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低迷する地域経済の活性化にインターネットをどう活かすか!?――北近畿ITビジネス交流会(前編)より

2000年08月18日 17時35分更新

文● 服部貴美子

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今年7月に設立されたKITフロント協議会(KITFA=KIT Front Assosiation)は、“KITフロント”地域の交流と発展を支援する目的で、有志メンバーによって構成された非営利団体。北近畿地域のITビジネス従事者やITビジネスを志向する個人、既存企業などが相互に交流し、最先端で活躍している成功者に学ぶことによって、北近畿地域のITビジネスの振興を図るのが狙いだ。その活動はまだスタートしたばかりである。

“KITフロント”とは、北近畿地域一帯(丹後・但馬・丹波を中心とする)で交流し共生するIT産業基盤全体としての一般名称。KITはKitakinki IT business及びKITakinkiの頭3文字をとったもので、フロントには“日本海に面した一帯”という意味合いと、未来へのさきがけ、地域振興の前線といった意味が込められている。

去る8月16日に、京都府福知山市の京都創成大学で開かれた第1回の交流会には、京都、兵庫、大阪、石川などから数多くの参加者が集まった。本稿では、前半に開かれた基調講演について触れる。なお、後半のパネルディスカッションについては、別稿を参照していただきたい。

IT化のうねりと、地域経済の低迷

第1部では、京都創成大学学長の二場邦彦氏が登壇し、“ITで地域活性化を!”と題した基調講演を行なった。

まずは、沖縄サミットでのIT宣言に象徴されるように、森内閣の目玉政策に掲げられているIT戦略の概要と、注目度の高まりについて説明。IT先進国であるアメリカのインターネット世帯普及率(約30%)には遠く及ばないものの、ここ数年で日本のインターネット利用者が急激に増えている現状について述べ、ITによってもたらされる社会の変革を示唆した。

たとえば、商取引の流れが変わることで、仲介業者がその意味を失ったり、IT化度の高い分野や、IT生産および関連分野が台頭するなど、産業構造に大きな変化が起こることによって「昔のままの商品やサービス、取引関係にこだわっている企業は淘汰の道を歩むだろう」とコメント。“ドッグイヤー”と呼ばれる変化の速い世界で、新たなビジネスチャンスを発掘し、自らの役割と専門性を発見しない企業は存在意義をなくしてしまうと、地方の中小企業の行く末に警鐘を鳴らした。

では、ITは、本当の地域経済の救世主となりうるのか?

二場氏は、「北近畿エリアでは、福知山など一部を除いて人口が減少している」との現状や、資本が中央の大企業に集中している点、中心地までの移動距離の長さが、地方経済で停滞の原因になっていると分析。しかし、IT化によって「低コストで大量の情報を送ることが可能になり、物の移動と情報の流れが分離することによって、地方でも仕事のできる条件が揃いつつある」と述べた。特に、ニッチ市場の広がりとアウトソーシングの活用増大によって、中小企業の活躍の場が拡大にもつながりうる。「少しでも早く、ニッチマーケットを先導できる企業へと成長していくために、ネットワークを活用すべきだ」

二場氏は、'34年香川県生まれ。立命館大学経営学部教授、同大学経営学部学部長を経て、今年、京都創成大学学長に就任した。『新近畿の産業と中小企業』、『金融機関の破綻問題と貸し渋り』ほか、多数の著書や論文がある

北近畿経済IT化への課題とは?

しかし、実際に地方でIT化をすすめていくためには、いくつかのハードルを越えねばならない。第一に通信インフラの整備、続いて導入したハードウェアを実際に活用できるようになる仕組みをつくることである。二場氏は、シリコンバレーの“スマート・バレー委員会”を例に挙げ、「交流の場を作ることで地域社会のニーズを掘り起こすと同時に、地元企業などがもつ技術や専門性をどのように活かしていくか、それを創造していくことが大切」と力説した。

セミナー終了後に開かれた懇親会では、参加者同士がさっそく名刺交換をし、お互いのビジネスについて話し合った。こうした機会を提供することも、本協議会の重要な目的のひとつである

さらに、取引情報や経営指導、インキュベーターなど、起業を援助する枠組みを整備したり、シニア層にさしかかっている企業トップにも、パソコン導入に対して理解を示してもらう必要があると指摘。「現在、好調な業績を上げている企業が『情報化の技術要員が足らない』という悩みをもっているのに対し、売上が伸び悩んでいる企業は『どのように情報化を進めればいいのか分からない』という段階で止まっている」と述べ、地域経済のIT化の実現に向けて、権限委譲やアウトソーシング、個々のITリテラシーの向上に取り組んでいくべきと提言して講演を締めくくった。

本交流会の共催者である“丹波福知山まちかどラボ”は、今春、京都創成大学が開学したのを機に、地元商店主らと大学とを結ぶ場“福知山”から世界へつながる出会いの場を創造し、福知山市全体をより活気のある街にすることを目標とした事業である。空き店舗を改装し、京都短期大学の学外研究室として、'98年12月にアオイ通り商店街内に開館した。写真は代表の岩滝徹氏

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