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【INTERVIEW】「メモリーメディア戦争に巻き込まれたくない」--SME本部長の高堂学氏

2000年05月08日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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仲介業務法改正、非レコード会社の業界参入、違法MP3サイトに代表される著作権問題、パッケージCDからデータへの流通革命--、インターネット音楽配信はさまざまな角度から語られている。ascii24では昨年12月、業界に先駆けて音楽配信サイト“bitmusic”を立ち上げた(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)にインタビューを行なった。

それから4ヵ月、レコード会社が音楽配信を開始するというだけの話題は、珍しくなくなっている。今回はマルチメディアグループ本部長の高堂学氏に対し、インタビューを再び行なった。レコード業界を取り巻く現在の問題だけでなく、次世代携帯電話向けのサービス、メモリースティックやSDメモリーカードなどの小型記録メディアのフォーマット戦争など、音楽配信ビジネスの近未来を中心に話を聞いた。

マルチメディアグループ本部長の高堂学氏
マルチメディアグループ本部長の高堂学氏



SMEの音楽配信サイト“bitmusic”のトップページの月間ページビューは約60万。“Sony Music Online Japan”の月間ページビュー100万に対し、6割という数字だ。有料音楽データのダウンロード数は1日約300で、個々の人気は、ヒットチャートと連動しているという。

「100円に値下げしたら、今までの3倍売れますか? 」

--新譜の1曲350円に対し、旧譜*は300円ですが、値段を下げた理由を教えて下さい

*南沙織の『17才』など、'70~'80年代にヒットした邦楽の販売を5月10日に開始する予定

「今回販売する旧譜は、デビュー何周年といった企画アルバムの発売と連動しています。パッケージCD自体の価格が、新譜のときよりも安くなっていますから、価格面での連携は必要でしょう。もっとも、350円が配信のスタンダードとは思っていませんが。

 音楽業界でない企業が、音楽配信をするにあたって、“在庫も郵送コストもないから、1曲100円、50円で売れる”という話をしていますが、現実にはそんなに安くできません。新人を発掘したり、音楽を作ったり、宣伝をしたり--。ヒットを作っていく過程は、パッケージCDであろうとダウンロード販売であろうと、まったく同じことです。ヒットを生み出すのにかかるコストを考えていないと、そのような発想になるのでしょう。

 では、実際に50円で販売するサイトがスタートしたとしましょう。“350円だからSMEの音楽は買いません”と誰が言いますか。音楽は、100円だから、安いから買うわけではなく、その音楽が欲しいから買うのでしょう。逆に、今ある音楽を100円に値下げしたして、とたんに3倍売れますか? そういう問題だと思います」

“Pay Per Listen”の可能性? --携帯電話を使った音楽配信

--“値下げ”ということでは、携帯電話やPHSを使った音楽配信においては、どうでしょうか。記録メディアが、音楽テープやMD並に下がるのは当分先のようですし、パソコンから聞きたいデータをそれらに逐一転送するというのも、手間のかかる話です。むしろ、1曲あたりの単価を下げ、聞きたいときに、その都度ダウンロードするというビジネスモデルがふさわしいのではないでしょうか

「ダウンロードごとにお金を払う“Pay Per Download”ではなく、聞くたびにお金を払う“Pay Per Listen”という方式も、将来的にはあり得ると思います。

 技術とビジネスがどのように進化するか、それはわかりません。携帯電話にスペックの高いHDDやメモリーを搭載することもないでしょうから、ストリーミングデータに対して課金するモデルとか、どこかのサーバーにデータを預けて聞きたいときに聞くモデルとか--。これらは例え話ですが、いろいろなモデルが考えられるでしょう」

--近い将来の話として、NTTドコモが秋から始めるPHSの音楽配信サービスへの参画を表明しましたが、価格設定はどうなりますか

「当初は少なくとも、100円、50円ということはありません」

米SMEのサイトから曲を購入できない理由

--音楽配信ビジネスで“テリトリーコントロール”という言葉を聞きますが、その意味は何でしょう

「現在“bitmusic”では、ドメインやクレジットカードの住所などで、アクセス制限をかけています。内外のレコード会社がお互いにそのような制限をかけよう、という考えです」

--例えば、国内在住の人は、米ソニー・ミュージックエンタテインメント社のダウンロード販売サイトから曲を購入できない、逆にアメリカ在住の人は、“bitmusic”から曲を購入できないということでしょうか。通信販売サイトなどを考えてみても、この方式はインターネットの流れに逆行しているように思えますが

「パッケージCDに置き換えて考えてみると、例えばマライア・キャリーの1つのCDでも“輸入版”と“国内版”が存在するでしょう。国内版の場合、日本語の歌詞がついていたり、追加の音楽が入っていたり--。これはどういうことかというと、国内のレコード会社の洋楽セクションが、海外のレーベルからライセンスを受けて、改めて国内向けのマーケティングをして、プレスをして、プロモーションをして--そうしたことを行なっているわけです。

 ダウンロード販売でも、洋楽市場という意味では全く同じバックボーンのビジネスですから、パッケージCDと同じ仕組みにしておかないと、日本の洋楽ビジネスが成り立たなくなってしまう」

--テリトリーコントロールの適用を外すことは、当面ない、ということですか

「現時点では考えていません。しかし、例えば、雅楽や能楽を販売する日本コロムビア(株)のサイトでは、テリトリーコントロールかけず、むしろ海外在住の方もどんどん聞いてくれというコンセプトのようです。そういう使い分けは出てくるかもしれません。

 日本の音楽も海外でヒットしてほしいですが、今は輸入超過ですから--」

NapsterとGnutella

--一部報道において、あるレコード会社幹部のコメントという形で「(SMEにとって)音楽配信は道楽」という記事が掲載されていましたが、そうとらえてもよろしいのでしょうか

「それは違います。確かに利益を生むには、当面時間はかかるでしょう。しかし、そういうことよりも、ユーザーが作品を認めて作品に対してお金を払っていただいて、権利ビジネスは、そこで初めて成り立つものですから。“bitmusic”を早々に立ち上げたのは、そういう仕組みの確立が急務だったのです。

 アメリカにおいて“Napster(ナップスター)”*、その上を行く“Gnutella(グヌーテラ)”**が問題になっています。こうした脅威が押し寄せている中で、権利ビジネスを確立するのは非常に難しいことです」

*Napster(ナップスター):米Napster社が配布するファイル交換ソフト。MP3ファイルの検索、交換、再生機能が搭載されており、Napsterのサーバーを経由して、インターネットに接続する他のユーザーのHDDに格納されたMP3ファイルを共有できるという。昨年末には全米レコード協会が、今年4月に人気バンドMetallicaと、ラッパーのDr.Dreが著作権侵害で相次いで同社を訴えた。会社側は、ツールを使って違法行為を行なうかどうかはユーザー側の問題としているが、逆に言えば、いちユーザーがこうした提訴の対象となる可能性も十分にあるということだ
**Gnutella(グヌーテラ):Napsterとほぼ同じ機能を持つソフトだが、こちらはファイルタイプをMP3に限定するものではなく、ネットワーク環境にあるファイルであれば、動画ファイルでも、商用のアプリケーションソフトでも、共有できるという。著名なMP3再生ソフト『WinAMP』のプログラマーなどが開発した

「メモリースティック対SDメモリーカードのような、フォーマット戦争に巻き込まれたくない」

--音楽データの圧縮方式や配信方式については、当初「いい技術が出てくれば、今後採用していくつもり」という見解であったと思います。ATRAC 3*にせよ、レーベルゲート**にせよ、ソニーグループ一辺倒であるような気がしますが

*ATRAC3:ソニーが開発した音声圧縮技術。MD用の圧縮技術ATRACの約2分の1に圧縮できる **インターネット総合サービスの“So-net”で知られるソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)が4月に設立した会社。会社設立にあたっては当初からSMEが中心的役割を果たした。SMEのほかレコード会社12社が参画する。ダウンロード楽曲データのホスティングサービスや、課金・決済と著作権保護を目的としたユーザー認証のためのプラットフォームをレコード会社に提供するほか、楽曲検索用のポータルサイト“Label Gate”を5月中に立ち上げる予定

「例えば過去、家庭用ビデオデッキにVHS方式とベータ方式の2つの規格があった時代、、我々はその両方に対応してきました。しかし、我々コンテンツサイドの立場から言えば、技術やメディアというのは、統一されていたほうが望ましいわけです。二重投資にならないし、手間もいらないのですから。

 ところが、音楽配信の技術においては、音楽データの圧縮技術にはじまり、配信技術、著作権管理技術、ポータブルデバイスに繋げるための技術まで、無限の組み合わせができる上に技術開発の動きが早い。そういう段階の中で、レコード会社にとっての使い勝手を考えると、Media Direct*と、ATRAC3の組み合わせが一番良かったということです」

*米IBM社が開発したデジタル音楽配信(販売)システム。同システムはこれまで“EMMS(Electronic Music Management System)”と呼ばれていたが、IBMによると、商標の問題から、現在では“Media Direct”という名前を使用しているという。'99年4月にIBMはソニーと提携し、同システムとソニーの著作権保護技術“MagicGate”および“OpenMG”(後述)との相互運用が可能となった。これにより2社は、ユーザーに対し、Media Directを利用してコンテンツを購入・ダウンロードし、MagicGateおよびOpenMGによる著作権保護の下でコンテンツを楽しむといった環境を提供することを目指したという。 なお、MagicGateは、『メモリースティック ウォークマン』など同システムの対応機器とその記録メディアの間で、互いに著作権保護に対応しているかどうかの認証を行ないながら、コンテンツの暗号化を行なうという著作権保護技術。認証された機器・メディア以外では、著作権情報を持つコンテンツの再生はできない。OpenMGは、パソコン上に取り込まれたEMDや音楽CDのコンテンツを管理するもの。記録するパソコン(HDD)を限定し、そのパソコンでのみ音楽の再生が行なえる

--現在、市場に出ているATRAC 3対応の携帯型音楽プレーヤーといえば(4月現在)、ソニーの2製品『メモリースティックウォークマン』と『VAIOミュージッククリップ』だけです。他の携帯プレーヤーを買ったユーザーは、SMEの音楽を聞けないというのは、非常に使い勝手が悪いと思いますが

「ユーザーの選択肢がたくさん出れば、こちらの二度手間でも、それに対応していく必要があるかと思います。例えば、SDメモリーカードを採用した携帯型音楽プレーヤーが市場に出てくれば、それに対応したフォーマットのコンテンツを用意することになるでしょう。ATRAC 3からAAC*へといったように、劣化なく変換できるようになれば別ですが

 とにかく、メモリースティック対SDメモリーカードというような、“フォーマット戦争”に巻き込まれたくない。コンテンツサイドとしては」

*AAC:Advanced Audio Codingの略。MPEG-2、MPEG-4の音声圧縮技術

--データ販売の窓口を増やすという意味で、レコード店のサイトや、いわゆるポータルサイトと、サイト間でリンクをとることは予定していますか

「可能性は全てに対してあると思ってください。独占的にどこかとやっていくとか、何も決めていませんから。情報の入り口としては、いろんな所にあったほうが良いでしょう。

 レコード店との兼ね合いでいうと、段階があると思います。当初は、課金などの部分はレコード会社が担当するかもしれませんが、将来的には、今のパッケージCDと同様、レコード店にデータを卸していくということもあるでしょう。サイトとして連携をとるということは、年内に始める予定でおります」

--ソニーは、今年2月に設立が発表された新会社セブンドリーム・ドットコム*に出資していますが、SMEはこうしたキオスク端末のプロジェクトに参画していないですよね?

*全国のセブン-イレブン店舗にキオスク端末を置くという

「どこに、ということは言えませんが、キオスク端末に関しても、年内に動かざるを得ないでしょう」

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