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PDFベースのオフィス生産性向上の仕組み――東芝とToo、セミナーを共催

2000年07月14日 00時00分更新

文● 山木大志

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7月12日、(株)東芝と(株)Tooが共催するセミナー“Collaboration Seminar 2000――PDFワークフロー戦略で未来が見える”が開催された。これはPDFをベースとしたセミナーで、パブリッシング向けと一般企業向けに行なわれたもの。ここでは、そのうち2つのセミナーについてレポートする。

パブリッシング向けと一般企業向けに分けられたセミナー

今回のセミナーを共催したTooは、一般にはなじみのない企業だが、DTP関連ではハード、ソフトの強力なベンダーである。職業的なDTPユーザーの間で定番のレイアウトソフト、QuarkXPressを日本に紹介し、販売したはこの会社である(*)。かなり異色の取り合わせであり、今後、DTP市場に東芝が進出する兆しかもしれない。

*:QuarkXPressの総卸元は、現在、米Quarkの日本法人クォーク・ジャパン(株)

今回のセミナー内容は、(1)“21世紀のDTP環境”、(2)“印刷に最適なPDF豆知識”というパブリッシング向けと、(3)“ビジネス現場におけるワークフロー刷新ツールAdobe Acrobat”、(4)“PDFとXMLによるワークフローソリューション”という一般企業向けの話題が用意されていた。

セミナー会場も、それぞれパブリッシング向けと一般企業向けとに分かれていた。前者の方が会場が5割くらい大きく、来場者も多かった。PDFは一般企業での関心が高く、したがって一般企業向けセミナーの方が来場者が多いのが最近の傾向である。この逆転現象はいささか不思議だ。来場者はPDFよりも「東芝がパブリッシング・マーケットに何を訴求するのか?」に関心があったように思われる。

以下、セミナー“21世紀のDTP環境”と“PDFとXMLによるワークフローソリューション”について報告する。

ワークフロー管理システム『InConcert』

上記のセミナーは、東芝SIコンサルティング事業室ITコンサルティング担当の寺下陽介氏が担当した。2つのセミナーでは、東芝が事業として推進している“ワークフロー管理”のソリューションがベースとなっているので、最初にその内容を紹介する。寺下氏によると「“ワークフロー”という言葉は、アメリカでは15年前から使われている」という。

これは単にプロセスを客観的に表現した言葉ではなく、改善されるべきテーマとしての言葉だ。では“ワークフロー”とは何か?

一般にワークフロー管理システムは、米国のDelphi Consulting社によって、「オフィスは、ドキュメントを原材料として業務を行なう情報工場である。ワークフローによって、ドキュメント(原材料)に工場の概念が適用される」と定義されている(寺下氏)。具体的には、個人がバラバラに作業し、テーマごとに進め方も異なる現在のオフィスワークを工場のようにするということ。各スタッフの業務を平準化し、定型的な業務については自動化するという意味だ。

これを実現するために東芝のワークフロー管理システム『InConcert』とインターネット技術を利用する。

「InConcertは、もともとアメリカの国防総省が活用していた仕組みを、ワークフロー管理システムの標準化団体WfMC(Workflow Management Consortium)が商品化を支援したものです。'95年に東芝が日本語化を行ない、すでに製造業、官公庁、通信会社などに多くの供給実績を持っています」

『InConcert』を使ったワークフロー管理は、概略としてProcess Definition(ワークフローの定義)―> Process Enactment(プロセスの実行)―>Process Mesurement(経過、結果の表示、測定)、と言う流れで行なわれる。

「InConcertは、実際にプロセスが進行している間にその経過を表示できることに特徴があります。ダイナミックに適材適所に対応し、適切な判断を可能にすつことで、スタッフがドキュメント制作のための時間を節約できるようにします」。また、「現在のコンピューター、ネットワークシステムは導入時期が異なるものが複数存在します。これらは目的も性能も異なるため、バラバラに運用されているのが実態ですが、InConcertを利用することで、これらを有機的に結合して活用することもできます」

InConcertの機能イメージ。ユーザーインターフェースは、ログインするスタッフの業務、権限によって異なったものにできる(右下)。実際に使うときには、認証の手順が必要だ(左上)。これは一般にユーザーID、パスワードを使う。メニューからは他の業務用サーバーへのアクセスも可能だ(中上)。InConcert本体は、書類の申請、承認、処理を管理、支援する(右上)
InConcertの機能イメージ。ユーザーインターフェースは、ログインするスタッフの業務、権限によって異なったものにできる(右下)。実際に使うときには、認証の手順が必要だ(左上)。これは一般にユーザーID、パスワードを使う。メニューからは他の業務用サーバーへのアクセスも可能だ(中上)。InConcert本体は、書類の申請、承認、処理を管理、支援する(右上)



InConcertは、グループウェアと連携させることができる。「InConcert上でグループウェアを使うと、既存の業務システムとの連携が可能です」(寺下氏)。単にスケジュールなどを共有できるだけでなく、会計システムやデータベースとの連携も可能
InConcertは、グループウェアと連携させることができる。「InConcert上でグループウェアを使うと、既存の業務システムとの連携が可能です」(寺下氏)。単にスケジュールなどを共有できるだけでなく、会計システムやデータベースとの連携も可能



一般企業でのワークフロー管理の実際――電話会社の例

InConcertを利用した一般企業向けセミナー、“PDFとXMLによるワークフローソリューション”では、InConcertを利用した電話会社向けのソリューションが実演された。

InCocertのユーザーインターフェースは、Webブラウザーに統一されている。Webの背後では、ミドルウェア、Javaアプレット、XMLなど各種の技術が、ユーザーの要求(ブラウザー上での操作)によってダイナミックに動作するようになっている。また、汎用ドキュメントの生成が必要なときには、Acrobat Distiller(*)が自動的にPDFを生成する。

(*)Acrobat Distiller:Acrobatを構成する主要コンポーネントの1つ。PDFを作成する

「電話会社では、顧客に直接接する店舗のスタッフが、接客などのために必要なユーザー情報などを入力する十分な時間を与えられません。逆に、本社では新製品の企画にユーザーのニーズを反映させたいと考えています。そこで、InConcertを使ったシステムでは、最初に電話会社の接客、サポート業務を分析。これをJavaアプレットとXMLを使ったモデルに再構築することを提案しています」

電話会社では、情報収集の第一線である店舗から多く情報を期待できない問題を抱えている
電話会社では、情報収集の第一線である店舗から多く情報を期待できない問題を抱えている



これによって、たとえば店舗スタッフが顧客から問い合わせを受けた場合、端末に簡単な入力をするだけで、サポート担当者に自動的に連絡される。メールを送る必要すらない。さらに、サポート担当者はその内容を見て、サポート方法、たとえば電話する、ファックスするなどを選択する。文書が必要な場合は、サポートに必要な最小限の文言を書き込むだけで、サポート文書(PDF)が自動的に作成される。これには、挨拶、連絡先、担当者名などが自動的に記載される。しかも、このプロセスはシステムが常時監視しており、今、どこまで進行しているのかを瞬時に確認できる。

業務の進捗状況は、Javaアプレットによってリアルタイムに把握できる(中央左)。案件に関するデータはXML+スタイルシートでWeb上に分かりやすい形で表示される(右中央)。文書にする必要があるときは、簡単な書き込みをしてから、テンプレートを選択するだけで、PDFがダイナミックに作成される
業務の進捗状況は、Javaアプレットによってリアルタイムに把握できる(中央左)。案件に関するデータはXML+スタイルシートでWeb上に分かりやすい形で表示される(右中央)。文書にする必要があるときは、簡単な書き込みをしてから、テンプレートを選択するだけで、PDFがダイナミックに作成される



「これを使うと、誰がどのくらいの時間で、どのくらいの仕事量をこなしているかがすぐに分かります。とはいえ、それをそのまま評価に結びつけることは危険です」と寺下氏は、単純な勤務評価につなげることに対して、警鐘を鳴らしている。寺下氏はこれ以上を語らなかったが、おそらくInConcertは、オフィスの生産性を向上させるための手段であって、勤務評価の手段ではないと言いたかったのだろう。 

DTPでのワークフロー管理の実際

パブリッシング向けのセミナー“21世紀のDTP環境”では、DTPのモデル作業が実演された。

「DTPで印刷物を制作するワークフローは、標準化されていません。編集者、デザイナー、製版・印刷会社がそれぞれどこまでの作業を行なうかを明確に決めて、自分のパートに専念できるビジネスモデルを考えてみました」(寺下氏)。

このモデルでは、初校から責了に至るまで版の制作ごとにワークフローを分岐し、各版の作業内容もさらに細分化している。校正のやり取りは、PDFで行なう前提となっており、いわゆる赤字はAcobatの校正機能でサポートするようになっている。誰に校正を送ったか、誰からどのような赤字が入ったか、それをいつ版に反映させたかなどを、サーバーで一元管理する。また、作業に当たる担当者が長い出張などで着手できないときのために、代行者を指定する仕組みもある。

寺下氏の言うとおり、編集、デザインのプロセスは定形がないに等しく、また、その進行速度も担当者の技量に依存する実態がある。InConcertでは、作業を細かく分析することで、ある程度の定型に平準化し、プロセスの管理を可能にしている。実演されたのは実際に導入されたモデルではないが、もし、このモデルが現場で運用可能なら、現在の編集に関わる多くのスタッフは、作業の仕方を根底から変える必要があるだろう。現在は、作業時間が多くを雑務が占めているケースが多いが、InConcertはそれらの大部分を自動処理してくれる。編集者、制作者は、雑務から解放される一方、鋭くその能力が問われることになるだろう。

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