人たちに見てもらうのが目的です」

 球状半導体技術の世界にはさまざまな障害が存在している。しかし、その完成は目前に迫ってきているように思える。自らの成功を信じて前進を続ける同氏の言葉で印象に残ったのは、

「ジャック・キルビーが40年前にICを開発したとき誰もこれが今日最大の産業になるとは思わなかったし、本人もそう思っていませんでした。同じくらいのインパクトをもたらす力が、ボールにもあると信じています。たとえば、今のチップで四角の端と端にあるトランジスターではものすごく距離があります。ボールの場合は相対的には真ん中が一番遠くなりますが、距離は半分ですみます。端と端がつながってしまうのですから」

「実際の製品については今のところ具体的には考えていません。まずは、球状半導体が有用な技術であることを証明することが先決だからです。理論上はこういうことができるはずだというコンセプトに基づいて、それを実現するには計りしれない障害がありますが、それを実現するために現在はコツコツと努力している段階です」

(報道局 植草健次郎)

http://www.ballsemi.com/

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