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学祭風に賑わう研究発表。“繋がっている”ことを伝える新タイプのコミュニケーションメディアも登場――NTTCS研オープンハウス・レポート(後編)

2000年06月13日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

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今回はオープンハウスということもあって、各展示には非常に分かりやすくキャッチーなタイトルが付けられている。少し列挙してみよう。

“未然に防ごうネットワーク詐欺”――交換プロトコルの均衡解析によりネット取引を安全に行なう技術研究

“カオスを用いて覗きを撃退”――カオス同期を利用し、暗号化を不要とするスピーディな秘密通信方式を研究

“ネットで探そう生きた都市情報”――動的なリンクで拡張したWeb空間を作り、実世界により近くタイムリーな情報を検索する

“あなたのボキャ貧度はどれくらい?”――短時間で国語力を試験する日本語語彙のデータベース制作

といった具合。

音や音楽を題材にした研究も目立った。新しい音色合成法、絶対音感と音位置弁別のメカニズム、音列を自動的にジャズ風にアレンジ、歌謡曲から“さび”を自動抽出するシステムなどなど。これは研究者に音楽ファンが多いことの反映か? また、日本語の構造分析や自動翻訳に関する研究も盛んであり、これらは将来のよりよい機械語翻訳システム、検索技術の向上に奉仕するものであろう。



“笑いの謎を解く”と題し、笑い表出時の脳内活動を解明(脳内血流計測による心理反映実験)。将来の感性テレコミニュケーションを意図した研究
“笑いの謎を解く”と題し、笑い表出時の脳内活動を解明(脳内血流計測による心理反映実験)。将来の感性テレコミニュケーションを意図した研究



“絵コンテ製作支援システム”のデモンストレーション。音楽、文学、映画など、さまざまな分野で行なわれる“表現”を“科学”する試み
“絵コンテ製作支援システム”のデモンストレーション。音楽、文学、映画など、さまざまな分野で行なわれる“表現”を“科学”する試み



軽やかで温かい『ひとのあかり』に期待

さて、ここでは多彩な展示の中から特に魅力的だった『ひとのあかり』についてご紹介しておこう。そのほかの展示品については、オープンハウスのWebを参照していただきたい。
 
社会情報研究部所属の大黒毅氏による研究『ひとのあかり』は、“繋がっている”ことを伝える新しいタイプのコミュニケーションメディア。具体的には人々の間でpingを交換し合うもので、pingパケットが“存在”を、モニター上の小さな光の色が“ムード”を伝える非常にシンプルなソフトウェアだ。

「個人の都合にかかわらず多量の情報が送られがちなため、情報過多やコミュニケーション不全が容易に引き起こされたり、書かれた・話された言葉に過度に依存するため、雰囲気、コンテクストや暗黙の合意など、言葉になり難いが共有されるべきものが欠落しがちになる」
 
大黒氏は、こうした既存のコミュニケーションメディア(主に電子メール)の持つ問題点を指摘している。このすぐにでも実用化できそうな『ひとのあかり』は、夜中に窓の外を眺めるという行為にとてもよく似ている。向かいの窓にも灯がついている。「まだお向かいさんは起きてるんだな」と思う。別にわざわざ声をかけにいくわけではないが、隣家にも起きている人がいると知るだけで我々は温かな気持ちになり、孤独な夜にも耐えられる……それがネットに繋がったもの同士、地球規模で眺められるとしたら?

『ひとのあかり』に似たものには現在でもICQなどがあるが、言葉や文字に頼らず、存在を光のみで表わしたところに新しさがある。ちょっとした言葉の行き違いから致命的な誤解が生まれる、ということは我々ネットユーザーがひんぱんに体験することだ。離れている人と人とが「声をかけるほどじゃないけど、そこにいることが確認できる」という軽やかな道具こそ、求められているのかもしれない。

発表展示はビル内の共有部分を使ったポスターセッションの形で行なわれた。担当者に鋭く突っ込む来場者多数。熱気にあふれ、まるで大人の学祭風?
発表展示はビル内の共有部分を使ったポスターセッションの形で行なわれた。担当者に鋭く突っ込む来場者多数。熱気にあふれ、まるで大人の学祭風?

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