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【World InfoCon Vol.2】“私たちの生きて行くスペースを切り開くために、私たちの手によるメディア・アクティビズムが必要なのだ”――セクション講演より

2000年07月17日 00時00分更新

文● 岡田智博 coolstates.com

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デジタル社会で人々が取り囲まれる環境のかたちについて、ヨーロッパにおける文化ヘリテージとメディア経済を主要な課題として活発な議論が展開されている“World InfoCon”。ブリュッセルを舞台に、基調講演に続き“インフォワールド”を主題にしたセクション講演が行なわれた。

最初に発言したのは、シカゴ大学教授で社会情報学のサスキア・サッセン氏。“E-スペースの地誌学:情報通信網とパブリックスペース”を主題とした講演である。

シカゴ大学教授で社会情報学のサスキア・サッセン氏
シカゴ大学教授で社会情報学のサスキア・サッセン氏



私企業によるデジタルスペースの極大化がヒエラルキーを生む

サッセン氏は「今やインフラストラクチャーと経済、文化、テクノロジーが切り離す事のできない状態にある」と定義付けた上で、「ハイパフォーマンスな情報通信網の存在によって、地球規模で強い力を持った企業によるプライベート・デジタル・スペースと、そことは異なる構造によるパブリック・デジタル・スペースという存在がある」と語った。

その歴史を振り返り、ハッカーたちによる、パブリック・アクセス・ネットワークの'80年代初頭における勃興が、デジタルネットワーク、特に初期のインターネットの拡張に貢献、その後オープンソースによるソフトウェアの開発と活用などの発展がもたらされていったことに触れた。

しかし、「'93年にWWWが登場した後、ドットコム・ビジネスの登場やそれを支えるソフトウェアのプライベタリゼーションなビジネスが登場し、急速に、私企業によるデジタル・スペースが拡張した。'90年代後半にはソフトウェアプロダクトの寡占が起こる事態にまでなってしまった」と指摘、「今や地球規模で極大化した私企業によるネットワークがEトレーディングというかたちで経済に深い影響を及ぼし、そのことが国際政治にすら影響を及ぼすようになってしまった」と述べた。

この「私企業によるデジタルスペースの極大化によって、今や地球規模での社会的なヒエラルキーを生み出している」と指摘、「その中の限られたプレーヤーによってネットワーク上で動かされている巨大な資金が、時にはアジアでの通貨危機のように国家権力ですら統治できない戦争的な状態すらもたらしている」と語る。サッセン氏は「このような今や強大な力を持つグローバルファイナンスに今のような自由を与えるのではなく、様々な手をかけることが必要である」と述べた。

パブリック・アクセス・ネットワークの整備が必要

一方で「もはや人々が社会活動を行なう上で、不可欠となったデジタルネットワークを、商業的に用いるのでは無い、パブリック・アクセス・ネットワークの整備が必要だ」とサッセン氏は語る。このパブリック・アクセス・ネットワークによって、人々は私企業によるデジタルスペースに影響を受けるだけでなく、サイバースペースの中で活動できる力となり、地球規模の新しい社会的な連帯を生み出すことが可能となると氏は指摘する。

そして「このプライベート・デジタル・スペースとパブリック・デジタル・スペースがともに存在してこそ、健全なデジタルスペースのエコロジーが成り立つ」とサッセン氏は語った。その上で「一元的なグローバルなネットワークよりも、ローカルなデジタル社会を構築し、それぞれのローカルなパブリックアクセスがネットワーク化することで、グローバルなパブリック・デジタル・スペースを構成することの方が望ましいモデルである」と指摘する。「このことによって、ローカルな社会を構成するそれぞれの個人がグローバルな存在となりうる」というのである。

「このローカル/グローバルなネットワークは、ニューエコノミクスの姿をも変えるであろう」とサッセン氏は語る。「ハンガリーの手作り人形を作るおばあさんの作品を、ごくわずかであるが世界各地の人が関心を持って買うようなグローバルサーカス(広場)が、今のような規模の極大化が決め手となっているグローバルマーケットとは別に生まれる」という。

地球規模のデジタルリレーションシップ。プレス・プロジェクトを展開

次に発言したのは、バングラディッシュのメディア・アクティビストで写真家のサヒデュール・アラム氏。氏は“知識とその力、そしてデジタルデバイド”という主題で発言した。

バングラディッシュのメディアアクティビストで写真家のサヒデュール・アラム氏
バングラディッシュのメディアアクティビストで写真家のサヒデュール・アラム氏



「テクノロジーはどんな場合でもナチュラルなものではない」と語るアラム氏、「世界がいかに高度に情報化することになったとしても、既に深く存在する古い感覚や地域に密着した考え方が大きな障壁となって、多くの地域に在る人がその果実を享受することを難しくしている」という。「その障壁を打ち破り、根本的な変化を実現するためには、地球規模でのデジタルメディアの威力を活かしたリレーションシップが必要」だと語る。

その具体的な事例として、氏が展開している、Webによるプレスプロジェクトを紹介。氏が住むバングラディッシュを中心に、南アジアやチベットで展開している社会運動や社会状況に密着したフォトアーカイブと、英語によるレポート集が、アメリカやヨーロッパも含めマルチナショナルな協力者の手によって運営されている。地球規模でのアクセスの増大とコンテンツそのものが、国外のメディアで頻繁に用いられるようになっていることを紹介した。


アラム氏の活動は氏が展開しているメディア・サイト“DRIK”
http://www.drik.net/ で見ることが出来る

自らの生きて行くスペースを切り開くために、自らの手でアクティビズムを

この話を受けて、聴衆より「Webでパブリッシングしてどれだけバングラディッシュの人が見るのか」と指摘。それに対して、アラム氏は「新聞を発行するには多大な資本が必要で、それだけでなく様々な政府によるレギュレーションと内容に対する圧力が存在して全く自由でない。ならば新聞を発行するよりも極めて安価にメディアとして機能し、それどころかレギュレーションが無いため全く自由なWEBで発行しようということになった。これが自由に報道しているメディアということで、バングラディッシュの国内でもインターネットがつながっていたら見ようというコンテンツになっただけでなく、これがインターネットなのだという認識を及ぼしているのはないかと思っている」と語った。

その次に「なぜアクティビストになったのか」と聴衆より質問が続いた。アラム氏は「確かに私が官僚にもビジネスマンにも、また、マスメディアに行かず、この道を進んだのは、貧しさの中で育ち、何とかこの社会を変えたいという意思がジャーナリズムに傾き、そして意思の実現のためにもメディアアクティビズムに行ったということだろう。マスメディアの中のジャーナリストとして制限された環境の中で仕事をするよりも、自由な立場のアクティビストの第一人者として、マスメディアに影響を与えているのが今の私なのだから」と語り、「私たちの生きて行くスペースを切り開くために、私たちの手によるアクティビズムが必要なのだ」と述べ締めくくった。

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