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日本を変えるネット経済、インフラに課題も――“エコノミスト”がe-ビジネス円卓会議を開催

2000年06月22日 00時00分更新

文● 編集部 小林伸也

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米経済誌“エコノミスト”グループが主催するカンファレンス“日本の新たなビジネスリーダー:e-ビジネス円卓会議”が22日、都内で開かれた。国内でも急速な成長が見込まれる電子商取引(EC)の展望や課題について話し合うもので、国内の大手企業や外資系企業の経営者ら約150人が出席した。日本独自のECを考えるセッションでは、楽天(株)社長の三木谷浩史氏らが「ECは日本の商慣習を変えつつある」と自信を示しつつ、未熟なインフラ整備に課題を指摘。(株)CSK会長の大川功氏も特別講演を行ない、「Dreamcastとネットをつないで提供する“E-サービス”実現が私の使命」と意気込んだ。



「ネットのインパクトは米国よりも大きい」

カンファレンスで行なわれた4つのセッションのうち、“日本独自のe-ビジネスの創造”をテーマにしたセッションでは、ノーテルネットワークス(株)社長の村上憲郎氏とマネックス証券(株)社長の松本大氏、楽天社長の三木谷浩史氏が出席。日本国内のECについて討議が行なわれた。

 左から、ノーテルネットワークス社長の村上憲郎氏、エコノミスト東京支局長のニコラス・ヴァレリー氏、楽天社長の三木谷浩史氏、マネックス証券(株)社長の松本大氏
左から、ノーテルネットワークス社長の村上憲郎氏、エコノミスト東京支局長のニコラス・ヴァレリー氏、楽天社長の三木谷浩史氏、マネックス証券(株)社長の松本大氏



三木谷氏は“楽天市場”について、「アメリカの成功例を輸入するだけではなく、日本向きのサービスを作った」ために成功したと自己分析。「日本ではエンジニアが不足している以上、中小企業がECサイトを構築することは難しい。そこで簡単にサイトを開設できるようなシステムやソフトを開発して提供したおかげで、楽天は強力なサイトに成長した」という。

松本氏も「インターネットはグローバルと言われている。確かに技術は国籍はないが、コンテンツはほとんどローカルなもの。日本のユーザーの訪問サイトは“co.jp”ドメインがほとんどだ」と述べ、急増する日本のネットユーザーに合わせたコンテンツ制作の重要性を指摘した。

ECの加速は日本経済にとっても好影響を与えるという。三木谷氏は「株取引の手数料はオンライン証券会社の登場で引き下げられ、『日本では無理』と言われたデルコンピュータの直販モデルも成功した。ネット経済は、日本に根強く残る古い商慣習も破壊しつつある。その分、ネットのインパクトは米国よりも大きいのでは」との見方を示した。松本氏は、「オンライン株取引でも、年間にして数十兆円規模の取引が行なわれている。1300兆円とも言われる日本の個人資産がオンライン取引に流れ込む可能性もある」とした。

しかしEC成長の障害もある。「日本のほとんどのユーザーは、ネット接続時に3分間で10円の電話料金を払っている。これは日本のネット企業にとって深刻だ」(三木谷氏)、「サーバーの負荷が低くなる午後11時ごろにページが読み込めないと苦情が来た。調べてみるとIX(Internet eXchange:相互接続ポイント)に問題があった」(松本氏)とネットワークインフラの貧弱さに苦言を呈した。

この点についてノーテルの村上氏は、「“ラストワンマイル”が欧米に比べ見劣りがするのは確かだが、日本でもCATVやADSLといった広帯域アクセスの普及が始まり、状況は改善されつつある」と指摘。だが「特にトランザクションの多いBtoB(企業間取引)では、2.5Gbps程度の光ケーブルを使ってデータセンター同士を結ぶ必要があるだろう。企業の期待に応え、信頼性のあるインフラ整備がメーカーとしての使命だ」と語った。

「日本の情報社会を築いた者としての使命」

カンファレンスでは、CSK会長で(株)セガ・エンタープライゼス会長兼社長の大川功氏が“E-サービスで世界を変える”をテーマに特別講演を行なった。“E-サービス”とは、コンテンツやサービスなど“かたちのないもの”をネットで提供するもの。セガの社長に就任して陣頭指揮をとる大川氏は、CSKグループが描くネット戦略について「30年以上もコンピューター業界を見守ってきた私の使命」と熱っぽく語った。

 CSK会長の大川功氏 CSK会長の大川功氏



大川氏は「ソフトが金になるのか、誰も分からなかったころからコンピューター産業に従事してきた。コンピューターを通してずっと世の中を見てきた」と振り返った上で、「だからこそネットワーク社会が来ることが分かる。パソコンでインターネットに接続する時代も終わるだろう」とネット戦略の前提を語った。

セガの主戦場であるゲーム市場についても、「昨年末に大作ソフトを出したが、思ったより売れなかった」と市場の成熟化に伴い、ゲームの好みとビジネスモデルが変化していると指摘し、「これからはゲーム機もネットにつないでお金を頂く時代」とした。

「インターネットへの突破口を開くグループの先兵」というセガのアドバンテージは、インフラ(ISAO、米Sega.com)と端末(Dreamcast)、コンテンツ(ゲーム資産、カラオケ、玩具)、全国630店のアミューズメント施設(光ケーブルで結ぶ予定)というネット事業に必要なものをすべて自前で持っている点にあるという。だがセガは「物を売った経験がない」上に、「かたちがあるものを売る物販には限界がある」ため、サービスやコンテンツを中心としたE-サービスの提供を目指すのだという。

具体的なスケジュールとして、国内CATV会社40社と提携し、DreamcastをCATV対応端末とした高速な常時接続サービスの提供を7月15日に開始するほか、10月にはネットワーク対応RPGゲーム『ファンタシースターオンライン』の提供も控えている。大川氏は「私は74歳だが、日本の情報社会を築いた者としての使命感がある。日本の遅れを取り戻し、新しい産業も創出できる。E-サービスの実現で世界を変えたい」と力を込めていた。

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