(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は、24日、石田英遠(いしだひでと)弁護士を招き、“ソフトウェア・マルチメデイアコンテンツと独占禁止法”と題する知的所有権セミナーを開催した。
同セミナーでは、独禁法の概説に加え、ソフトの開発、販売、流通と独禁法の関係について解説。(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)がプレイステーション(PS)用ソフト、ハードの販売に関して行なっている審判について、法律家の立場から解説を行なった。
SCEの審判とは、SCEが販売しているプレイステーション用ハード、ソフトに関して、SCEが、卸売業者と小売業者に対して、ソフトの販売価格の維持(値引き販売の禁止)、中古ソフトの取り扱い禁止、ソフトとハードの横流し禁止を指示したことが、独禁法で定める不公正な取引方法にあたるとして、1月20日に、公正取引委員会がSCEに対して排除勧告を求めたが、SCEがこれを不服として開始されたものである。
石田遠英弁護士。'75年司法試験合格、'76年東京大学法学部卒業、'78年~'84年公正取引委員会に在職。'89年ハーバード・ロースクール卒業、'89年米国の司法試験に合格。現在、アンダーソン・毛利法律弁護士事務所に、弁護士・ニューヨーク州弁護士として勤務。'95年から東京大学講師を兼務。 |
もし著作権法がなかったら、SCEの行為は違法ではないか
「SCEの行なった再販価格の維持行為、中古品取り扱いの禁止、横流しの禁止は、審判開始決定どおりの事実が認められたと仮定すると、著作権法を抜きにして考えれば、違法行為ではないか」
ゲームソフトは“著作物”か?
「SCEの言い分は、ゲームソフトは独禁法上の著作物であり、販売価格の維持は違法ではない、というものと思われる。一方の公取は、“著作物”は、独禁法と著作権法では概念が異なる、という立場で、独禁法上の“著作物”は、新聞と書籍等を指しており、映画のビデオなどは含まれない、としている。では、ゲームはどうなるかと言えば、著作権法上の著作物と言うことができるものの、独禁法上の著作物かどうかは、現時点では不明である。この点に関しては、司法の判断を待つしかないが、もし、司法判断が下された場合には、独禁法と著作権法で別々の概念が規定されるとは考えにくいので、統一された“著作物”という概念が規定されることになるだろう」
ゲームソフトが独禁法上の“著作物”であったとしても
「もし仮に、ゲームソフトが独禁法上の“著作物”であったとしても、SCEの販売方法が問題となる可能性は残る。独禁法上の著作物である新聞や書籍は、出版社と本屋の間で再販価格維持契約を結び、それを公取に届け出ている。では、SCEが小売店と再販価格維持契約を結んでいたかどうかとなると、現時点において、その契約書が公開されていないことから考えると再販価格維持契約を結んでいなかったが、販売価格が乱れたので、それを是正するために、再販価格維持行為を行なったのではないかと推測される」
SCEは、“著作物”の発行者か?
「PS用ソフトの著作権者は、ソフト開発業者であり、SCEではない、と推測される。そのために、SCEが、著作物を発行する事業者と言えるかどうか、という点も問題となる」
ゲームソフトには、映画の頒布権が存在するのか?
「中古ゲームソフトの販売に関して、ACCSは、ゲームソフトにも映画の頒布権と同等の権利があるとして、中古ゲームを販売している業者を提訴している。ゲームソフトに頒布権があるのかどうか、私にはわからない。ただ、論点となりそうな部分をあげれば、映画は大勢の人を一ヵ所に集めて公開するものであり、ゲームソフトは通常の商品と同じように流通するものという違いがある。また、ゲームソフトに頒布権があるかどうかを認定するのは、行政組織のひとつである公取の仕事ではない。この点に関しては、司法の判断を待たなければならない」
仮に、ゲームソフトに頒布権があったとしても
「もし仮に、ゲームソフトに頒布権があったとしても、それを濫用したと認定されれば、独禁法上違法となる可能性がある。SCEのケースで言えば、通常の商品と同じように販売していたが、販売価格が乱れたので、それを是正しようとして規制したのであれば、違法の可能性が出てくる」
著作物であっても、独禁法は消費者の利益を優先することがある
「再販価格維持行為が認められている著作物であっても、一般消費者の利益を不当に害する場合には、やはり再販価格維持行為は禁止される。また、頒布権でも同様で、ゲームソフトに映画の頒布権が認められたとしても、消費者の利益を不当に損ねていれば、中古ソフトの販売禁止行為は違法となる」
SCE問題の結論は?
「公取は、行政組織であり、司法判断を行なう立場にはない。現状では、ゲームソフトに関しては、映画における頒布権が存在する、という前提で、審判を進めているものと思われる。SCEと小売店が当初から再販契約を結んでおらず、便宜上後から持ち出したのであれば、権利の濫用となる。また、消費者の利益を不当に損ねることがあれば、それらの権利は規制される。SCEの問題では、現時点では、事実関係や契約の実態などが明らかにされていないため、どのような結論が下されるかは予測できない」(報道局 佐藤和彦)
問い合わせ先:TEL.03-5976-5175(ACCS)