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日立、ALS患者向け意思伝達装置『伝の心』にインターネット操作機能を追加

2000年06月27日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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(株)日立製作所は27日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者向け意思伝達装置『伝の心(でんのしん)』に電子メールの送受信とホームページ閲覧の機能を追加し、7月1日より販売すると発表した。ALSは、脊髄の運動神経が侵され、全身の筋肉の萎縮がおこる進行性の難病である。

『伝の心』は、患者のまぶたや口元などの微細な動きを感知してスイッチの役目を果たすシステムで、静電気を利用するタッチセンサーや身体の動く部分に磁石を付けてその動きを検知する磁気センサー、パソコン、専用ソフトなどで構成される。ワープロソフトによる文書入力や、“ページめくり機”など機器の制御が患者独力で行なえるようになる。開発は、『伝の心』をはじめ福祉関連分機器/ソフトを専門に手掛ける情報機器アクセシビリティ推進室。

電子メール機能が追加されたことで、患者は独力で、遠隔地の相手ともコミュニケーションをとれるようになった
電子メール機能が追加されたことで、患者は独力で、遠隔地の相手ともコミュニケーションをとれるようになった



『伝の心』が発売されたのは'97年10月のこと。それ以来、累積で570セットを出荷しているという。これまでの『伝の心』の意思伝達機能は、文章の表示と音声読み上げのみであったので、患者が独力でコミュニケーションを図れる範囲は、介護者など周囲の人に限られていた。今回、これに電子メール機能が追加されたことにより、遠隔地の相手とも独力でコミュニケーションをとれるようになった。今回追加したインターネット操作機能は、'98年度補正予算による情報処理進行事業協会(特別認可法人)の事業“高齢者・障害者支援型情報システム開発事業”で開発した機能を用い、約20人のALS患者のモニター実験により改良を加えたという。

電子メールの送受信は、専用ソフトを開発することで実現した。電子メールソフトは、文書の入力から、電子メールの送受信、メールの開封/保存/削除やアドレス帳の作成までを、文字盤*とスイッチによる入力で行なうもの。JPEG/BMP/GIF形式の添付画像の閲覧や、アドレス帳未登録者からの受信メールに対するアドレス自動登録などにも対応する。メールの文字の大きさは、64ポイント(約225×225mm)まで拡大できる。

*『伝の心』で患者が文字入力に使うソフトウェアキーボード。50音が並び漢字変換機能などを持っている

電子メールソフトの画面例
電子メールソフトの画面例



ホームページ閲覧は、Internet Explorerなど市販のウェブブラウザーを操作するためのインターフェースを開発することで実現した。ホームページ上を自動的に移動する“カーソル”と、センサー、文字盤を使ってホームページの閲覧が楽しめる。“カーソル”は、リンク設定個所などホームページ上の操作アイコン部分を検出して自動的に転々とするが、センサーを使って“カーソル”を上/下/左/右に移動することもできる。

『伝の心』の標準構成
『伝の心』の標準構成



『伝の心』の標準構成は、同社のノートパソコン『FLORA 270SX』またはデスクトップパソコン『FLORA 350』、磁気センサーなど患者の状態に合わせた入力用デバイス(USBポート変換アダプター付き)、プリンター、モデム、学習リモコン。学習リモコンは、テレビをはじめAV機器の操作を設定できるようになっている。出荷時期は8月1日で価格は50万円。この価格は、厚生省指定の日常生活用具、重度障害者意思伝達装置の購入補助限度額に収まるので患者負担はゼロとなるが、セットアップや保守費用は別額となる。なお、既に『伝の心』を購入しているユーザーに対しては、ソフトのアップデートプログラムを用意する。

『表情スイッチ』や『脳血流スイッチ』の開発も

1年間で新たに発祥するALS患者は、平均で500人程。同社は300台~400台の出荷を目標としている。

『表情スイッチ』のデモンストレーション。被写体の移動により変化する明るさを検知する 『表情スイッチ』のデモンストレーション。被写体の移動により変化する明るさを検知する



同社は現在、ALSの症状が進行した患者に向け、磁気センサーやタッチセンサーにかわるセンサーの開発を進めている。デジタルカメラを利用して顔の表情をパソコンに取り込み、目などの動きで入力を行なう『表情スイッチ』の製品化を2001年に予定している。また、暗算や手を握るイメージを思い浮かべたときに生じる脳血流の変化を近赤外線を使って計測して“イエス”“ノー”の意思を検知する『脳血流スイッチ』についても研究開発を進めているという。

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