“カナダ・ハイテク・シンポジウム”が15日、都内のカナダ大使館で開かれた。カナダ大使館の主催で、カナダのIT企業を日本に売り込むのが狙いで、ATI
テクノロジーズ社やノーテルネットワークス社など同国のIT関連企業ら25社が参加した。シンポジウムではインターネットの普及率が高いというカナダの情報通信事情が紹介され、「電子商取引(EC)はまだこれからだが、潜在力の高いカナダはネットの世界でリーダーになるだろう」とカナダの将来性が強調された。
カナダ大使館で開かれた“カナダ・ハイテク・シンポジウム” |
カナダにとって日本は第2位の貿易取引国だが、ほとんどが木材や食料品など一次産業に偏っている。そのためカナダではハイテク産業における日本との結びつきを強化する方針を打ち出しており、昨年9月には同国のクレティエン首相と産業界の代表など総勢600人からなる貿易使節団“チーム・カナダ”が来日。約4億900万カナダドル(約290億4000万円)に上る取引に成功し、“首相みずからセールスマンになるとは”と話題を集めた。
今回のシンポジウムもカナダ政府の対日貿易政策の一環で、カナダのIT企業を日本に売り込むのが狙い。シンポジウム開始に当たり、カナダ大使のレナード・エドワーズ(Leonard
J.Edwards)氏は「この2年間で10社のカナダ企業が日本に事務所を開設している。カナダと日本の2国間におけるIT関連企業への投資は重要なこと」などとあいさつした。
カナダ大使のレナード・エドワーズ氏 |
まず“カナダにおけるインターネットとEコマースの最新状況”をテーマに講演が行なわれた。講師はカナダの全国紙“Globe
and Mail”のテクノロジー担当記者であるタイラー・ハミルトン(Taylor
Hamilton)氏。
“Globe and Mail”紙テクノロジー担当記者のタイラー・ハミルトン氏 |
タイラー氏によると、カナダでは56パーセントの成人がインターネットを利用しており、これはアメリカに次ぐ率だという。またすでに60万人がADSLやCATVによる広帯域アクセスを利用しており、オンラインショッピングやネットバンキングのユーザーも増加を続けているという。
インフラやインターネットユーザーは充実している反面、有力なネット企業が育たないという課題もあるという。理由としては活発なベンチャーキャピタルの不足や、キャピタルゲイン課税が高率なために投資家の意欲をそいでいる面があると指摘する。
だが通信関連企業が集まるオタワ、マルチメディアに強いトロント、ワイヤレス関連のバンクーバーやカルガリーなど、“北のシリコンバレー”と呼ばれる企業集積地も形成され始めてきた。また政府も投資促進を図り、企業や投資家への優遇税制の整備を始めているという。ハミルトン氏は、「コンシューマー、企業、政府ともネットに注目している。今年から来年が、カナダのネット企業のブレークスルーの年になるだろう。ビーバーとメープルシロップと赤毛のアンの国であるカナダが、ネットでもリーダーになる」と語った。
カナダ外務貿易省のデビッド・ボストウィック氏 |
続いて、カナダ外務貿易省情報技術担当官のデビッド・ボストウィック(David
Bostwick)氏が“テクノロジーの融合”と題して講演を行なった。ボストウィック氏は放送と通信など各分野で起きている融合(コンバージェンス)について語り、「インターネット経由でデータを受け取る際、端末が家庭用テレビかパソコンかはどうでもいいことになってきている」と指摘。「日本人と同様にカナダは“テクノロジーの恋人”。電話やテレビなどの普及率が高く、自然にコンバージェンスは進んでいく」などと述べた。
IMPAC会長のジェームス・グリフィン氏 |
カナダ・インタラクティブ・マルチメディア制作者協会(IMPAC)会長で、ソフト制作会社ZAQの社長兼CEOであるポール・アラード(Paul
Allard)氏は、カナダのマルチメディア制作環境について語った。アラード氏は、「カナダの創造力の源は多言語、多民族という国の特徴にある。カナダ発の多言語対応ソフトも開発されており、これは文化のコンバージェンスも意味している」と解説。その上で「ニューメディア産業への政府の優遇措置も本格化している。カナダのIT企業は日本のベストパートナーになるだろう」と語り、創造力豊かなカナダ企業とのパートナーシップ締結を勧めた。
バンクーバーフイルムスクールのジェームス・グリフィン(James Griffin)校長は、「『タイタニック』など大ヒット映画の制作者もカナダで映画技術を学んでいた」などとカナダのソフト制作能力の高さをアピール |
講演の後、参加企業がそれぞれ自己紹介を行なった。ATIテクノロジーズ社やノーテルネットワークス社、ニューブリッジネットワークス社といった有力企業から、ネットオークションシステム開発のBid.com社、2Dアニメーション制作システム開発のToon
Boon Technologies社など日本では知られていない企業が参加。日本企業に自社製品を売り込もうと自社製品のPRに力を込めていた。
“ネットの超大国”アメリカを隣国とし、文化や言語もほぼアメリカと共通なカナダ。アメリカの影に隠れて見過ごされがちだが、グラフィックスアクセラレーターや通信機器に代表される高い技術力は日本でもおなじみだ。カナダの新興ドットコム企業も、アメリカ企業とはひと味違うオリジナリティーを打ち出せれば、意外に親近感と共通性のある日本で成功することも夢ではなさそうだ。