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【世界ソフトウェア&テクノロジー会議2000 Vol.3】Lycosを育てたカーネギーメロン大学など、外国のTLOの利用法を好例から学べ!!

2000年07月31日 00時00分更新

文● 野田ゆうき

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7月25日と26日の両日、岐阜県大垣市のソフトピアジャパンで開催された“世界ソフトウェア&テクノロジー会議2000”。26日は、大垣市情報工房内の3つの会場に分かれてパネルディスカッションが行なわれた。セッション1では“TLOが目指すもの・技術移転の可能性”、セッション2では“大学・研究機関における発明・技術移転と、ベンチャーキャピタルによる投資”、セッション3では“ベンチャービジネス・中小企業のネットワークとサイエンスパークの役割”というテーマで活発な討論が行なわれた。本稿ではセッション1をレポートする。

パネリスト各自による20分間のプレゼンテーション後、慶應義塾大学教授、清水啓助氏のコーディネートにより、活発なディスカッションが行なわれた。

セッションは情報工房内で行なわれた。どの会場もほぼ満席

アンカーパーソンを活用――北海道ティー・エル・オーの例

最初のプレゼンテーションでは、北海道ティー・エル・オー(株)の副社長、冨田氏が同社を紹介した。

北海道では北海道大学が中心となって、産学官の協力がこれまでも行なわれていた。そして、その延長として設立されたのが、北海道ティー・エル・オー(株)である。現在、この会社株式の60パーセントは、関連の大学教官などが持っている。冨田氏も北海道大学副学長を兼ねている。

北海道ティー・エル・オー(株)には、アンカーパーソンと呼ぶ組織あり、そこがパテントになりうるアイデアを探し出してくる。アンカーパーソンは、産業界のリサーチを大学に割り当てることも行なう。

「今年4月の法律改正で国立大学の代表も取締役に就くことができる」(冨田氏)

知的所有権の所有は何処かをはっきりさせる

テキサスA&M大学技術移転事業所エグゼクティブ・ディレクターのテリー・ヤング氏は、その経験から、TLOにおいて知的所有権を誰が持つのかを明記させることが重要だと説明した。明記された規約のおかげで、研究者との信頼関係が保たれるのだ。

テリー氏は、知的所有権がどのように産業に活かされるのを説明するときに、”ホームランは必要ない”と表現した。とにかく多くのパテントを候補にあげ、それを素早く処理することが重要で、そのためには“モノになるのか、ならないのか”の見極めを早く行なうこと重要だと説いた。

'80年初のTLO誕生から関わってきているテリー・ヤング氏 

Lycosを育て上げた実績――カーネギーメロン大学の例

カーネギー大学では、新しいアイデアがTLOに持ち込まれてから決められたプロセスを経て、選択的にパテントが取得される。そして、最終的にライセンス化されるか、スタートアップまで面倒見るかが決定される。

ライセンス料の分配も明快で、経費を差し引いた残りを発明者と大学が折半に分ける。大学の取り分のさらに半分がTLOに入る仕組みだ。カーネギーメロン大学大学技術移転事業所ディレクターのケーシー・ポルト氏は、前出のテリー氏の喩えに沿って、「ホームラン”を打てるようなアイデアも探しているのだ」と言った。Lycosの成功((※1))が自信に表われているようだ。

※1 Lycosの成功*:Lycosの基本となった検索技術も、カーネギーメロン大学がつくったもの。ここ数年のライセンス関係の収入を見てみると、'96年710万ドル、97年1330万ドル、98年3000万ドルと急増しているが、その収入のほとんどが株式売却益だという。米国のほかの大学がロイヤリティーで収益を得ているのに対して、この点が大きく異なるようだ

カーネギー・メロン大学、ケーシー・ポルト氏 

大学はパテントの企業化に乗り出すべき。TLOで産学官の連携は変わる

TLOが浸透してくるにつれ、論文発表前にオフィスを訪れるようになった。これは、知的財産権への関心が高まってきた証拠である。と米国人の2人は声をそろえる。TLOによって、ライセンス料を生むパテント開発に研究者は前向きに取り組むようになったのだ。

テリー氏はさらに、積極的に大学はパテントの企業化に乗り出すべきだとも言う。TLOの機能としては、企業化も支援するのだと。

ポルト氏は、地元経済界がTLOに寄せる期待の大きさを感じている。企業からのアプローチは、研究者にとってはありがたいことだろう。

冨田氏は、日本ではまだ国公立の教員が特許を取得することに抵抗があるのだと、日本のTLOを含めた産学官の連携の問題点を指摘した。そして、そのような壁を早く打ち破るためにも、具体的に企業といっしょに仕事をすることをすすめている。

同時通訳される発言者の発表に聞き入るテリー氏とポルト氏

TLOはどこまでするのか 産業界とのギャップは、どのようにして埋めればよいのだろうか

TLOに過大に期待する地元産業界もある。大学から出てくるのは、製品ではないのだ。この産業界とのギャップは、どのようにして埋めればよいのだろうか。

ポルト氏は、産業界との関係確立を説く。それぞれの役割と分担をはっきりとさせた関係作りのために、TLOは一役買うことになるだろう。

ライセンスかスタートアップかの問題に関しては、TLO間で微妙にニュアンスが異なるが、概ねどこもスタートアップを積極的に勧めることはない。産業界からの積極的な希望があればそれを手伝うだけというのが、基本スタンスのようだ。

冨田氏(右)の隣はBTG在日代表の吉野氏

企業家にとっては時機到来か!? 中小企業にもTLOを活かすチャンスが

現在の日本は、ようやくTLO環境の法整備が終わったところで、システム的にはまだまだ不完全である。これからは、米国のようにTLO間の競争も熾烈になるだろう。知的財産や研究者の確保合戦になると、そう簡単に高収益を上げることができなくなる。期待が高いだけに失望感も強くなることも危惧される。

現在では知的財産権管理のコストが高く、それらを活かすことができる企業も選ばれているが、TLOの活動が軌道に乗ってくれば、中小企業にもそれらを活かして事業化できるチャンスが生まれるだろう。国内のTLOもすでに品揃えはできていて、門戸を広く開けて待っていてくれるそうだ。チャレンジ精神を持っているのなら、一度TLOを訪ねてみてはいかがだろう。

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