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【INET2000 Vol.7】アフリカではオープンソースツールを積極的に活用している――“すべての人のためのインターネット展~Internet is for Everyone”より

2000年07月28日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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7月19日と20日の2日間、パシフィコ横浜の国際会議場“マリンロビー”にて、INET2000のサテライトイベントである“すべての人のためのインターネット展~Internet is for Everyone”というイベントが開催された。

このイベントはネットワークにも生じているバリアフリーの壁を取り除こうと、さまざまな団体の協力によって実現したものである。展示会とシンポジウムで構成されていたが、特にシンポジウムでは国内外から関係者が出席し、地域格差や教育、障害者、女性といったテーマでそれぞれ興味深い報告がなされた。本稿ではそのシンポジウムからオープニングと2つのセッションを紹介する。

まずオープニングでは共催のGEA Committeeのチェアであるユニカルインターナショナル代表の佐々木かをり氏と、全体のコーディネーター役をつとめる日本経済新聞社編集局の関口和一氏があいさつに立った。

INET2000のサテライトイベント“すべての人のためのインターネット展”では展示会のほか、地域格差や教育、障害者、女性といったテーマをかかげたシンポジウムが行なわれた。そのオープニングには主催者でGEAチェアであるユニカルインターナショナル代表の佐々木かをり氏があいさつした
INET2000のサテライトイベント“すべての人のためのインターネット展”では展示会のほか、地域格差や教育、障害者、女性といったテーマをかかげたシンポジウムが行なわれた。そのオープニングには主催者でGEAチェアであるユニカルインターナショナル代表の佐々木かをり氏があいさつした



全体のコーディネータ役は日本経済新聞社編集局の関口和一氏がつとめた
全体のコーディネータ役は日本経済新聞社編集局の関口和一氏がつとめた



アフリカではオープンソースツールを積極的に活用している

続いて“インターネットと地域格差”では、National Coordinator、SDNP Cameroonのワワ・ネグンダ氏とJPNICの大橋由美がそれぞれ、アフリカとアジアのネットワーク現状について報告した。ネグンダ氏は博士号をもち、アフリカエリアにおけるインターネット環境の活性化について、精力的な活動をしている。つい先日も、アジスアベバで国際化会議が開かれ、今度の活動について話し合ってきたところだという。

“インターネットと地域格差”ではワワ・ネグンダ氏とJPNICの大橋由美がそれぞれ、アフリカとアジアのネットワーク現状について報告した
“インターネットと地域格差”ではワワ・ネグンダ氏とJPNICの大橋由美がそれぞれ、アフリカとアジアのネットワーク現状について報告した



「問題は貧富の差がリンクしていくことです。貧しいから教育を受けられない、教育を受けないから良い仕事につけない、収入が得られない。こうした繰り返しを立ち切るにはまず教育が大切です。そのためにはITは不可欠で、現在は国連やNPOの協力を得て、アフリカ経済を活性化するプロジェクトを進めています。アフリカでネットやPCをまず使い始めたのは先生たちだったので、教育からの切口はちょうどいいのです」

さらに興味深い話では、アフリカではオープンソースツールを積極的に活用しているというのがある。「コストをなるべく押えるためにオープンソースは最適です。Linuxは無料ですし、ツールも作りやすい。また、市場性もあり、技術者が高収入の食を得られる可能性も出てきます」

とはいえ、ネグンダ氏は地域差があるので、ネットワークインフラやシステムの構築は、それぞれの状況に合わせた慎重な計画が必要だと言う。「たとえば我々はインフラに無線を選択しましたが、地域によってはそうではないほうがいいところもあるでしょう。他国の事例をうのみにするのではなく、最も利益の出る方法を考えることが大切なのです」
 
かわってアジアの状況について、JPNICの大橋由美氏が報告した。大橋氏はインターネットと経済の成長は比例しているとし、しかし、そうした中でもアジアならではのデジタルデバイドがあるとしている。

「アジアはヨーロッパ以上に多言語で、表記の問題などもある。規制も強くそうした問題を少しずつ解消していかなければ、アジア全体がデジタルデバイドに巻き込まれかねない。ドメイン1つをとっても問題があり、それらに対する意識をまず高めていくことが大切だ」とした。

まだまだ、すべての人がネットを使えるにはほど遠い状況だが……

“すべてのひとのためのインターネット”というテーマのパネルディスカッションでは、関口氏をコーディネーターに、佐々木氏、大橋氏、そして慶應義塾大学SFC研究所の中根雅文氏と、横浜市立本町小学校教諭の出口和生氏が参加し、今後の課題について具体的な意見が交わされた。  

“すべてのひとのためのインターネット”というテーマのパネルディスカッションでは、関口氏をコーディネーターに、佐々木氏、中根氏、出口氏、大橋氏が参加。それぞれの発言をふまえながら、格差の解消に向けて精力的な発言をした
“すべてのひとのためのインターネット”というテーマのパネルディスカッションでは、関口氏をコーディネーターに、佐々木氏、中根氏、出口氏、大橋氏が参加。それぞれの発言をふまえながら、格差の解消に向けて精力的な発言をした



まず中根氏が2歳で失明し、自らも障害者である立場から、インターネットは自分の世界を拡げる素晴らしいツールであるとコメント。チャット仲間とオフラインで会ったら、相手が聴覚障害者で、ネットで会うよりも会話が進まなかったという逸話もあったそうだ。

「しかしその一方で、すべての人がネットを使えるというにはほど遠い状況であることも分かっている。社会全体でインターネットを共有できるよう、研究を続けているところです」
 
それに対し小学校教諭の出口氏は、「インターネットが九九レベルで教えられるようにならないといけない。学校の状況はこれから変わっていくが、家庭で情報格差があるのでは本末転倒だ」とし、「家庭にはゲーム機が9割以上普及しているから、それを使うのもひとつの手かもしれない」とコメントした。

横浜市立本町小学校教諭の出口和生氏はパネルディスカッションの前に「インターネットと教育」のテーマで学校内におけるインターネット配備の事例紹介を行い、それらについての追加コメントがあった
横浜市立本町小学校教諭の出口和生氏はパネルディスカッションの前に「インターネットと教育」のテーマで学校内におけるインターネット配備の事例紹介を行い、それらについての追加コメントがあった



  佐々木氏は親の立場から「以前から親の連絡網を電子メールにしたいと言い続けてきたのが、最近になってようやく受け入れられるようになってきた。ただし、経済的な問題があるというのは忘れてはいけないとも思う」とし、大野氏が「福祉電話というのがあるが、インターネットでもそうした仕組みを取り入れるべきでは?」と補足。「アジアには電話回線さえも引けない地域がまだまだたくさんある。そうした場所でも簡単にネットができる仕組みを考えていくべき」と語った。

インターネットを支えるNPOを“Non-profit Organization”から“Not for profit”へ

  続いて関口氏から各国のインターネットの普及に関する資料が提供された。インターネットはNPOが支えているが、日本ではそうした組織に対するメリットが少ないとの意見が出た。また、NPOの考え方も単なるボランティアであり、持ち出ししてでも無料で組織に尽くすもの、というのが一般的になっている。

関口氏から世界のネット教育格差の資料などが紹介された
関口氏から世界のネット教育格差の資料などが紹介された



それに対し関口氏からは「実はその問題は米国でもあり、最近ではNPOをNon-profit OrganizationからNot for profit……に変えようという動きが出ている。つまり、きちんとお金を集めて組織を運営するのは当たり前。インターネットも水も安全もタダで使いたい放題という慣習に巻き込まれてはいけない」とコメントした。

その他にも多くの興味深いコメントが続いたが、時間が切れとなり、“次の機会に”という提案でパネルディスカッションは終了した。

会場に出席していた関係者らからの具体的なコメントもあいついだ
会場に出席していた関係者らからの具体的なコメントもあいついだ

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