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コンテンツ配信で力を発揮する『PDF Merchant』。小説配信サイト“eNOVELS”も採用を検討――PDFカンファレンスより

2000年07月17日 00時00分更新

文● 山木大志

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7月13日、14日の両日、東京・港区の大崎ゲートシティ大崎において“PDFカンファレンス”が開催された。同カンファレンスは、PDFの普及と活用を目指す催しである。そのセッションの1つ“PDFによるコンテンツ配信”で、PDFによる出版について、いくつかの報告が行なわれたので、その概要をお伝えする。

PDFによるコンテンツ配信、販売、実運用という3つの側面からの講演

このセッションでは、アドビシステムズ(株)ePaperソリューショングループ、フィールドプロダクトマネージャーの石原信義氏、(株)イーノベルズアソシエイツ取締役、週刊アスキー編集長の福岡俊弘氏、(株)日経BP社インターネット局技術部次長の三栖(みす)康夫氏が登壇した。

石原氏は、PDFによるコンテンツ配信のための支援技術『PDF Merchant』について、福岡氏は作家自身の手による作品の出版について、三栖氏は日経BP社のコンテンツ販売のためのシステムについて、それぞれ講演した。以下、この順に内容をご紹介する。

コンテンツの違法配布、改竄(かいざん)を防ぐPDF Merchant

石原氏は電子書籍のメリットとして以下の項目を上げた。

・廃刊、バックナンバーもデジタルでマスターを保存すれば、在庫が削減できる
・発行のリスクを最小限にしてテスト販売ができる。併せて、新人の発掘も容易になる
・顧客のニーズに合わせた“ばら売り”ができる
・音声、動画、検索機能など電子書籍ならでは付加価値を付けることができる

しかし、石原氏は併せて問題点も指摘した。それは「著作権の侵害です。電子書籍はコピーが簡単にできるうえ、改竄、盗用も容易だからです」という。そこで、「アドビシステムズは、この問題に対して、次のようなソリューションを提案しています。データフォーマットを改竄しにくいPDFにすること、さらに“PDF Merchant”によってセキュリティーを施すことです」

アドビシステムズ(株)、石原信義氏
アドビシステムズ(株)、石原信義氏



PDF Merchantは、簡単にいえばライセンス鍵(暗号)によって、正規に購入した人が特定のハードウェア上でしか、購入したコンテンツを見られないようにするものだ。PDF Merchantを使った販売、購入は次のような手順になる。

(1)購入者は暗号化されたPDFファイルを、Webサイトまたは雑誌添付のCD-ROMなどで入手する



(2)購入者は購入した書籍を選定し、販売者のWebサイトに申し込み、決済をすると、ライセンス鍵が送られてくる



(2)の申込をするときに、申込をしたときのコンピューターのCPU、HDなどの情報が同時に送信される。これによって、購入者は申込をしたハードウェアの上でしかPDFを閲覧できなくなる。

PDF Merchantは日本ではまだ稼働していない。アメリカでは、2月からamazon.comなどで運用が始まり、「Stephen Kingという作家が電子書籍だけで短編を出版したところ、2日間で50万件ものダウンロードがあり、数千万円を売り上げました」。

「現在、日本では大手出版社によるテスト運用が行なわれており、秋ごろの稼働を目指しています」ということだ。

興味のある方は、以下のホームページをご覧いただきたい。ここでの説明にしたがってAcrobat Reader 4.05をインストールすると、英語版のPDFコンテンツを無料で入手できる。無料とはいえ70種類もあり、『ALICE'S ADVENTURES IN WONDERLAND』(不思議の国のアリス)など、日本でも著名な著作も掲載されている。

http://www.adobe.co.jp/products/pdfmerchant/main.html

無料で手に入るPDFコンテンツ『ALICE'S ADVENTURES IN WONDERLAND』 無料で手に入るPDFコンテンツ『ALICE'S ADVENTURES IN WONDERLAND』



産地直送の小説配信サイト“eNOVELS”。アクセス数は1日15万ヒット

イーノベルズの福岡氏は“産地直送の小説配信サイトeNOVELSの現状”と題して、作家たちが直接コンテンツを販売するに至った経緯を説明した。

「今、出版物は1日約200点に登ります。しかし、そのほとんどは店頭に並ぶことさえなく返本されています。作家たちは出版社が自分たちの利益を守ってくれるのか不安になっています。作家の80パーセント程度がワープロ、パソコンなどで原稿を書いており、これとインターネットを使って何とかできないかというのが、eNOVELSの立ち上げの理由です」(福岡氏)。

(株)イーノベルズアソシエイツ取締役、福岡俊弘氏
(株)イーノベルズアソシエイツ取締役、福岡俊弘氏



福岡氏の説明によると、同サイトは'99年11月、推理小説作家井上夢人氏の個人サイトでスタート。無料コンテンツを配信したところ1日のダウンロードが900MBにも達した。このため、アスキーにサイト運営の代行を依頼。12月には、電子マネーによる有料コンテンツの配信に切り替わった。今年の5月にはクレジット決済も可能になり、同時に法人化。現在、株主として17名の作家が同サイトの運営に関わっている。

現在のアクセス件数は、平均1日15万ヒットに登る。毎週火曜日には内容を更新。掲載されている作品数は約70。販売価格は100円から300円。このうち、週刊アスキーに連載されている連載小説については、冊子発行の1週間前に読めるようになっている。

eNOVELSではファイルフォーマットをPDFにしている。「これは参画する作家たちが、改竄を極度に嫌うためです」。このため、テキストによる販売は考えていない、という。また、フォントや文字組みにもこだわりがあり、フォントをエンベッドできるPDFは、その表現手段として適していることも採用に理由だ。

「現在、eNOVELSでは前述のPDF Merchantの採用を積極的に検討しています」。これは、コンテンツ自体は安価なものの、ダウンロードに時間がかかり、読者側の負担が大きいという問題があるからだ。このため、CD-ROMでコンテンツを配布し、ダウンロード負担をライセンス鍵の取得に止めようという意図である。

eNOVELSのトップページ。参加している作家ごとにページが設けられている。無料のコンテンツもあるが、有料コンテンツも短編などは100円というものもある。URLは下記の通り
eNOVELSのトップページ。参加している作家ごとにページが設けられている。無料のコンテンツもあるが、有料コンテンツも短編などは100円というものもある。URLは下記の通り



http://www.e-novels.net

バックナンバーをPDF、HTMLで配信する日経BP社のシステム

日経BP社の三栖氏は、日経BP社記事検索・購入システムの説明を行なった。

(株)日経BP社、三栖(みす)康夫氏
(株)日経BP社、三栖(みす)康夫氏



「日経BP社では、同社が発行する26雑誌のバックナンバーをインターネット経由で販売しています。コンテンツはPDFとHTMLでページ単位で購入できます。決済はカードと定額契約(法人のみ)があります」(三栖氏)。

このシステムでは、大量のアクセスが同時にあった場合にシステムダウンが起こらないよう仕組みやID、不正アクセスに対する防御の仕組み、パスワードの管理など一般的な配信サービスの機能のほか、「定期購読者に対する割引ができるように、購読者管理システムとの連携が図られいます。また、記事が誤っていたことが判明したときに、緊急に停止する仕組みも持っています」

PDFは“コンテンツ配信に便利”とは、登場当初から言われていたことだが、現在は運用ノウハウも蓄積し、さらにセキュリティーに関しても環境整備が進んできたことが伺える。今、コンテンツ配信を考えるとき、PDFは欠かせない選択肢の1つとなりつつあるようだ。

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