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【E3リポート Vol.1】目玉には欠けるが、話題作目白押しのE3 '98

1998年06月01日 00時00分更新

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5月末のアトランタは真夏の東京なみの暑さ。

【5月28日(アメリカ時間)】
 暑い。暑すぎる。「Hotlanta」という言葉があるくらい、ここAtlantaは暑い。西海岸のカラッとした暑さと違いそれなりに湿気があって、その暑さの性質は真夏日の東京に近い。
 いま私は「Electronic Entertainment Expo(E3。5月27から30日まで開催のPCゲームおよびゲーム機の展示会。http://www.e3expo.com/index.html)」の展示会場からホテルに戻ってきたところだが、さっそくエアコンをガンガンに効かせ、となりのコカコーラ本社を窓越しにながめつつCoca-Cola Classicをプシッと開け、糖分と水分を補給しながらこの原稿を書いている。

 体温が下がり血糖値も回復したところで考えてみるに、今年のE3にはひとことで言い表せるようなトピックはなかったといっていいだろう。まだ初日なので、明日以降、なんらかのコンセプトが浮かび上がってくる可能性はあるが、特定のメーカーが話題をさらうとか、あるジャンルのソフトが脚光をあびるといった目立った動きはなさそうだ。
 そのかわり、というわけでもないが、新作ソフトは膨大で、主催するIDSAの発表によると、1600本のニュータイトルが今回発表されたらしい。このくらい量があると、誰でも「あ、これ遊びたいな」と思える作品に出会えるのではなかろうか。月並みな表現になるが、ゲーム市場が成熟の域に達したということなのかもしれない。
 とまあ、全般的な話はこのくらいにして、出展各社それぞれの展示内容を見ていこう。初日はメジャー企業の動きを中心に進め、それ以外の話題は明日以降に取り上げる予定である。

●セガ:Dreamcastはお話だけ?

 日本では1週間前の5月21日に記者発表されたセガの新ゲーム機「Dreamcast」が、E3では派手にデモられているのだろうか? というのが、あまりそのあたりの事情に詳しくない私の関心事のひとつだった。で、さっそくセガのブースに向かい、受付のおねえさん(美人)に「Dreamcastのデモって見れるのですか?」と尋ねたところ、すでにマニュアル化されていたのか、間髪いれず「Dreamcastはデモしていません。説明だけでしたら可能ですが、アポイントメントはありますか?」との返事。アポはないし、話だけなら間に合っているので「そうですか、わかりました、バイバイ」と引き上げた。
 セガに強いコネのある人は、どこか近所のホテルの一室で極秘デモが見られる、なんて可能性もあるのだが、オフィシャルには「Dreamcastはまだ話だけ」なのであった。

 ここからは単なる推測だが、21日の日本での発表はかなり急に決まった話で、E3での適切なプレゼンテーションを準備する時間的余裕がなかったのかもしれない。それでもわざわざE3の直前に記者発表を行ったのは、もしこの話題がなかったらE3でのセガの存在感がヤバイ水準にまで低下する危険性があり、それを防ぐためではないか、なんて想像することもできる。
 実際、セガのブースを見回してみて「もしDreamcastの話がなかったら、こりゃヤバイね」と思わずにはいられなかった。会場のどまんなかでプレイステーションとNintendo64のブースに挟まれているという立地条件が、その印象を強くした。
 なお、会場で配られている情報誌によると、会期中、Dreamcastに関する新たな情報が入手できる可能性があるという。

●任天堂:いい感じのテンション

 任天堂ブースでまず目に入るのが、展示規模は小さいながらも人だかりのしている「ZELDA ON N64」。とくに業界の人の注目が高いようで、ワープの飯野賢二氏もかなりの時間画面を見つめていた。その表情からは「お、いいね」と感じているように読みとれた。私の印象は、しっかり任天堂的でとってもN64的でやっぱり売れそうですな、といったところ。
 ゼルダ以外には、日本では発売から3週間で50万台以上を売った「ゲームボーイカメラ」のUS版が、6月1日のリリースを控えて注目を集めていた。
 ブース全体からビジネスの好調ぶりが感じられた任天堂でありました。


ゼルダ64には業界系の人がびっちり。飯野さんも映っているから探してみよう!

●ソニー:ダントツの盛り上がりを見せるプレステ陣営

 ソニーのブースに行こうとしてとまどったのが「SONY」のロゴがまったく見あたらないこと。「PlayStation」のロゴはそこかしこにあるのだが、どこにもSONYとは書いてない。そのせいで、サードパーティがプレイステーション用ソフトの展示をしている空間と、SONYが自前で用意している空間の見分けがつきにくいのだ。
 当然これは考えあっての戦術だろう。ホール全体のなかで圧倒的にプレステの存在感が強かった印象が残っている。

 ブースの作りもソニーが断然凝っていた。立体的な構造になっていて、2階には薄暗いカフェが設けられ、おしゃれな男女がコーヒーを飲んでいたり、見晴らし台(?)からホール全体を見回すこともできる。カフェと見晴らし台を結ぶ渡り廊下には自由にプレイできるプレステがところどころ設置されていて、ホールの全景をバックにゲームができる。これは「プレステこそがゲームの高みを極めた存在なのだ」という暗示をプレイヤーに与えるための一種の洗脳装置なのではないか、と疑ったりもしたが、物理的な高さにこだわっているのが、ソニーのなんらかのメッセージであることは間違いないだろう(日本で書く原稿と違ってなんだか今回は強気かも)。
 個々のタイトルについては、今日はキチンとチェックしなかったのだが、注目度が高かったものは、すでに日本で公開あるいは発売されているもののような気がする(一転して弱気)。明日、もういちどチェックしてみます。


立体的なブース構造のソニー。金がかかっているということですな。

●マイクロソフト:ネットワーク指向をさらに強化

 ブースの作りは質素だが初めて目にするタイトルの展示がいくつかあった。
 そのなかでもとくに強い視線を集めていたのが「Age Of Empire II」。私もハマりました。パッと見でもっとも変わったのが建物がデカくなってるところ。それ以外にも多くの変更点がある。詳細はすでにマイクロソフトのwebページ(http://www.microsoft.com/games/age2/)で公開されているので省略するが、わたくし的には時代範囲が1000年伸びて、より長い期間、民族の進歩が可能になった点が楽しみ。前作では、いったん進歩の手順を飲み込んでしまうと、早い時点で最終状態まで達してしまい、とくにマルチプレイヤー時の戦略の幅が狭くなっていた印象があるので、それが直っているとさらに深い世界になりそうだ。


Age of Empiresの第2作「THE AGE OF KINGS」。どこが変わったのか自分の目で確かめるのが楽しみな作品。

 AOE2以外に目を引いたのがまだ製品名のない開発コード状態の2作品。
 「Oblivion(開発コード名)」はチームプレイ重視のストラテジックスペースゲーム。といってもナニをするゲームなのかわからないと思うが、英語力のなさがたたって、かなり長時間説明を聞いたのにいまいち要領を得なかった。理解できた範囲でまとめると、

・3Dビューの宇宙を飛びまわる
・ストラテジックな要素がある
・味方(同じチーム)の飛行艇とうまく連携するのが重要
・惑星やスペースホール(?)などの映像表現がとてもキレイ
・かなり多人数のネットワークプレイを可能にしようとしているが上限がどの程度かはまだ不明
・年内に発売できればいいんだけどまだわからない
・ベータテストを夏ぐらいには始めたい

といったところ。
 説明してくれたマイクロソフトのプロデューサは非常に熱いトークでMSスピリッツを感じさせた。ちなみに開発コード「Oblivion」の意味を尋ねるとなんだか照れたようは反応をして「んーと、えーと、カオスかな」と教えてくれた。自分で付けた開発コードで、けっこう思い入れがあるのかもしれない。


「OBLIVION」の画面とデモしてくれたプロデューサ。作品に対する愛がほとばしってました。

 もうひとつの開発中タイトルは「Inertia」(こちらもコードネーム)。こちらは「慣性」の意味。開発の進行状況はOblivionに比べてだいぶ初期にあるようだったが、ゲームの意図はより明確。限定された空間のなかをビークルで走り回り、敵を見つけてぶっこわすというストレートなもの。テクスチャマッピングが控えめで、無機質な映像が私好み。たんにまだテクスチャデータができてないだけかもしれないが、このテイストを維持してくれるとうれしいかも。開発はトロントの企業が行っているようで、そこの開発者に何人まで同時プレイ可能か聞いてみたところ、8人から16人で、最終的に何人になるかはこれからの調整しだいとのこと。
 私自身もネットもののゲームソフトにたずさわっている関係上、このあたりのチューニングに興味があるので質問したのだが、やはり始めから限界を読むことは難しくて、動かしてみてはじめて見えてくるのだな、ということが分かり、なんとなく安心した。


こちら「INERTIA」。ぐんぐん走り、がんがん撃ちまくる爽快感重視のゲーム。

●Electronic Arts:PCゲームのデパート

 PCゲームではやはりElectronic Arts(EA。http://www.ea.com)グループが強い。Bullfrog(http://www.bullfrog.ea.com)の「POPULOUS The Beginning」、「Dungeon Keeper II」、Maxisの「SIMCITY 3000」、Civilizationで有名なゲームデザイナー、シド・メイアーの「ALPHA CENTAURI」、そしてオリジンの「ULTIMA: ASCENSION」など、つい「遊んどかないとマズイかな」と思ってしまうような作品が並んでいる。
 個別にじっくり見る時間がなかったせいもあるが、どれも個性豊かなデザイナーの作品なので、ちょっと眺めたくらいでは、どういうゲームなのか説明できそうにない。

 たとえば、ULTIMA: ASCENSIONは完全な3Dポリゴン表現になってしまったが、主人公が街を歩いているシーンだけ見てるとあまり伝わってくるものがない。戦闘シーンの演出にもさほど新規性は感じられない。しかし、それがゆえにかえって超ディープな世界が隠れている予感がしてしまって油断できないのだ。
 現時点での私の印象としては、今回のE3でもっともリッチなPCゲームの世界を提案しているのはEAである。成功のポイントは、個性的なデザイナーあるいはソフトハウスをうまくマネージメントしていくシステムをEAが持っているからだろう。


EAには有名シリーズの最新作がたくさん。特に「ULTIMA: Ascension」のデモでは、画面の前から離れようとしない人がみっちり。

●Intel:デジタルイメージングに注力

 編集部から「Katmaiのデモが見られるかもしれません」と伝えられていたので行ってみたのだが、結論から言うと、Katmaiに関するデモやプレゼンテーションはE3では行われないとのこと。ただ、この結論を得るまでにちょっとした混乱があった。
 初めに案内役の女性に「我々はKatmaiに関するデモが見たいのですが、見られますか?」と聞いたところ、「ああ、それなら担当者を呼んであげるから待ってなさい」と言われ、「やったー!」と取材の成功を確信しながら待っていると、現れたのはなぜかデジタルカメラのマーケティング資料をもったお兄さん。そして、彼が打ち合わせ室で始めたのはIntelのチップセットを使ったサムソン製デジタルカメラのデモだったのである。
 IntelのE3におけるテーマはデジタルイメージングである。デジタルカメラ用のチップセット、PentiumIIマシンでのフォトレタッチ、MMXを活用したリアルタイムビデオエフェクトなどを訴求していた。当然それらにはKatmaiもキーテクノロジーとして関連しているのだが、展示の内容はそこまで突っ込んだものではなかった。
 そして、結局、聞きたくもないデジタルカメラやらビデオプロセッシングの話を30分に渡って聞かされるはめになった。明確に取材の意図を伝えているのにこういうことになってちょっと頭に来たので、その勢いで書いてしまうと、最近のIntelはエンドユーザーをなめているのではないだろうか。
 デジタルイメージングに代表されるコンシューマ向けのマーケティング手法があまりにも傲慢に感じるのである。PC市場に限定していうと、インテルがデジタルイメージングを推進する最大の理由は、よりCPUパワーを食うアプリケーション分野を拡大して、自分のところの高性能な、すなわち売って儲かるCPUを買ってもらおうということだ。まあ、そこまではいいとしよう。じゃあ実際にデジタルイメージング分野でどういう取り組みを行っているかといえば、これはE3で見た範囲ではかなり寒い状況。
 彼らが得意気に見せてくれたデモのひとつは、ビデオカメラの画像(動画)にバスケットボールのアニメーションをオーバーレイさせて、カメラの前でシュートの仕草をすると、それを認識してボールが飛んでいき、角度がうまく合っていればゴールするというもの。ウケを狙っているのは明らかだが、これがE3で見せるようなデモか、とほとんどキレかけた。インテルが出してくれたダイエットコークをがぶがぶ飲んで「これは単なる要素技術のデモなんだから許さなきゃいけないんだいけないんだ」と自分を落ち着かせたが、それ以外のデモも退屈かつ「やりたくねー」と思わせるようなものばかり。
 彼らは「CPUを売るにはどうするか」を思考の出発点にしているので、エンドユーザーが見えていない。見えているつもりなのかもしれないが、焦りがあるからまともに理解できていない。メール書いたりWeb読むだけならすでに1万円以下のCPUでもサクサク動いちゃう昨今、彼らが新市場の開拓に焦る気持ちもわかるが、「そんなもんいくら見せられても買う気にはならんよ」と思わざるを得ない。E3に来るなら、もっと楽しいデモを作ってこないとイカンよ。
 ただ、今回の一件(てほどのことじゃないんだけどね)ではデジカメのお兄さんは全然悪くなくて、問題は最初に案内してくれた女性にある。デモのあいだじゅう不機嫌な顔しててゴメンナサイね。デジタルカメラメーカーの人は、Intel製品を検討してみてもいいんじゃないでしょうか。

●AMD:「3D Now!」で攻勢をかける

 「3D Now!」は「K6-2」から採用された3Dグラフィクス処理を高速化する命令セットだ。AMDの地味な展示エリアにはK6-2を搭載したマシンが1台あって、3D Now!対応ソフトのデモをしていた。ただ、画面を見ただけではその性能は分からなかったので、いただいた分厚い資料をめくりつつ数字をまとめていくと、だいたいこんな性能である(以下、すべて300MHz版のK6-2に関するデータ)。

 まず「MaruBench」という重力計算のベンチマークだが、同クロックのPentium IIの2.3倍速い。この性能がどういうゲームに効いてくるかというと、資料には「trespasser game」とある。trespasserってなに? って感じなのだが、宇宙ものの重力を忠実に再現したゲームとか、物理モデルシミュレーションのようなことをするタイトルなどではそのまま効いてくる数字だろう。
 3D Winbenchでは1.15倍と差は大きくないが、AMDが出している標準的なシステムコストでベンチマークのスコアを割ってみると(1ドルあたりのベンチマークのスコアを出すってことね)、1.24倍に開く。

 この差を大きいとみるか小さいとみるかは、その人のマニア度しだいだろう。むしろAMDの3D Now!に関する取り組みとして重要なのは、ソフトハウスに積極的に働きかける姿勢を打ち出している点だ。資料によるとすでに数十社からの支持を取り付けたとある。リストにはマイクロソフト、iD Software、Psygnosis、SGIなどの名前が見られる。また、グラフィクスハードウエア関連の5社(3Dfx、Aureal、Nvidia、Matrox、Trident)の名前も上がっている。ここでいうところの「支持」が実状としてどの程度の意味を持つのかはよく分からないが、ソフト開発者との連携を意識した姿勢は正しいだろう。

 というわけで、展示初日のレビューはおしまい。まだ時差ボケが残っていて、原稿の途中で寝てしまい、いまは朝の7時だ。あと2時間もしたらまたショーへと出撃である。今日もAtlantaは暑い。

Text by 船田戦闘機
(取材協力:山本智文)

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