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【特別対談“インターネットとNPO活動”Vol.2】NPO活動とインターネットの密接な関係

2000年07月04日 00時00分更新

文● 構成/編集 若菜麻里、編集部 井上猛雄

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特別対談の前編では、主に“インターネットと情報格差”に関する日米間の状況、そして世界的な状況にまで話が進んだ。米国でNPO活動などを中心に取材活動を精力的に続けている岡部一明氏と、市民団体JCA-NETで常任理事を務めるジャーナリストの福冨忠和氏をお迎えし、引き続き、対談をお送りする。本稿では“インターネットとNPO活動”をテーマの中心に置き、その問題点などについて語ってもらった。

インターネットはNPO活動だ(福冨)

――NPOに関してですが、先日ある高名な経済学者が、「これからECなどの新しい経済モデルの中では、NPOが公的なセクター(Public Sector)と民間セクター(Private Sector)の中間に位置するものとして、中核的な役割を果たす」というような話をしていました。インターネットとNPO活動の関わりについては、どのようにお考えでしょうか?

岡部「アメリカではNPOは活性化した社会の象徴のひとつです。日本では公共政策は行政がやるものという感じですが、アメリカではNPOが進めている。アメリカのほとんどの都営住宅はNPOが建築し、精神障害者のための福祉サービスといったこともNPOが自分たちのアプローチでやっている」

サンフランシスコのアーバブエナ地区にあるメンデルス ゾーンハウス。高齢者向けの低賃金住宅。これらも すべてNPOが進めたもの
サンフランシスコのアーバブエナ地区にあるメンデルス ゾーンハウス。高齢者向けの低賃金住宅。これらも すべてNPOが進めたもの

福冨「確かにNPOは重要だけど、実際にやるのはたいへんです(笑)」

岡部「以前、福冨さんが“インターネットはNPOなんだ”っておっしゃっていたのが、とても印象に残っています」

福冨「それはそうなんですけど」

岡部「かつてパソコン産業がうまれてくる過程でも、カウンターカルチャーのような文化が入ってきていたし、企業的な技術開発という面ではなく、市民の自由なつながりや情報交換の中でパソコン産業が育っていったと思います。また今のインターネットにしても、NPO的な動きが、活発なネットワーク関係の技術開発の基礎になるという具合に、うまく回転している気がします。インターネット経済とNPOは別物ではないと感じます」

――日本国内での具体的な活動にはどのようなものがありますか?

福冨「たとえば、あるNPOがゴミ処理場の問題をホームページで公開して討論する、といったことはあります。ただし、国際会議の場で“誰か日本のNPOを代表して英語で発表してください”と言われても人材的に難しいんです。あるいは逆に、東チモール問題を扱うNPOなどについては、学術的な知識のある人がインターネットのメーリングリストの運営など、地道な作業までこなさなければならない」


岡部一明氏。米サンフランシスコ在住のフリージャーナリスト。 '50年栃木県生まれ。'79年カリフォルニア大学自然資源保全課 卒業。各種の市民団体勤務を経て独立。著書に『パソコン市民 ネットワーク』(技術と人間)、『インターネット市民革命』(御茶の水 書房)、『社会が育てる市民運動-アメリカのNPO制度』(社会新報 ブックレット)、『多民族社会の到来』(御茶の水書房)、『日系アメリカ 人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)などがある
岡部一明氏。米サンフランシスコ在住のフリージャーナリスト。 '50年栃木県生まれ。'79年カリフォルニア大学自然資源保全課 卒業。各種の市民団体勤務を経て独立。著書に『パソコン市民 ネットワーク』(技術と人間)、『インターネット市民革命』(御茶の水 書房)、『社会が育てる市民運動-アメリカのNPO制度』(社会新報 ブックレット)、『多民族社会の到来』(御茶の水書房)、『日系アメリカ 人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)などがある


インターネットで市民活動に参加できるバックボーンを

岡部「国際的な枠組み作りの中に、日本のNPOはなかなか入っていけないというわけですか」

福冨「入っていけるはずなんですよ、インターネットソサエティのAPC(進歩的コミュニケーション協会)などからも重要なイベントへの誘いはあります。でも、インターネット技術に詳しくて、アジアの問題やNPOのことも分かっていて、英語はペラペラ、しかも会議に出る時間もある、なんていう人はなかなかいないんです。さらに国際NGOだろうと、基金集めから自分でしなければならないということになると、普通の人ではなかなかできないというのが現状です」

岡部「そうですよね、日本では基盤がないですからね。日本でもインターネットが活発に使われはじめましたけれど、アメリカのようにNPO的な視点を持った層があまりいないってことですよね」

福冨「そうですね」

岡部「アメリカでは大きな非営利団体がいっぱいあって、十分な数の専任スタッフがいて、インターネットができる人が必ずいる。NPOへの助成金に関しても、日本は約300財団。アメリカは何万財団とある。アメリカの中規模の財団でも、日本の上位20財団分をひっくるめたくらいの金額の助成を出している。タイズ財団では、笹川平和財団、トヨタ財団、三菱財団の3財団分よりも、大きな額を市民活動に助成している」

福冨「タイズ財団って、母体は不動産系の会社か何かですか?」

岡部「個人のコンサルタントが作った財団なので、自分ではお金を持っていません。財団を作るために寄付を集めたという、めずらしい財団です。でもアメリカにはそういったケースが他にもいろいろあります」



福冨忠和氏。多数のコラムや書籍の執筆のほか、メディア
の企画・制作から、大学講師、各種の委員、NGOメンバー
まで、広範な活動を行なう。その対象も、メディアコンテスト、
デジタル技術、ネット規制問題、アート、ECまでに及ぶ。
総じてデジタルとリアルワールドのつなぎ目が主な関心で
あり、ワークフィールドとなっている。NPO活動としては、
市民団体JCA-NETで常任理事も務めている。ASCII24では
コラム“電子麺 e-noodle”を連載中

ネットでNPO活動にいかに風穴を空けられるのか? その問題点をさぐる

岡部「アメリカではインターネットを通じた市民運動がすごく活発です。いろいろな組織から人が集まってきて自由に発言している。インターネットを活用して、全米的にグローバルに運動をつなげていくと、劇的な効果が出たりするので面白いですよね。取材をしていてよく分かります。実際にダイナミックに物事が動いて、変わっていくことがありますから」

「それがアメリカだけでなく、日本でも少しずつ起こってきている感じがします。私が関わっている環境行政改革フォーラムは確乎たる組織ではないんですが、専門家も含めて、メーリングリストを通じて情報交換しながら“名古屋の干潟を守る活動”をしている。あれはネットワーク活動を通じて具体的な成果が出せたケースです」

福冨「個別の問題や、国内のみで活動している組織は、日本でも比較的うまくいっているんですよ。逆に包括的なところや、国際レベルの問題、たとえばODA全般のような話になると、なかなか手に負えない」

岡部「なるほど」

福冨「環境問題は微妙なところがありますが、ボランティア的なもの――例えばアジアの子供をケアするとか、アトピーの親の会とか、そういう活動は成果が出やすい。だけど、APC(進歩的コミュニケーション協会)などのように、国際通信とか、NGO全般が対象になると、議論の抽象度が高いこともあって、難しいんですよね」

日本の市民活動では、提言作成のためのラフなコンセンサス作りにハードルが

岡部「インターネットがそういった日本の閉塞感に影響与えて、変わらざるを得なくさせるということはありませんか」

福冨「易しくはないでしょう。ボランティアをやりたい人はたくさんいるんです。たとえば、災害が起こったときに荷物運びを手伝うという人はたくさんいる。でも、そういった人たちを調整する“ディレクター的役割”をこなせる人は圧倒的に足りない」

――ディレクター的役割の人が足りないのはなぜですか。モチベーションの問題でしょうか? それとも助成金などバックアップ体制がないことや、専任スタッフをおける体制がないためでしょうか?

岡部「アメリカでは、NPO業界に入る新卒者はハーバード大学出身者が他の大学に比べて、2倍くらい多いんです。そういう人たちが優秀とは限りませんが、NPOがある程度社会的に認められている証拠です。特に若くていろいろやりたいという活力のある人はNPOに入ってきます。そこで実績あげて、行政や企業に移籍する人もいます。日本では大学を出て市民団体に入ったりしたら、その後は企業に就職といっても難しいですからね」

福冨「あとは日本の文化的な背景のせいか、アドボカシー(提言)を調整してまとめ上げるといった作業が非常に面倒くさいんです。これはインターネットで言う“ラフなコンセンサス”を作るのが難しいためです。たとえば私がNGOの団体の名前で、『こういう文章を発表したいんだけど』っていうだけで、『この“を”は“と”にした方がいい』みたいな議論が延々続くことになります。任せた、とはなかなか言わない」

岡部「それは市民運動だけじゃなくて、日本全般に言えますよね」

福冨「そうなんです。そういうことの結果、できる人ほど、自分がたいへんであってもいいと思うことしかやらなくなってしまうんですね。NPOでは自分がやりたいことを実現するために来ている人がほとんどなので、そういった人たちの意見をうまく調整して気配りしていかないと、やっていけないんです。どのNPOもこの部分が一番たいへんなのだと思います」

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