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首都圏に集積したITビジネスを地方へ再分散させるために――北近畿ITビジネス交流会(中編) ・パネル討論会より

2000年08月19日 00時00分更新

文● 服部貴美子

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8月16日に、北近畿地域のITビジネス従事者やITビジネスを志向する個人、ITビジネスに関心を有する既存企業の交流と、北近畿地域のビジネス振興を目的として開催された“北近畿ITビジネス交流会”。後半のパネルディスカッションでは、「インターネットは地域を救うか?!」をテーマに討論が盛りあがった。

人気メールマガジン『今日の雑学+(プラス)』を発行する小橋昭彦氏(左端)の司会で、日本を代表するITビジネス界の若き先駆者たち、松山太河氏、橋本大也氏、神田敏晶氏、深水英一郎氏の4名が活発に意見を交わしあった。

なお、前半に行なわれた、京都創成大学学長の二場邦彦氏による基調講演については、別稿を参照していただきたい。

各々の“快適な場所”から情報を発信しているパネラーたち

まずは自己紹介を兼ねて、各パネラーがIT業界に入った経緯や、現在取り組んでいるビジネスについて説明した。

人気メールマガジン『今日の雑学+(プラス)』を発行する、小橋昭彦氏(左端)の司会で、日本を代表するITビジネス界の若き先駆者たち4名が活発に意見を交わしあった(右から、松山太河氏、橋本大也氏、神田敏晶氏、深水英一郎氏)
兵庫県氷上郡生まれ('65年)の小橋氏は、昨年から育児をしながらのテレワーク勤務を開始し、HOWKS(Home Office With Kids)を宣言。子供の成長にとって、よりよい環境を求め、京都市内からの移住を計画しているとか

「CSKには、最初から退めるつもりで入社しました」(笑)と、いきなり大胆発言を口にした深水氏は、メールマガジンの生みの親。'96年に創刊した“まぐまぐ”は「マスコミにメールしても無視されるほど、反響がなかった」というが、昨年には“ヤフー・ネット・オブ・ザ・イヤー”を受賞するなど、名実ともに日本一のコンテンツになっている。

(有)ライティングスペース代表取締役の深水英一郎氏。今、最も興味のあるサイトとして、「長崎で発足したマインドのままで、どこまでやっていけるか」という点から“この指とまれ!”を挙げた

その“まぐまぐ”に、4人目のメールマガジン発行者として登録したのが、ビデオジャーナリストの神田氏だ。サラリーマンとして長くマーケティング畑を歩んできたが、30歳の頃にパソコンと出会い、フリーペーパー“MacPress”を発行。写植もカメラマンもライターの不要の“自分一人で完結するメディア”を駆使して世界中から情報を発信しつづけている。「ニューヨークも東京もに大して違わない」と、インターネットによって距離の感覚が変わったことを実体験に基づいて説明した。

“自称27歳”というKandaNewsNetworkの神田敏晶氏は、ビデオとMacを携えて世界中をかけまわるジャーナリスト。“世界で一番小さなデジタル放送局グループ構想”を胸に、今年の秋はシドニーへ

橋本氏も、個人的な情報発信ツールとしてチャットやメール、ホームページを使っていた一人。それがビジネスに変わったきっかけは、「どうすれば、個人ページのアクセスを伸ばすことができるのか? 120の有名サイトに片っ端からメールを出して聞いてみた」という素直な気持ちと行動から。メールの返信から知り得たコツを情報とし提供したことが著作出版につながり、他サイトへのアドバイザー的な仕事にもつながった。「おかげで、大学には9年間も在籍しましたが、就職活動はしなくて済みましたよ」(笑)。

アクセス向上委員会の代表である橋本大也氏は、1日の大半をパソコンの前で過ごす上、「睡眠時間がごく短くても平気!」とパワー全開。司会の小橋氏とともに、データセクション(株)を設立、代表取締役CEOに就任

履歴書を書いたことがないという点は、松山氏も同じだ。ネットエイジの西川潔氏との出会い、ソフトバンクへの事業売却、ビットスタイルの発足など数々の経験を重ねた現在は、「市場がすべてではなく、ある程度人間の善意が物事を解決するという経済基盤もあるのでは?」と、NPOやNGOにも興味を示す。

ビットバレーアソシエーション・ディレクターの松山太河氏は、まだ26歳。沖縄帰りの小麦色の笑顔で、ITビジネスへの夢を語った

いずれのパネラーも大胆な決断を重ねているように感じるが、当人たちは「面白い話を仲間に送りつけただけ」(松山氏)、「人生のレールがなくなって、気楽になった」(深水氏)と、あっけらかんとしたものだ。その裏には、「アドレナリンが大量に出るような、自ら楽しめる仕事をしたい」(橋本氏)という意欲と、「30の頃から、ずっと自称27歳。そう思い込んで、体が疲れていてもエイヤーでチャレンジしてみる」(神田氏)という体力や精神力が隠されているのだろう。

地方のネットビジネスの可能性は?

ほぼ全員が「インターネット環境を保有している」と答えた列席者たちに向けて、パネラー陣は「事業的にさほど資金のかからないものが多いので、地域在住はハンデにならない」(深水氏)、「東京にいなければ仕事にならない、という思い込みが問題。東京主導主義を、一度疑ってみるべき」(神田氏)とエールを送る。

一方で「インフラ自体に大きな差はないものの、たとえば事業を拡大しようとしたときに、増資のノウハウや経営の知識を与えてもらえる場所が地方にないため、やむなく東京に移動しているケースもあるのでは?」(松山氏)との指摘や、「各地域にもいるはずの、リーダー的存在の人物が、交通事情などで、首都圏のように頻繁に集まることができず、盛り上がらないのかも。お祭りのような文化があるところなら、できると思うのですが……」(橋本氏)といった課題もありそうだ。

さらに、松山氏は「行政や地方公共団体の支援、商法など関連法規の見直しなど、日本全体で問題になりそうな項目もある」と述べ、現行の“株式会社化・資本金1000万円ルール”にも疑問を投げかけた。「熊本の両親は、インターネットは危ないから気をつけろという」と語る深水氏は、インターフェースの分かりにくさがIT活用の妨げになっていると指摘し、「コンテンツは良くなってきているのだから、音声入力などハード面の改善をしていくべき」と述べた。

このように、いくつかのハードルはあるものの、「プライスライン・ドット・コムのように、いまやガソリンまでもネットで購入できる時代。参画企業の知名度が高くないというネックはあるものの、欲しいものが買いたい値段で買えるようになったのは画期的」(神田氏)といった、暮らしそのものに変革をもたらすコンテンツが、日本にも登場してくるだろう。

また、「都会や田舎にこだわらず、誰もが自分の暮らしやすい地域で仕事をすることができると思う」と述べる橋本氏は、“会社”という場所にこだわる必要もないと付け加え、合資会社カヤックの活動を例に挙げて「資本をもつ人が資本を増やすのではなく、知識やアイデアのある人が資本を生むようになれば」と、IT化がもたらす未来像を語った。

最後に、深水氏から「今後、IT業界の技術者不足は、ますます深刻になってくるはず。首都圏に人材も資本も集中しがちだが、地方でも技術者の養成に力を入れるとともに、その受け皿をつくっていけば、流れは変わるだろう」との提案があり、2時間にわたるディスカッションが終わった。

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