5月27日まで開催された“関西ミュージアム・メッセ2000”では、収蔵品の検索システムやデータベースシステムが多数出展。本稿では、その中でインターネットやWebブラウザーを利用したものを紹介する。いわば既存のコンピューター環境を活用できるかたちだ。
収蔵品管理データベースのパッケージ商品
デジタルアーカイブビジネスを手がけるイメージモールジャパン(東京、小森雅夫社長)は、蔵品管理データベース『ミュージアムメイト』を先月発売した。博物館や美術館で働く学芸員向けの支援システムで、千葉県の川村美術館と1年間をかけて開発したものだ。イメージモールジャパンのブース |
学芸員支援システム『ミュージアムメイト』 |
同データベースでは収蔵品の写真や作家情報、作品の貸し出し、修復などの履歴情報を管理できる。ほかにも、館が所有する書籍やカタログの管理が行なえる。作品情報とリンクさせることで作品に関する書籍や資料をすばやく引き出せるわけだ。
また、インターネット感覚で操作ができるのも大きな特徴だ。情報の検索や更新といった操作がWebブラウザーから行なえる。したがって専用機を新たに導入する必要はなく、Internet
Explorerが使えるコンピューターがあればそのまま活用できる。
もう1つの特徴がパッケージ化に成功したこと。通常ミュージアム向けのデータベースシステムはフルカスタマイズ商品が多い。これに対してミュージアムメイトは基本的にパッケージ商品。基本システム価格を300万円としている。同社第一営業開発部の鈴木豊氏によると「フルカスタマイズ商品に比べて2、3割安なることもある」という。
同社は'98年に凸版印刷、日立製作所、朝日新聞社により設立された合併会社。最近では京都の伝統的な染色意匠をデジタル化し、商品展開を目指すプロジェクト“KyoDOS(京どす
Kyoto,Design,Owner-Ship)”を京都市染色デジタルアーカイブ研究会と共同で取り組んでいる。
眠っている図録をWeb上のショウウインドーへ
一方でインターネットそのもので一般向けのデータベースを構築しているのがナカシャクリエイテブ(名古屋市、河合 保社長)の『図録ネット』だ。これは、美術館や博物館の刊行物をウェブ上で検索できるシステム。キーワードや館名から検索ができ、図録の表紙画像とともに書名や発行年などのデータが閲覧できる。6月から仮運用を開始する。ナカシャクリエイテブのブースにて。画像データベースをミュージアムグッズにも展開している |
各美術館や博物館では所蔵品の図録を刊行するが、来館者が購入していくだけで、そのまま館内で在庫となる図録が多くある。こうした刊行物をより多くの人の目に触れるようにしようというのが図録ネットのねらい。いわば、ウェブ上のショウウインドーの役割を担うかたちだ。
現在の図録登録数はすでに約1100冊。事業の立ち上げはスムーズだ。営業推進室の中島憲一氏によると、同社はもともと文化財のレプリカ製作や文化財原本の修復、マイクロフィルムの撮影などを手がけてきた。こうした事業を通じてできた各館との信頼関係が立ち上げに奏功したという。「元々の業務は手作業のドロくさい仕事。ゆえにコンテンツづくりには手間をかけ、気持ちが入ったようなデータベースを作りたい」と同氏は意気込む。今年9月から5000冊の登録を予定しており、1年後をメドに1000の博物館、美術館から3万冊の登録数を目指す。
経済成長重視一辺倒から、生活の質を高めようと言われて久しいが、そのためには自然や景観などの社会共通資本を充実させることが不可欠だ。文化財そのものは歴史が育んだものだが、生活の質を高める資源として活かしていく仕組みや技術が求められる。IT技術はそのひとつの有効な技術といえよう。「文化財は残さなければ」というマインドが両社の商品開発の源になっている。