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情報バリアフリーを進めるために、誰でも官報を読める形式にして欲しい!!(第3回情報バリアフリーPTより)

2000年08月12日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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11日、東京・千代田区の参議院議員会館において、参議院議員の簗瀬進氏を座長とした“情報バリアフリー・プロジェクト・チーム”による第3回目の会議が開かれた。国立国会図書館調査資料課の田中邦夫氏と、“ネット版官報のアクセシブル化を進める会”事務局の望月優氏が講師として招かれ、さまざまな観点から情報バリアフリーに関する問題点が討議された。

田中邦夫氏は、米国の“リハビリテーション法508条”に関する解説を行ない、情報機器を利用する障害者に対する日米間の考え方の相違点を挙げた。まず田中氏は情報バリアフリー、アクセシビリティー、情報アクセス権といった基本的概念について触れた。“情報バリアフリー”とは、高齢者・障害者を含めたすべての人々が情報を発信し、同時にアクセスすることを保証、情報通信の利便性を享受できるような環境をいう。こういった情報通信の利便性を享受するために、利用者が機器を容易に使える“アクセシビリティー”や、誰もが同じ情報を同じ負担で受けられる“情報アクセス権”が規定されている。

しかし、実際にはさまざまな問題が起きているという。たとえば、視覚障害者が図書館などで録音図書を利用する場合には、文書を録音するために新たに“著作権料”が発生し、自己負担が発生してしまう。情報化社会の進展にともなって、こういった問題をクリアーにしなければ、真の意味での“情報バリアフリー”の実現は難しいだろう。

障害者アクセス基準に不適応な情報機器は調達しないリハビリテーション法508条

本題となる米国のリハビリテーション法は、第一次大戦後に戦争で負傷した人たちを守るためにつくられたのが始まりだと言われている。リハビリテーション法の中で電子情報関連を中心に扱っているのが508条である。この条例は'98年に改正され、官公庁(私企業、国防関係は適用外)が情報機器を新規調達する場合には、障害者アクセスが可能な製品に限られるという強制力を持つようになった。つまり、米国の官公庁では、この障害者アクセス基準を満たしていない情報機器は調達できないということになる。

アクセス基準の一般例としては、識別するための手段として色彩のみを基準としてはいけないこと、コピー機のような機器は車イスでも使えるようにすること、指紋・網膜を利用した認証装置には代替手段も用意するなど、さまざまなハードルが設けられている。また、Webで情報を得る場合は、視覚障害を持つ人たちのために、音声読取りを可能とする(ただし音声のみという情報は避ける)、マウスやポインティングデバイスだけに依存しないという基準が挙げられている。ビデオについても字幕を付けるためのコンバーターを装備する必要がある。

日本では、この508条を下敷きにしたアクセシビリティー指針など、各省庁で情報バリアフリーに関する取り組みは行なわれている。しかし米国と違い、508条のような強制力はない。米国では官公庁の調達と審議会(委員会)の役割が大きく、司法長官への報告義務もある。田中氏はこの問題について、日本では“障害”の付かない審議会には障害者委員がいないこと(専門委員はいても提言しにくい)(※1)がネックになっていると語った。

※1 米国の連邦機関、アクセス委員会(建築および交通障壁基準遵守委員会 Architecturaland Transportation Barriers Compliance Board)では、“障害を持つアメリカ人に関する法律”(ADA)のもとでつくられた基準について、最小限のガイドラインと要綱を作成する。この委員会のメンバーは、大統領が指名する公共メンバー13名と、各省庁の高官から成る連邦メンバー12名の計25名で構成されるが、このうち過半数は障害者とその関係者が含まれている

また、福祉機器の場合は製品が固まってから障害者に製品を利用させる方法を是正する必要があるとし、「テクノロジーだけでは情報バリアフリーは解決しない」と説明した。

視覚障害者用ソフトが使えるように、官報をテキスト化して欲しい

次に、“ネット版官報のアクセシブル化を進める会”事務局の望月優氏が“ネット版官報のインターネットによる官報等の利用について”というテーマに沿って、ネット版官報に関する改善点と問題点を指摘した。

望月氏は、視覚障害者用システムを開発する(株)アメディアの代表取締役でもある。IT化が進み、(パソコンを使える視覚障害者にとっては)数十年前と比べて情報アクセス環境が著しく改善されたことを前提としながら、その上で問題点として官報などの公文書がPDF化されていたり、画像として扱われている問題点を挙げた。

ウェブに掲載されている文字情報(テキスト情報)は現在、視覚障害者用ソフトによって拡大表示したり、合成音で読み上げたり、自動点字プログラムで瞬時に変換できるようになった。しかし画像形式のファイルを読み取ることはできない。

OCRソフトを使って、画像形式のデータをテキストにすることも可能だが、まだ認識率が十分とはいえないし、障害者にとっては扱い自体も難しい。また、PDF形式の文書はオプション機能でテキスト化できるものの、官報では“テキスト取り出し禁止”と設定されている場合が多くあり、データを読み取れない場合もある。

たとえば大蔵省印刷局の官報は、'99年の11月よりインターネットからダウンロードできるようになったが、これらはすべてPDF形式のテキスト取り出し禁止設定になっているという。ドキュメントをPDF形式として配布する大きな理由としては、テキスト形式のように文書を改竄される心配がないため、文書を保護したい場合に用いられるケースが多い。

この点について望月氏は、「政府として情報格差の是正、バリアフリーな情報を目指していただきたいので、誰もが簡単に読める(見れる、聞ける)テキスト形式にしてほしい」と要望を述べた。文書保護の観点からは官報自体に著作権がないものならば、こういった(テキスト)形式でも問題は発生しないのではないか? あるいは改竄の恐れがある場合は必要に応じてPDFファイルのオプションを設定し、“テキスト取り出し禁止”や“書き換え禁止”にしてもらう方法がよいと提案した。

実際に各省庁のWebサイトでは、さまざまな形式が用いられているようだ。文書を音声で聞けるように工夫している省庁もある。先の改竄の恐れから意図に画像形式にしているWebもあれば、一方で担当者レベルから便宜的に形式を取り決めているようなWebも見受けられる。

最後に座長の簗瀬氏は、「改善のためのご指摘をたくさんいただいた。各省庁のWebを分析して、指針となるガイドラインをつくれるようにしていきたい」と語り、官公庁の情報バリアフリー化を引き続き推進していく方針を示した。

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