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【World InfoCon Vol.3】地球規模の情報化によって私たちひとり一人の逃げ場は無くなった ――“サーベイランス&コントロール・テクノロジー” 、“ワールド・コミュニケーション” (セクション講演より)

2000年07月21日 00時00分更新

文● 岡田智博 coolstates.com

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7月13日より14日まで、ブリュッセルで開催された“World InfoCon”。セクション講演として“インフォワールド”のテーマに続き、“サーベイランス&コントロール・テクノロジー”と“ワールド・コミュニケーション”をテーマに、非公開の盗聴・傍受システムなどの話題が取り上げられた。

トラフィックコントロールシステムの導入や、データマイニングによるデータ活用の実態

“サーベイランス&コントロール・テクノロジー”のセクションでは、相次いで国家情報機関やその連合体、警察機構によって密かに推進している、傍受・傍聴システムの存在とその機能についての報告が、この事態を追求しているジャーナリストやウオッチしているNPOの手によってなされた。

英国オメガ・ファウンデーション、スティーブ・ライト氏は、「世界中のあらゆる国家があらゆるかたちで、治安および軍事目的で、傍受・傍聴システムを張り巡らしている」と語る。

英国オメガ・ファウンデーション、スティーブ・ライト氏
英国オメガ・ファウンデーション、スティーブ・ライト氏



「それは西側ハイテク企業の納入による、中国西蔵自治区における歩行者までをも含めたトラフィックコントロールシステムの導入といったものまでに広がっている」と、世界各地の例を語る。

「世界のおおよそほとんどの国々では、これらの行為が明らかになっても、違法なものではないため、その勢いはとどまることがない」と指摘する。そして「そのシステムそのものが、デジタルネットワーク化することで、ただ収集するだけでなく、データマイニングによる効率的な活用が始まりだしている英国の例もある」というのだ。

エシュロンは全インターネットトラフィックを傍受、分析できるように準備

次に、“エシュロン”の存在を白日のもとにし続けるために活動を続ける、英国のTVジャーナリスト、ダンカン・キャンベル氏によって、今まで分かってきたエシュロンの実態についてのレポーティングがなされた。

英国のTVジャーナリスト、ダンカン・キャンベル氏
英国のTVジャーナリスト、ダンカン・キャンベル氏



“エシュロン”はアメリカを中心とする英語圏の国々による非公開の国際傍受ネットワークである。これらは米国のNSC(国家安全保障局)とそれに相当する英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの安全保障機関の連合体によって運営されているという。

まず、キャンベル氏は“エシュロン”の存在を証明するものとして、必要以上の規模を持った衛星傍受施設の存在を、そしてそれが米国、英国、ニュージーランド、オーストラリアの各地や青森の三沢基地内にあることを、映像イメージを示しながら指摘。これらの施設を通じて「あらゆる通信衛星の情報トラフィックが傍受され、相互のネットワークを通じて活用、蓄積されている」と述べる。

未だ明らかにされない“エシュロン”の存在に対して、欧州議会はキャンベル氏に対し、調査を委託、その成果が2000年2月23日に発表されている。

その調査成果や新たに収集した情報によると、その傍受網は、衛星のみならず、海底ケーブル回線の直接傍受や、マイクロウエーブ波や指向性アンテナによる傍受と多岐に渡っており、その精度も「'90年代に入って、格段に上昇し、音声による個別化が可能」となったと語る。ただし、「その音声の個別化は、声紋による個別の特定にとどまり、俗に述べられているように、全く対象化していない人物に対するある種の単語が入れば収集されるというものまでが、一般的に取り入れられている状態ではない」と語る。

この総合的な国家および国家連合による傍受・傍聴システムは、「“エシュロン”にとどまらず、フランスにも独自のものが存在している」と語り、米国FBIも国際犯罪対応のため、EUの治安部門に共同のシステム導入とネットワーク作りを呼びかけている状況にあるという。

キャンベル氏によると「“エシュロン”はインターネットの傍受にまで手を出そうとしている」という。「欧州内での電子メールのトラフィックでありながら、米国内の特定のポイントを経由する頻繁なルーティングのケースは、その兆候のひとつ」としている。そして、「テラ・ペタ規模のメモリー蓄積を有して、3ヵ月程度の全インターネットトラフィックを傍受し、分析できるように準備している」というのだ。

常時不特定多数を監視するシステムも今や技術的には可能な領域に

翌14日の午前に続いて開かれたセクション講演のテーマは“ワールド・コミュニケーション”。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、コンピュータ・セキュリティー・リサーチセンターのサイモン・デービス氏が“技術はプライバシーを廃する”をテーマにまず発言した。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、コンピュータ・セキュリティー・リサーチセンターのサイモン・デービス氏ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、コンピュータ・セキュリティー・リサーチセンターのサイモン・デービス氏



昨日のセクション講演を受けて「デジタルネットワークによる地球レベルの情報化の恩恵は、プライバシーをコントロールしたいという存在をももたらしている」と語り、「英国だけでも政府・民間を問わず、150万個以上のカメラが隠され、モニタリングされており、その行為自体は全く違法なものでは無い」と指摘する。

更に「今までであれば例え“エシュロン”のようなものがあったとしても、それをリアルタイムで分析し、常時不特定多数を監視するようなことは不可能であったが、それも今や技術的には可能な領域になって来た」と指摘する。この“地球上においてプライバシー無き時代”を迎えないためにも、「パブリックアクセスによるネットワークの整備と、その土壌による自由なソフトウェア開発環境、特にオープンな暗号テクノロジーの開発と活用が求められる」と訴えた。

地球規模での情報通信教育の実現を

続いて、アムステルダム大学の人権・コミュニケーション・センター、ケース・ハメリンク氏が“情報世界の地球統治:多様な関心のコンフリクトが渦巻くアリーナの中で”をテーマに発言した。

アムステルダム大学の人権・コミュニケーション・センター、ケース・ハメリンク氏アムステルダム大学の人権・コミュニケーション・センター、ケース・ハメリンク氏



ハメリンク氏は、世界規模の情報ネットワーク社会を例え、“グローバル・ビルボード・ソサエティー”と比喩し、「今や世界中、どのような生活をしていてもコマーシャルメッセージからは逃れられなくなっている」とした。

「世界中に流通している広告費用が年間10兆US$になっているにも関わらず、その広告が主な対象としているのは世界の人口の10%程度の人々である」と指摘する。そして「例え望んだとしても、普通だと買うことのできないような物をメッセージ化するこの行為と現実こそが、地球規模のデジタルデバイド最大の悪い点と言ってもいいだろう」と語った。

このような、持つ者、持たざる者の関係を地球規模で広がっている現実に対し、「地球規模での情報通信教育の実現が必要だ。インターネットを持たざる対象に対しては、持つ側がインターネットを学べる現場に提供することが不可欠である」と述べた。

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