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サーバービジネスと携帯電話ビジネスの行方は?――ドッグイヤーセミナーより

2000年05月08日 00時00分更新

文● 野々下裕子 

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犬の1年は人間の7年に相当することから変化の早いインターネット業界での時間の流れは“Dog Year(ドッグイヤー)”と呼ばれている。そんなネットジャーゴンをそのままタイトルにしたセミナーを関西DTP協会が4月よりスタートさせている。同協会はDTPを含むマルチメディアをテーマに、日本で最も早く活動を始めた団体で、その会員数は200社を超える。現在は、活動内容のターゲットををデジタルビジネスへとシフトしている。

今回開催された“ドッグイヤーセミナー”は、同協会の幅広い人的資源の中から講師を招き、即戦力に結びつくようなセミナーを月2、3回というペースで行なっていくもの。2回目を迎えた4月25日のセミナーは、大阪市中央区のドーンセンターにおいて開催された。3名の講師が招かれ、“サーバービジネスと携帯電話ビジネスの行方”というタイトルで、ASPやiモードなどの話題が取り上げられた。

セミナー開始前に関西DTP協会会長の中谷正一氏があいさつを行なった。昨年末に同協会の会長に任命されたばかりの氏は、今回の“ドッグイヤーセミナー”をはじめ、会員向けのサロン運営や経営者向けの異業種交流会、学生部会の運営や起業サポートなど、積極的な運営を打ち出している。さらに今後は、幅広くデジタルビジネスをターゲットとした団体として生まれ変わるべく準備を進めているという
セミナー開始前に関西DTP協会会長の中谷正一氏があいさつを行なった。昨年末に同協会の会長に任命されたばかりの氏は、今回の“ドッグイヤーセミナー”をはじめ、会員向けのサロン運営や経営者向けの異業種交流会、学生部会の運営や起業サポートなど、積極的な運営を打ち出している。さらに今後は、幅広くデジタルビジネスをターゲットとした団体として生まれ変わるべく準備を進めているという



専業企業が少ないASPビジネス。中小参入のチャンスも

3本立てセミナーのウォーミングアップとして、まず、最初に同協議会の顧問であり、“うおいせんせい”の愛称で有名な、大阪電気通信大学総合情報学部助教授の魚井宏高氏が登場。“企業におけるインターネット戦略とITビジネスの今後”というタイトルで、これまでのIT革命について解説した。

“うおいせんせい”こと大阪電気通信大学総合情報学部助教授の魚井宏高氏。ドッグイヤーと言われるITの世界の流れを、ビジネスの事例を交えつつ、分かりやすく解説した
“うおいせんせい”こと大阪電気通信大学総合情報学部助教授の魚井宏高氏。ドッグイヤーと言われるITの世界の流れを、ビジネスの事例を交えつつ、分かりやすく解説した



インターネットは、魚井氏が属する大学のような環境ではすでに15年前から使われていたが、最近になってようやく一般にも浸透し始めている。その中でも最も大きな変化は、今やビジネスシーンにおいてなくてはならないものになりつつあることだろう。ISPやEコマース、ネット証券といった様々なビジネスが生まれ、利用者も倍々で増えている。その一方で、先行投資や投機対象ともなり、それゆえのバブルも心配されている。しかし、それについては問題視されることで却って正常化に向かっていると魚井氏は語る。ただし、システム運営やセキュリティーといった点ではまだまだ危ういものも多く、ITビジネスに取り組む場合、そうしたリスクを考慮しなければならないだろうと警告した。
 
続いて(株)アイ・ウェイブ・デザイン代表取締役の長橋大蔵氏が“ASPビジネスの現状と課題”というテーマで、話題のASPについての具体的な動きを紹介した。ASPとはアプリケーション・サービス・プロバイダーを意味するものだが、言葉ばかりが先行して実態が伴っていないのが一番の問題と長橋氏は言う。実際、米国では昨年からベンダーが伸びてきてはいるものの、日本国内では大手数社のみがスタートしているだけ。専業企業はほとんどないのが現状だ。また、その内容も単なるレンタルサーバーの延長であり、本来のビジネスのソリューションも含めたサービスを提供するといった動きはあまり見られていない。

そうした中で、具体的にどのようなASPビジネスが始まるのかについて、長橋氏は3つの事例を挙げて紹介した。1つめはBtoBをサポートするもので、企業間のECシステムにASPを採用する動きが米国では注目を集めている。2つめはASPがシステムだけでなく人的サービスを付加して提供するもの。これはコールセンターのシステムをアウトソーシングで受注するといった事例である。3つめはASPメニューを個別化し、企業が使いたいメニューだけを組み合わせて提供するという方法で、いわばセミオーダーでシステム構築するといったビジネスも考えられる。いずれにしてもASPに求められるのは、企業のシステムコンサルティング的な立場であり、今後の成長が大きく期待される市場であることはまちがいない。

長橋氏は長年のプログラマーとしての経験を活かして、昨年よりアイ・ウェイブ・デザインを起業したばかり。しかし当初はASPという用語はなく、たまたま目指していたビジネスの方向性がASPという流れとぴったりと重なった。これからの手応えを感じていると言う
長橋氏は長年のプログラマーとしての経験を活かして、昨年よりアイ・ウェイブ・デザインを起業したばかり。しかし当初はASPという用語はなく、たまたま目指していたビジネスの方向性がASPという流れとぴったりと重なった。これからの手応えを感じていると言う



また、長橋氏は、ノウハウと経験の積み重ねによって、素早く市場に対応できる体制づくりができれば、中小規模でもASPビジネスに参入するチャンスはいくらでもあると語る。ドッグイヤーの変化に対応しきれない大手よりも、きめ細やかな対応ができる方が有利というわけだ。その一方で、ASPをうまく利用してビジネスをすることも忘れてはならないと言う。サーバー管理が不要で、最先端のソリューションを手に入れられるASPは、これからネットビジネスに参入したい中小企業にとってはうってつけのサービスになるからだ。

携帯電話のインターフェースに着目

  セミナーの最後は、ピーエム・スタジオ代表取締役の前岡俊男氏が、携帯電話ビジネスについて解説した。ピーエム・スタジオは元々CD-ROMの制作会社としてスタートしたが、最近はiモードやezWebといった、携帯電話の画面インターフェースの制作でその実力を買われ、ほとんど寝る暇もないほど仕事に追われていると言う。なぜならば、携帯電話の技術を理解しながらユーザーのニーズに応える製品をつくる会社が数少ないからだそうだ。

ピーエム・スタジオは昨年度のMCOF(マルチメディアコンテンツフェステバル)において、ビジネス活用部門大賞を受賞するほどの実力派。現在も携帯電話ビジネスでは引っ張りだこの存在だ。大切なことは技術もデザインにも日々、勉強していくことと語る
ピーエム・スタジオは昨年度のMCOF(マルチメディアコンテンツフェステバル)において、ビジネス活用部門大賞を受賞するほどの実力派。現在も携帯電話ビジネスでは引っ張りだこの存在だ。大切なことは技術もデザインにも日々、勉強していくことと語る



技術的な解説をすると、iモードはコンパクトHTML方式なので画像はそのほかのインターネットと同じGIFアニメで作られるが、セルラー系では独自方式のため、アニメ化するのも難しくなる。また、画像はメモリーいっぱいにつくれるかと言えば、そうではない。ほかのデータをダウンロードできるキャパも必要なので、制作はメモリーの限界に挑戦することになる。つまり、デザインと技術の折り合いをつけながら制作するには、日々進化する技術の勉強が必須となるのである。

制作は大変だが、そのほかに携帯電話のビジネスで儲けるには、チケット販売や音楽をダウンロードするといったEC販売しかないのが現状だと、前岡氏は市場を分析している。簡単にできるとすれば、メールによるサービス提供があるが、どこへ課金されるかがまだ曖昧で、もう少し時間がかかりそうだ。それでも携帯電話ビジネスを始めたいのなら、固定観念は捨てて、新しい使い方や、何に対してお金を払うのかといったことまでを考える必要がありそうだ。メーンユーザーである若い世代は、文字を読まない(読めない)し、しゃべり言葉でコミュニケーションをしている。そこで制作者として何かできるとすれば、やはりインターフェースであろうと前岡氏はセミナーを締めくくった。
 
3名のセミナーが終わった後も、会場からは時間いっぱいまで質疑応答が続いた。三者三様のテーマであったことが、普段とは違うジャンルへの関心を持つきっかけとして大いに刺激となったようだ。 

平日の昼間に行なわれたセミナーというにも関わらず、定員70名の会場はほぼ満席となった
平日の昼間に行なわれたセミナーというにも関わらず、定員70名の会場はほぼ満席となった

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