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実社会で役立つ“ヒューマノイドロボット ROBOVIE”ATRでお披露目!!――日常活動型ロボットコンソーシアムより

2000年07月17日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

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工場のロボットでもペットロボットでもなく、真の意味で人間社会にとけこめるロボット開発を――7月14日、京都府精華町のATR知能映像研究所にて“第1回 日常活動型ロボットコンソーシアム”が開催された。当研究所が開発した車輪型のヒューマノイドロボット『ROBOVIE(ロボビー)』を外部の研究者とともに共同利用しながら、日常活動型ロボットのアプリケーションと可能性を探求しようというもの。外部から申し込みのあった参加者は全国の大学、メーカー、研究所から約10名。第1回ということでATR側からの研究成果発表、ROBOVIEのお披露目、参加者同士の懇親会が行なわれた。

研究所内の会議室に集まった参加者たち。基礎研究、看護・医療技術関連、情報通信、自動車関連などプロフィールはさまざま。「オモチャ屋さんには任せておけない、と思ったから来たんですよ」という参加者がいたのが印象的
研究所内の会議室に集まった参加者たち。基礎研究、看護・医療技術関連、情報通信、自動車関連などプロフィールはさまざま。「オモチャ屋さんには任せておけない、と思ったから来たんですよ」という参加者がいたのが印象的



ATR知能映像研究所社長・中津良平氏も挨拶に立った。「研究開発とビジネスが渾然一体となって進んでいくのが理想。技術だけでなく、アートや感性の分野、マーケットも重視してやっていきたい」
ATR知能映像研究所社長・中津良平氏も挨拶に立った。「研究開発とビジネスが渾然一体となって進んでいくのが理想。技術だけでなく、アートや感性の分野、マーケットも重視してやっていきたい」



工業ロボット、ペットロボットを超えて

いうまでもなく、すでにロボットは私たち人間社会に浸透している。しかしそれはカッコつきの「浸透」にすぎない……開会後、本プロジェクトに長らく関ってきた石黒浩氏(和歌山大学)から今後の開発方針が語られた。すなわち「ロボットを人間の同僚とみなし、対等の立場で双方向コミュニケーションがとれること。人間世界に入り込んで、有効なインフラとしてはたらくロボットを作っていきたい」ということだ。

石黒氏(手前)「インターネットが生活に必要不可欠であるように“インフラ としてのロボット”を目指したい」
石黒氏(手前)「インターネットが生活に必要不可欠であるように“インフラ としてのロボット”を目指したい」



「工場用ロボットの場合、特定のタスクを遂行することに存在意義があります。それ以上でも以下でもない。私たちが考えるロボットは“存在すること自体が価値である”ようなロボットなのです」

工場のロボットは人から命令を与えられるだけの存在である。また故障したり動力源が不足した場合は人が見つけて修理すべきだと考えられてきた。こうした従来型のパラダイムから研究者が抜けだせなければ、ロボットたちは永遠に工場に閉じ込められたままだろう。
 
しかし昨年来ブームを呼んでいるペット型ロボットは、一見コミュニケーション能力があるように見えるし、存在自体が価値であることは間違いない。だが石黒氏は「我々の目指すものはペットロボットとは違う」と明言する。

「ペットロボットは“ペット”として人間から切り離された存在。我々が想定するのは人間社会で実際に役に立つロボット。つまりロボットにもちゃんと仕事をしてもらおうということです」

ラジオ体操や敬礼も。存在感を備えるロボット

ロボットには通常のコンピューターが行なうような情報的な支援だけではなく、物理的な支援――荷物の運搬や、病人の介護、災害時の被災者の救援など多くの可能性がある。この目標を実現するためには“道具”の粋を出ないインダストリアルロボットも、決められたリアクションを繰り返し電源が切れると死んでしまうペットロボットも不足である。役立つ仕事をしてくれて、自ら眠り自ら食事(動力供給)をし、一緒にいて助けてくれるようなロボットを……。これが本コンソーシアムの目標である。

続いて小野哲雄氏(ATR知能映像研究所)が、このコンセプトを映像化した“ROBOVIEの一日”と題するビデオを上映した。朝、目覚めたROBOVIEは伸びをし、ラジオ体操(!)をする。ビルの警備員として働いている彼は、出勤すると廊下を巡回し、人に会ったら敬礼で答える。夜はオフタイム。飼い主(?)の人間が頭を撫でてやると「わーいわーい」と喜びの声を上げ、「だいすきー!」と言って人を抱きしめる……。

小野氏「動きの愛らしさなど表層的なものにすぎないと思うかもしれません が、むしろ表層感、存在感こそ、人間と生活するロボットにとっては重要」
小野氏「動きの愛らしさなど表層的なものにすぎないと思うかもしれません が、むしろ表層感、存在感こそ、人間と生活するロボットにとっては重要」



  これら一連の行動はROBOVIEの存在をイメージさせるためのデモであり、動作はすべてあらかじめプログラミングされたものだろう。しかし百聞は一見にしかず。場内からは笑いが起こり、愛らしい動作に目を見はらされる。

ロボットが人間に命令する――相互コミュニケーション実験も

続いて今井倫太氏(ATR知能映像研究所)が、これまでの研究内容の紹介として“ロボットからの発話”実験を報告した。ロボットが公共の場で仕事をするようになれば「ロボットが人間に助けを求める=ロボットが人に命令する」局面が当然出てくるだろう。(前に進めないので)障害物をどけてほしい、(ご案内するから)私についてきてください……など。「人間がロボットに命令する」というなら当り前と思われるが、はたしてその逆は?

今井氏(中央)「ロボットと人の対話が成り立つためには、やはり“表情”的 なハードウェアは必要」
今井氏(中央)「ロボットと人の対話が成り立つためには、やはり“表情”的 なハードウェアは必要」



「実験をしてみて分かったのは、人はロボットが言うことを聞き取れないし聞こうともしないということ。人とロボットを近づけるためには合成音声だけでなく関係性のインターフェースが必要なのです」

ROBOVIEは日本語でしゃべることのできるロボットだ。しかし人間の声ですら断片的な録音を聞かされると非常に聞き取りにくい。ロボットボイスではなおさらだ。ROBOVIEの前に障害物のハコがあり、彼が人間に「コレ、ドケテクダサイ」と命令する実験では、ROBOVIEの視線が重要であることが示された。箱だけ、または相手の顔だけを見て発話した場合、人間はROBOVIEの言うことを正確に理解できない。ただ、箱と相手の顔を繰り返し見(首をひんぱんに動かしながらアイコンタクトをとる)ながら「ドケテクダサイ」と言った場合には、人は素早く箱をどけてあげられたのだ。

人間を背景から切り出して認識する全方位センサー

後半は場所をラボに移して、ROBOVIEが参加者に公開された。超音波センサーが人の存在や障害物の有無を判定し、頭上、両肩、腕につけられた触覚センサーがアクションを起させる。肩をたたかれると「なーに?」といって振り向くといった具合だ。また人間を背景から切り出して認識する全方位センサー、ROBOVIEの動きを簡単に制御できるソフトウェアもあわせて紹介された。今後、参加者はこれらを自由に使ってアイデアを出しあい、共同研究を進めていくというわけである。

高さ114cm、重量39kgのROBOVIE
高さ114cm、重量39kgのROBOVIE



腕を大きく回して“ラジオ体操”するROBOVIE。無骨な作りだが、動きだすと非常に愛敬がある腕を大きく回して“ラジオ体操”するROBOVIE。無骨な作りだが、動きだすと非常に愛敬がある



筆者が動くROBOVIEを見て真っ先に思い出したのは手塚治虫の漫画『火の鳥』に登場する“ロビタ”である。ロビタは未来の人間社会に完全にとけ込んだ働くロボットだ。危険なアイソトープ農場で黙々と働き、各家庭ではお手伝いさんとして愛されている。より人間に近いアンドロイド型ロボットも多数出まわっているのに、車輪で移動し腕と頭を回転させることしかできない不格好なロビタの方が、なぜか子供たちに人気がある。実はロビタは半分人間であり、頭脳の中に人間であった時の記憶が残っているために何ともいえない愛敬と人間味があったのだ……という設定なのだが。
 
本当に我々はロビタ、いやROBOVIEとともに暮らすようになるのだろうか? 面倒な仕事をやってもらったり、一緒に遊んでくれたり寂しい時には慰めてもらったり。それが遠い将来か、すぐそこにある未来かは分からないが、確実にROBOVIEは最初の一歩を踏み出している。今後の研究成果に期待したい。

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