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【INTERVIEW】混沌とするポストFDD市場で、パーソナルストレージ企業として脱皮する──米アイオメガ社チュナバラ氏

2000年07月25日 00時00分更新

文● 編集部 小林久

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米国ユタ州を本拠地とする、米アイオメガ社は、ZipやClik!を始めとしたリムーバブルドライブ/ディスクの開発で知られている。創立20周年を迎えた同社は、現在“パーソナルストレージ”をキーワードに、企業としての脱皮を図っている*1。ASCII24編集部では、来日した米アイオメガ社のアジア太平洋地区担当マネージメントディレクターで、副社長を務めるボビー・チュナバラ(Bobby Choonavala)氏に、昨年12月に経営陣を一新し、新たなスタートを切った同社の現状について聞いた。

アイオメガのボビー・チュナバラ副社長。全世界で3500万台を出荷したZipドライブとともに
アイオメガのボビー・チュナバラ副社長。全世界で3500万台を出荷したZipドライブとともに



アイオメガは、パーソナルストレージの総合企業を目指す

──6月のPC EXPO 2000で、Clik!対応のMP3プレーヤーの市場への参入を表明しました。これは、対応機器を増やし、市場のパイを広げるための取り組みだと思いますが、その点について聞かせてください。

「基本的にふたつのステップがあると考えています。ひとつは、市場予測にしたがって製品をどれだけ多く売っていくかというアプローチ、もうひとつは市場を広げ、そのデバイスをどれだけ成長拡大させていくかというアプローチです」

「特に後者に関しては、他社がどれだけ我々の製品を採用してくれるか、そして、自社の製品の可能性をどれだけ広げていけるかの両面を考える必要があります。米国の調査機関IDC社によると、'99年に200万台規模だったMP3の市場は、2003年までに1000万台規模に拡大するそうです。我々はその可能性のある市場に期待して、Clik!ベースのMP3をPC EXPOに出展しました」

Clik!ディスク
Clik!ディスク



「一方、いかに市場を拡大していくかという点では、高い技術を持っている他社との提携を通じて製品の幅を広げていく努力をしています。たとえば、我々は、米SoftwareIQ社と共同で『FotoShowイメージセンター』(Zipベースのメモリーカードバックアップ装置兼ポータブル画像ビューアー)を開発しています。また、米SkyDesk社と共同でオンラインストレージソフトの『Global Data Access』の提供も予定しています。このように、あらゆる形態のパートナシップを通じてデジタル市場を開拓していこうと考えています」

──技術提携を通じて、新市場を開拓する方針だと思いますが、記憶メディアの普及には、技術以外の要素も必要だと思います。たとえば、日本の家電メーカーは、自社のサイトで音楽を配信し、自社のプレーヤーで再生する。その間は著作権保護機能を持つ自社のメディアで固め、囲いこみをかけています。

「つまり、我々はテクノロジーを持っているが、コンテンツを持っていないという意味でしょうか? 確かに、我々はコンテンツを持っていませんが、しかしそれが逆に有利に働く可能性もあります。たとえば、世の中には、コンテンツしか持っていない企業もたくさんあります。ワーナーブラザーズ、ディズニー、ヴァージンメガストアなどの例を思い浮かべてください。彼らは、自社のコンテンツをダウンロード販売する際に、不正にコピーされるのを防ぎたいと考えるでしょう」

「我々の提供するディスクには、すべてシリアルナンバーが割り振られており、著作権保護をかけて不正使用を防ぐことができます*2。そして、我々はコンテンツビルダーでないがゆえに彼らに中立的に接することができる。これは大きな強みと言えるのではないでしょうか?」

──著作権保護技術とは、具体的にどんなものですか。

「メディアの中に18文字からなるコードが埋め込まれています。セキュリティー機能としては、まずパスワードプロテクションのような単純な方法が考えられます。また、さらに高度なプロテクションをかけたいユーザーを想定してサードパーティーと新技術を開発中です。現在の18文字のコードに6つの文字を追加して、より高度に暗号化できる技術などを開発しています」

ポストFDDの時代に向けて

──海外では高い普及率を示している、Zipディスク/ドライブですが、日本市場ではいまひとつ盛り上がりに欠けていますが。

「この点に関しては、日本市場に対するわれわれの努力が足りなかったことを否定できません。ただ、私はグローバルスタンダードは、必ずローカルにも普及するものだと思っています。それは、WindowsマシンとPC-9800シリーズの図式に当てはめて見るとわかります。日本では長い間PC-9800が高いシェアを誇ってきましたが、そこに世界標準のDOS/Vマシンが参入してくることで、その置き換えが急速に進みました」*3

──誰もがFDDの次に来るものを望んでいますが、“ポストFDD”のデファクトは不透明です。

「FDDは、PCに搭載されているおそらく最もレガシーなシステムではないでしょうか。誰も必要としていないが安いので入れる。これがPCメーカーの本音でしょう。一般的なPCの構成では、まずCPUとメモリーがあり、それにFDD、HDD、CD-ROMドライブといったさまざまなドライブが接続されています。しかし、私個人の理想を言うなら、これらの代わりに、我々のCD-RWドライブ『Zip/CD』があってほしいと思います」

「私は主に娯楽用途で使いたいため、Zip/CDと言いましたが、バックアップ用途となら、デスクトップの場合はZip、ノートPCならClik!があればいいと思います。バックアップ時には頻繁にメディアを読み書きする必要があり、CD-R/RWでは不便です。その意味で磁気記憶ディスクはフロッピーと同じくらい使いやすいと思います」

「ただし、PC用の記憶メディアとしてメモリーカードが入ってくる余地はあまりないでしょう。これらのカードはコンパクトで、低消費電力ですが、コストがかかりすぎます。また、もうひとつ考えられる要素として、インターネットを“オンラインストレージ”として使う発想があります。これは、物理的な記憶装置は一切なくして、データをインターネット上に置いてしまおうという発想ですが、これにも克服しなければならない問題があります。それは、個人/企業の機密情報をインターネット上に出しておけるかという問題です」

──パーソナルストレージの分野で唯一ラインナップが欠けているフラッシュメモリー製品ですが、その投入はなされないのですか。

「フラッシュ製品に関しては検討中ですが、eBookやMP3プレーヤーのような情報ライブラリー的な使用法では、Clik!で十分だと思います。コンパクトフラッシュやスマートメディアである必要はありません。逆に、デジタルカメラなど、すでに半導体メモリーが一定の領域を築いてしまった部分に関しては、いたずらに競合するのではなく、共存関係を築くことが重要だと思っています」

HDDの大容量化と低価格化、デジタルカメラや携帯プレーヤーの台頭など、個人向けストレージ製品をめぐる環境は急速に変化している。そんな中、アイオメガは、磁気記憶/光ディスク/オンラインストレージ/ソフトウェア製品と広範な守備範囲を武器に、新たな市場の開拓を続けている。今回、日本市場への戦略に関しては語られなかったが、近日中にその指針が示されるという。混沌としたポストFDDの市場の中で、独創的な製品を提供するアイオメガの今後に期待したい。

  • *1アイオメガの強みは、すでに全世界で3500万台を出荷したZipドライブを中心とした磁気記憶製品である。しかし、同社は昨年末に『ZipCD』でCD-R/CD-RW市場に参入したほか、バックアップユーティリティーの『Iomegaware』や『QuickSync』、2000年秋の提供を予定しているオンラインストレージソフトの『Global Data Access』など、ソフト/インターネットの分野にも参入している。ストレージ市場におけるアイオメガの特徴は端的に言って2点ある。ひとつは、HDDと半導体メモリを除くほぼすべてのセグメントをサポートしている点、もうひとつは企業の大規模なシステムではなく、あくまでも個人のパーソナルデータを保存するデバイスにこだわっている点だ。また、同社は6月に米国ニューヨークで開催された“PC EXPO 2000”で、『Clik!』(約5cm角の小型磁気ディスク)に対応した、携帯音楽プレーヤー市場への参入を発表した。電子書籍やデジタルカメラのような携帯機器や、セットトップボックス/インターネットアクセス機器など“デジタルアプライアンス”の分野に参入することで、さらなる市場のパイを広げていく目論見だ。
  • *2シリアル番号は、Zip、Clik!、Jazzなどすべてのアイオメガ製磁気記憶ディスクに割り振られている。同社の提供するユーティリティーソフト『Iomegaware』には、このシリアル番号を参照してデータを暗号化する機能が搭載されている。また、MP3ファイルなどのダウンロード時にシリアルナンバーを入力することで、他のディスクにコピーできないようにする機能の提供も可能だという。
  • *3「日本市場では、Zip以前に大容量のリムーバブルメディアとしてMOが幅広く普及していた。アメリカを始めとした欧米諸国にはそれがなく、Zipから始まった。普及率の違いにはそれも大きく影響したと思います」(アイオメガ)

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