このページの本文へ

【E3リポート Vol.2】油断できないタイトル、開発ツール、そしてオンラインマルチプレイヤーゲーム

1998年06月01日 00時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷


●Zelda 64と気になるPCゲームたち

【5月29日】
 前日さっと通り過ぎてしまった展示をもう一度点検するように歩いてみると、任天堂のソフトに引きつけらてしまう。
 やはり「Zelda 64」はスゴイのかもしれない。移動中の主人公がいきなり壁をよじ登ったシーンではギャラリーから「おおっ」と声があがった。馬に乗ってパカパカ走ってるプレイヤーの後ろで「おれもやりてー」といった顔をしたお兄ちゃんが行列を作っていた。 ゼルダ以外にも、任天堂ではバスケゲーの「Kobe Bryant in NBA Courtside」が気になる。私はあまりこの手のゲームは好まないはずなのだが、遊んでみたいと思わせるなにかがあるのだ。とくにコートを走り回る選手たちのアニメーションのなめらかさが絶妙で、気持ちいい。パッドを離そうとしない人が多かったゲームである。


任天堂のKobe Bryant in NBA Courtside

 ULTIMA(http://www.origin.ea.com)の第9作、「Ascention」について、先日、映像には新鮮味がないと書いたが、ゆっくりデモを見ていると、イベントの際の演出などに独特の味があるような気がしてきた。たとえば、魔法(?)を使うことで自分の体が金色に輝くシーンがある。言葉にすると「あ、色がかわった」で済むような小さい演出なのだが、なぜか気味悪いというか不安にさせられるというか、どうしてこういう感じになるんだろう? と思わずにはいられない妙な雰囲気がある。Ultimaの雰囲気ということなのだろうか。やっぱり油断できないゲームです。

 そのほかのPCゲームで気になったというか「好きだな」と思ったのが、Activision(http://www.activision.com)の「FIGHTER SQUADRON」。第二次大戦のヨーロッパを舞台にした正統派フライトシミュレータである。敵の爆撃機の4つあるエンジンのうちのひとつを狙って撃つと、ボカンとそのエンジンだけがはずれて落ちていく。たぶんそういう状況が実際にあったのだろう。かなりマニアック。機体のラインが美しく、うっとりする。太平洋バージョンが求められる。

 画面のカッコよさではPsygnosis(http://www.psygnosis.com/)の世界戦争をテーマにしたリアルタイムストラテジーゲーム「Global Domination」がピカイチ。マウスの操作に応じて3Dの地球がぐるぐる回転する。地球の表面や上空にはたくさんのアイコンが明滅していて、それもいっしょにぐるぐる回転する。文章では説明できないし、静止画でも伝わらないと思うが、ナマを見るとそのぐるぐる感にちょっとクラッとくる。プレステ版も発売されるが、PC版のほうがオススメだ。Psysgnosisのゲームは全体的に画面デザインが洗練されている印象を受けた。ヨーロッパのセンスということか?

 PC系のハードウエアで見落としはないかな、と歩き回ったが収穫はなかった。ただ、自分では見落としていて、同行したプログラマ氏から教えられて見に行った、MATROXの新型ビデオカードが多少気になった程度。
 MGA-G200 128bitデュアルバスチップを採用した「Mystique G200」は169ドル。資料によるとほぼ同じ価格のRendition RIVA128搭載カードと比較して、3D Winbenchのスコアが16%ほど良い。VRAMは標準で8MB。16MBまで増設可能。NT4.0でのマルチモニターにも対応している。

●VB用DirectX Toolkit「Phantom Reality」

 ぜひ見たいと思っていた3D LabやAliasWavefrontなどのCG系メーカーは、出展者リストにはあるのだが、地図にしたがって行ってみるとそこにブースはなく、無造作にイスがごろごろ置かれていて、そこにくたびれ果てた男たちが眠るように座っていた。地図を見て行ってみるとブースがないという現象には頻繁に遭遇した。まずいんじゃない?>E3

 CGソフトを出展していたのはNEWTEKのみで、CG以外の開発ツールに関する展示もほとんど見かけなかった。そんななかで「いいかも」な感じだったのが、Visual Basic用のDirectX Toolkitを出展していたPhantom Reality(http://www.phantomreality.com)。
 このツールキットを使うことで、DirectXの機能をVBから容易にアクセスできる。とくにDirectDrawとDirect3D(Retain Mode)の扱いが格段にシンプルになるだろう。従来、Windows上でゲーム的なソフトを作ろうとすると、Macromedia Directorを使うか、それでダメなら次はいきなりC++するしかなかった。中間がぽっかり抜けているのである。「いや、DelphiでDirectXしてる人たちもいるぞ」なんて声が聞こえきそうだが、聞こえないふりをして記事に都合良く話を進めると、やはりVBでDirectXできると、そのDirectorとC++の間を埋めるという意味で最適なソリューションとなる。

 そして、そこを狙っているのがPhantomRealityだ。使いたいと思う人は少なくないと思うのだがどんなもんだろう? 開発者にして社長のJohn E. Hewitt氏は「日本の開発者たちともコンタクトを取っている」という。そして、話を聞いていた私たちにいきなり「そうだ、キミたち日本で代理店をやらないか? 売り上げの10%をあげるよ」といきなり直球なビジネストーク。面白そうだが、笑ってごまかした。

 ネットで耳にしたうわさ話にすぎないが、VBでDirectXするというストーリーはMicrosoftも当然考えていて、もし彼らが正式にDirectX Control Pac for Visual Basicみたいなものを出してきたらPhantomReality Toolkitのような弱小プロダクトは瞬間的に消滅するだろう、というような話を読んだことがある。もともとPhantomRealityにはDirectStudioという同様の機能を持ったライバルがあったのだが、その開発者は自分の製品の先行きを悲観して権利を売り払いビジネスをやめてしまった。それで、いまこの分野はPhantomRealityが(たぶん)独占しているのだが、かなり危うい独占なのである。PCソフトウエアビジネスの状況が垣間見えますね。


PhantomRealityのHewitt氏。医者姿なのは開発者の悩みに対する処方箋を提供しているからとのこと。

●オンラインマルチプレイヤーゲームの近況

 さて、個人的に今回のE3で集中的に調べたいと思っていたのが、オンラインマルチプレイヤーゲームの状況なのだが、ショーを回ってみた結果、とにかくいろいろな製品があることはわかったものの、整理された印象を持つには至っていない。パッケージゲーム業界が成熟の度を増しているのに対し、ネットワークゲームはまだ黎明のとまどいのなかにあるようにも見える。
 なんて気取った表現をこねくっててもしょうがないので、もっと具体的なケースをもとにネットワークゲームの現状を知りたい。というわけで、お話を伺ったのがVR-1社*http://www.vr1.com/)のYukishi Asano氏である。インタビューの詳細は別ページを読んでもらうとして、結論を言うと、VR-1のビジネスモデルと実際の展開がネットワークゲームサービスをゼロから作って提供して食っていくという見地からはほぼベストなのではないかな、と思えた。

 VR-1の今後の課題はより強いコンテンツを作ることだろう。すでに成功を納めているFighterAceや、ベータテスト中のUltraCorpsは、KESMAI Corporation**が10年前に実現した「Air Warrior」や「Mega Wars」などと内容に大差がない。もちろん、表現の豊かさや遊びやすさでは格段に進歩しているのだが、ネットワークの特性を生かした遊び、という観点では、デモを見た限りこれといった進歩が認められないのだ。じゃあ、老舗KESMAIにはそれができているかというと、GAME STORM(http://www.gamestorm.com)の展示を見た限りでは停滞している感があった。

 KESMAIやVR-1のような、ネットワークオリエンテッドなゲームの制作会社は、まだしばらくの間、基本的な面白さの文法の開発が必要だろう。いっぽう、既存のゲームにネットワーク対戦機能を加えてマルチプレイを提供することはすでに当たり前になった。とくにWindows上ではDirectPlayの定着により、技術的にも安定しつつある。E3を見ていて、しばらくはネット対戦機能で面白さに深みを持たせる方向性がネットワークゲームの主流となる傾向がしばらく続きそうな印象を受けた。それによってビジネスの基盤を整えたMicrosoft's Internet Gaming Zone(http://www.zone.com/)のようなサービスプロバイダがどういった展開を見せるかが、ネットワークゲームの今後の要点となるだろう。

 



(左上)私のネット上のココロのふるさとKESMAIはGameStormブランドで多くのタイトルをデモしていたが、客足はいまいち。新鮮さがないからか、知名度が低いからか、そもそもネットワークゲーム人口が少ないからなのか。
(右上)VR-1のUltra Corpsは電話代が気になるダイアルアップユーザや時間のない会社員でも参加しやすいターン制ゲーム。
(下)MultitudeのFIRE TEAMはチーム同士会話を交わしながらプレイできるシューティングゲーム。28.8kbpsのモデム接続で4人同時プレイ可能。

●次回はロスで会いましょう

 というわけで、E3レポートは終了。
 展示2日目は、人出が少なくなった印象を受けた。ほかの人に聞いても、少ないと感じたようである。運営会社からはまだ正式な来場者数は発表されていないが、今回のE3は人出があまりよくなかったのではないだろうか。
 その原因が出展者にあるようには思えない。それよりも、Atlantaの土地柄がエレクトロニック・エンターテイメントに合わない気がするのだ。CNNやソウルミュージックなど、エンターテイメントの土壌は確かにAtlantaにもあるのだが、CRTに向かってパッドを握り明滅するポリゴンを見つめながら情報空間に没入していくような空気とはちょっと違う。それに、日本からはもとより、カリフォルニアあたりに住んでる業界人にとっても、Atlantaまで来るのはちょっとつらいはずだ。暑いし……。
 そう思ったのは私だけではないらしく、来年の開催場所は古巣のLos Angelsに戻ることが発表された。「E3とLAは自然なコンビネーションである」と主催者のIDSAはコメントしている。

Text by 船田戦闘機
(取材協力:山本智文)

*VR-1http://www.vr1.com
1993年設立。インターネットゲーム、商用オンラインサービス、CATVなどの分野でコンテンツ提供とシステム開発を行っている。“massively multiplayer”(広くたくさんの人が参加できるマルチプレイヤー)なゲーム環境を提供することがVR-1の企業テーマ。

**KESMAIhttp://www.kesmai.com
'80年代半ばにはすでに商用のネットワークゲームを提供していた老舗中の老舗。現在はFox Movie、StarTVなどを擁するNEWSグループの一員として、GAME STORMブランドのネットワークゲームをCompuServe、AOLなどの大手プロバイダに提供している。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン