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“Merced”に関するIntelの反論 by Alexander Wolfe

1998年03月30日 00時00分更新

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 “Merced”に関する本の執筆が私の本業になりつつある。前回のコラム“HP will make Merced a winner”(http://techweb.cmp.com/eet/column1/wintel21.html)では、近い将来発表される64bitプロセッサーについて、いくらか内部情報もまじえて考察した。

 私は、IntelがMercedで用いられる製造技術、新しい0.18μmCMOSプロセスの歩留まりを上げるので手いっぱいになるだろうと述べた。また、Mercedに付随するコンパイラソフトは、今日使用されているものより格段に複雑になると予測した。そして、Intelが予定しているMercedの来年下半期の出荷は遅れるだろうとも述べた。

 ところがIntelは私の意見について、いくつかの点で、いや失礼、多くの点で異議があると言ってきた。いつも私は技術的な質問でIntelを悩ませており、その電話にIntelの人たちは常に親切に答えてくれているわけだから、彼らの異論をすぐに聞くのがフェアだと思った。

 Mercedのマーケティング担当ディレクターRon Curry氏の話を聞いた。彼は、“predicate”(条件実行のためのフラグ)と投機的実行というMerced内部の並列処理を実現するふたつの技術に関する私の予想・見解、そして、これらの技術をコンパイラは、研究段階でしかテストしていないと私が述べたことについて特に反論した。

 「それは違う」と彼は言った。「確かに、よくできたコンパイラは必要だが、今日のスーパースケーラー・アーキテクチャー用のコンパイラはすでに非常に複雑だ。われわれの引き出しの中には新しいトリッキーな技術もあるが、このコンパイラ技術はMerced専用に一から作られたものではない」とCurry氏は説明した。

 さらにCurry氏は、Mercedコンパイラのフィールドテストはすでに開始していると付け加えた。「Windows NTといくつかのアプリケーションをリコンパイルし、我々のシミュレーターで一定期間走らせている。私たちのコンパイラを使用しているソフトウェアベンダーやOSメーカーもある」というのが彼の説明だ。

 製造過程の質問になるとCurry氏は、Mercedの生産に問題が生じるとという私の見解はまったく間違っていると述べた。それでも、0.18μmでのプロセッサーの製造はチャレンジであることは認めた。「しかし、(Mercedは)私たちがこれまで発表したマイクロ・アーキテクチャーと何の変わりもない。弊社は最新のロジック技術と最新のシリコン技術を融合させようと努力している。もちろん試行錯誤はある。しかしこれはPentium、Pentium Pro、あるいはPentium IIでやってきたことと何ら変わりがない。私たちが今まで直面しなかった、あるいは解決できなかった問題がMercedにあるとは思えない」と氏は言う。

 Curry氏は、出荷時期に関しては、特に出荷計画が18ヵ月も先だと、スケジュールは若干前後することもあると述べた。しかし、Intelでは特に大きなスケジュールの変更はなく、今年中にはファースト・シリコンを出せるだろうと言う。

 Merced向けのハード/ソフトの開発に意欲を燃やす人は、新しくMercedでインプリメントされたIA-64命令セットの研究を始めなくてはいけない時期になった。主要なOEMメーカー、ソフトウェア・ベンダーはすでに(固い秘密保持契約に守られているが)IA-64命令を詳述したプログラマーズ・リファレンスを受け取っている。とはいえIntelは公式には年末もしくは'99年初頭まで何も公表しない予定である。

 Curry氏は詳細については明らかにしなかったが、Mercedが次世代の拡張版MMX命令セットとほぼ同等の機能を持つということを教えてくれた。

 業界の隠語だらけになる前に、Intelの鉄のカーテンの向こうにある次世代MMXを分析しなくてはならない。Intelの第一世代MMX(現行のMMX)は、57個の命令から成り立つ。これは、いくつものデータの固まりを並列に処理することを可能にし、マルチメディア・アプリケーションの実行速度を向上させる。第2世代のMMXでは、70個もの浮動小数点命令が追加されている。これは、3Dグラフィックスの処理を高速化するためである。しかし、これらの新しい命令はMMXとは呼ばれない。そうではなく、来年デビューする予定の、追加MMX命令を持つ最初のプロセッサーとなる32bitのKatmaiプロセッサーが登場した後、新しい“Katmai”のための命令セットとして“Katmai NI”という名称が与えられることになる。

 IntelのCurry氏によると、Katmai NIを実装した64bitプロセッサーであるMercedは、3Dアプリケーションの実行においてPentium Pro-200MHzに比べて20倍のパフォーマンスを発揮するという。

 最後にCurry氏と私はコアロジックについて話した。私は最近、Mercedプロセッサーを32個搭載したマルチプロセッサー・システムをサポートするヘビー・デューティーなチップセットをHewlett-Packardが開発していることをリポートした(http://techweb.cmp.com/eet/news/98/995news/merced.html)。

 「はっきり申し上げておきたいのは、IntelとHPだけがチップセットを作っているのではないということです。弊社は、Compaq、NEC、Sequent、Siemens-Nixdorfなど、いくつかの会社と作業を進めている。Mercedの設計、それにチップセットの設計を行なっているOEM企業は20社以上あります。ですから、8プロセッサー、16プロセッサー、あるいはそれ以上のマルチプロセッサー・システムが多数のベンダーから出てきても驚かないでください」とCurry氏は述べた。

 私見でいうと、Curry氏はIntelの状況について価値ある情報をくださった。彼は、同社が64bitプロセッサー・アーキテクチャーという新たなフィールドに乗り出すに伴って多数の複雑な問題があることを十分に承知していることを示してくれた。前途は険しいということもまた明らかだ。

 あなたはMercedをどう思いますか? ご意見をお聞かせ願いたい(awolfe@cmp.com)。

Text by Alexander Wolfe
From Electronic Engineering Times, March 13, 1998
“Intel takes issue with yours truly”
http://techweb.cmp.com/eet/column1/wintel22.html
(翻訳 西川ゆずこ、河村康文)
ASCII24翻訳権取得 禁無断転載

Alexander Wolfe氏:EE Timesのコンピュータ、通信担当マネージング・エディタ。週刊コラム“Wintel Watch”を執筆。

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