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アメリカから日本まで、なんと電話料金1分1セント!! 1セントの次にくるものは?

2000年08月02日 20時20分更新

文● ジャーナリスト/岡部一明

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中東系の雑貨屋の前で

ひさしぶりに街を歩いて、雑貨屋の前でクギ付けになった。日本までの国際電話が1分1セント。ウインドーに貼られた電話カード料金表にそう出ている。中東系の人が経営しているごく普通の雑貨屋だが、すぐ近くの中国系のお店にも同じ料金で別のカードがある。

去年初め頃は、日本まで1分9セントの電話カードで驚いていたが、その後どんどん下がり最近は1分2-3セント付近の攻防になっていた。毎回毎回、下がるたびに驚くのもばからしいので、驚きたくはなかった。しかし、やはり「何が何がおこっているのだろう!?」という呆然自失の感覚に打たれ、その店の前でかなりの間、棒立ちになっていた。いろんな思いが頭をめぐった。

日本の市内電話より安い

いいですか、1分1セント(1円)。3分で3円です。アメリカから日本までの国際電話が、です。日本の市内電話はいくらですか。家からかければ3分10円か4分10円。公衆電話からなら1分10円です。10分の1の料金でアメリカからあなたのところにかけられるということです。

回ごとに1ドル75セントとか2ドルの固定料金が取られるから短い電話を何度もかけると割りに合わない。しかし、とにかく、10ドル(1100円)のカードで、825分つまり13時間45分かけっぱなしにできる。

(かけないからご安心を、と友人たちには言っている。いくら料金が安くても、そんなにかけたら忙しい日本の皆様のおじゃまになる。やっとうるさいのがアメリカに行ってくれたと思ったら……)

具体的にはTele-Center, Inc.社から出ているOne Penny Master Phonecardというカードが1回に付き2ドルの固定料金で1分1セント(http://www.tciphonecards.com/1penny.html)。World Star社から出ているCalifornia Star Phonecardが1ドル75セントで1分1セントだ(http://www.starprepaidcards.com/calistar.htm。ただし、こちらはウェブ上にはレートは載っていない)。探せばその他にもあると思う。

アメリカの電話カードは電話機に差し込む方式ではなく、まず無料電話の800番(日本の0120番に相当)にかけて自分のカードの暗唱番号を入力してかける形式だ。だからどんな電話からでも(家の電話からでも)使える。5ドル、10ドル、20ドルなどのプリペイドカードとして売っている。通常、1-2ドルの1回ごとの固定料金の他に、月1ドル程度の管理料、公衆電話からかけた場合の1回50セント程度のFCC税金などがかかる。また、1分1セントの料金でも課金は2分毎、3分毎などの区切りで課金される場合もある。

競争が実現するユニバーサルサービス

雑貨屋の前に呆然とたたずみながら、いろんなことが頭をかすめた。

・1分1セントの次は何か。当然ゼロセントだろう。国際電話も1回1-2ドルの固定料金で自由にかけられる状況がアメリカではもうすぐ来るのだろう。そして次は? 国際電話、いや音声型電話のすべてが無料化?

・日本は大丈夫か。このすさまじい通信革命に耐えられるか。NTTの高い接続料金が、最近、アメリカからの圧力(またもや)で“大幅値下げ”が約束されたが、あんなものではまったく不充分だ。さらにアメリカさんにどんどん圧力をかけてもらい独占体質を払拭しなれば日本の通信産業は壊滅する。

・自由な市場の競争がユニバーサルサービスを実現する。貧しい移民労働者もこうした安い国際電話料金で不自由なく故国の家族と何時間でも話していられるようになった(安い国際電話カードは多く民族コミュニティーに売っている)。“規制された独占”がユニバーサルサービスを提供するという真っ赤なうそ。これに抱え込まれた国民こそ、高額料金地獄から這い上がれない。

衛星テレビが月22ドル、ADSLが39ドル

夏休みになって、今、息子たちがデジタル衛星テレビに入ってくれとせがんで困っている。そんなものに入れる余裕があるか、と値段を調べて愕然。たった99ドルの開始費用(Radio Shackのチェーン店でDIRECTVに加入した場合。機器類99ドル、設置料無料)、月22ドルの料金で基本的な45チャンネル以上が見られる。最初に79ドルで月32ドルのプログラムもある(Circuit Cityのチェーン店でDIRECTVに入った場合)。生活の全戦線において“戦闘的貧乏主義”を貫いている私だが、不幸にも“加入1万円、月々2500円”程度が払えないほどではない。拒絶する理由が薄らぎ、今非常に厳しい情勢にいる。

高速インターネット接続のADSL(私の家付近で下り1Mbps)は月39ドル(パシフィックベル)。市内電話はもともと無料。携帯電話は月30ドルでアメリカ中180分かけ放題、月50ドルで500分かけ放題(Sprint PCS)。アメリカではデジタルデバイドは市場の力によって克服されているという感じだ。図書館ネットを通じて2000雑誌記事の商業データベース使い放題などの公共的インフラもあり、それも含めて、アメリカのデジタルデバイドは必ずしも経済的な格差ではなくなった。ノウハウとか知識とか、コンピューター機器を使うことに価値をおく文化とか、そういう非経済的な差異に重点が移っているように思う(したがってデジタルデバイド問題で活動するNPOは、コンピューターのトレーニングとか教育的な方向に力を入れている。機器や接続を買い与えることだけではない、ということだ)。

高額料金はビジネスチャンス

高いNTTの接続料金(新電電がNTTの市内回線利用に対して払うアクセスチャージ)については、アメリカ大使館サイトの解説(http://usembassy.state.gov/tokyo/wwwhj049.html)をぜひ見て欲しい。米政府の立場からのNTT・日本政府批判だが、泣けるほど正鵠を得ている。日本のことを本当に考えているのはどっちだ。「日本国内最強の革新勢力はアメリカ」という言い方がズバリのケースだ。接続料金など専門的な議論になると、日本の消費者団体がきっちり独自論点を出して批判するというのは難しい。そういう中で、NTT・日本政府に負けない(それ以上の?)リソースと専門知識を動員できるのは現在のところ、日本国内ではアメリカ政府だけなのだろう。

“日本まで1分1セント”を友人たちに報告したら、ビジネス・チャンスだという話になった。日米間の電話料金がそんなに安いなら、日本国内の電話もアメリカ経由でやった方が安い。長距離電話はもちろん、日本の市内電話(3分10円)さえも、アメリカ経由でつないだ方が安くなる。ウェブ上で相手先電話番号を入力してもらい、自動的にアメリカ側から(日本国内の)かけ手と相手方に安い国際電話でつなぐソフトを開発する。そうすれば大した設備なしに、太平洋を股にかけて日本国内通信の商売をそっくり頂くことができる。それをやるには、日本国内の(日本の長距離・国際電話会社が払う)NTT接続料金は高いままの方がいい。結局、アメリカ政府側もその辺を考えて、NTT接続料金の値下げもほどほどのところで妥協してくれたのだろう、という結論になった。

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