三菱電機(株)は、米ボーイングが計画する航空機向けの高速グローバル通信サービス“コネクション・バイ・ボーイング”に参画し、共同開発を行なうと発表した。既存の通信衛星を利用し、1~4Mbpsの高速通信を可能にするという。三菱電機では、アンテナ/衛星用中継器/地上通信設備などの開発、生産、供給を行なう。サービス開始時期は北米では2001年第4四半期を、日本を含むアジアでは2004年を予定している。
都内のホテルで開催された発表会に出席した、三菱電機の谷口社長(左)と、ボーイングのケネス・メドリン副社長 |
ボーイングは米ニューヨークにおいて27日(現地時間)、高速グローバル通信サービス“コネクション・バイ・ボーイング”(Connexion
by Boeing)を発表。その数時間後に、三菱電機をパートナーとして、アジア向けの記者発表会を東京都内のホテルで開催した。
コネクション・バイ・ボーイングでは三菱電機のほか、米CNN Inflight
Services、米Loral Skynet、米CNBC、伊Alenia Spazioが、ボーイングと覚書を交わしている。また、松下電器産業(株)の子会社で、旅客機の機内エンターテイメント機器を製造する松下アビオニクスシステムズ(株)も参画している。
コネクション・バイ・ボーイングは、既存の通信衛星と地上ネットワーク、およびテレビ局のインターフェースを利用して、航空機向けに双方向の高速通信サービスを提供するもの。機内でインターネットを利用できるほか、テレビ番組を放映したり、航空会社の運行部門を対象としたデータ通信サービスも提供する。
既存の設備を利用するため、投資負担を抑えることができるという。すでにボーイング製の旅客機における実証実験も行なわれている |
機内でのインターネットアクセスは、基本的にLAN経由で提供される。また、モデムによるアクセスも用意する予定。通信速度は1~4Mppsの高速通信を目指す。デモでは専用のインターフェース画面が公開されたが、イントラネットへのアクセスなど、通常のインターネット回線と同様に利用できる。テレビ放送に関しては、ストリーミングによる提供のほか、通常のテレビ放送を機内のディスプレーで放映することも可能だという。
専用インターフェースの画面例。メニューの中に免税品や航空会社情報が用意されているのが特徴的だ |
高速で移動する旅客機で電波を受信するため、送受信が機体の姿勢に左右されないフェーズド・アレイ・アンテナ(電子走査型アンテナ)を胴体上部に装備する必要がある。三菱電機は'70年代から電子走査型アンテナの開発を続けてきており、アンテナ開発において中心的な役割を果たす。
機体上部に装着するフェーズド・アレイ・アンテナ。空気の流れを妨げないように平べったい形状をしている |
三菱電機は今回の共同開発において、事業全体においてはアンテナと衛星関連機器の開発、生産、供給を行なう。また、アジア地域のサービスについては、衛星中継器(トランスポンダ)や地上設備、ネットワークサービスの開発や提供を行なうとしている。また、日本における事業展開に際し、各種法令や規制への対応も行なっていく。
サービスの開始時期は、北米が2001年の第1四半期、ヨーロッパでは2002年の第3四半期を予定。その後、南米や太平洋地域にサービス範囲を広げる。日本を含むアジア地域では2004年の開始を予定しているが、マーケットの状況を見て、前倒しする可能性も高いとしている。
アジア地区のサービスについては、時期を早める可能性も言及された |
アジア地区で利用する衛星としては、三菱電機系列の宇宙通信(株)が所有する通信衛星“スーパーバード”が候補に挙げられている。ただし、通信サービスに割り当てられる周波数帯にスーパーバードが対応できない場合は、他社の衛星を利用する可能性もある。
ボーイングで宇宙&通信グループの商業情報システム担当副社長を務めるケネス・メドリン(Kenneth
A. Medlin)氏は、コネクション・バイ・ボーイングに掛かるコストについて「非常にリーズナブル」と語り、素早いマーケット展開を可能とする低コストでの実用化が可能との見通しを明らかにした。また、「マーケットにより推進されるビジネスだ」とし、大きな需要が望めると語った。
ボーイングでは海上発射台を利用して人工衛星を打ち上げる“シーラウンチ”事業を展開している。この点についてメドリン氏は、「衛星打ち上げのビジネスは、今回のビジネスとはまったく別物」と語り、コネクション・バイ・ボーイング向けに専用の衛星を自社で打ち上げることに否定的な見解を示した。
また、同社と旅客機マーケットを二分するエアバス・インダストリーズに関しては、サービスの提供が「十分にあり得る」と明言。「全てのタイプの航空機に供給する用意がある」とし、業界標準を狙う姿勢を強調した。
ボーイングのケネス・メドリン副社長、三菱電機をパートナーに選んだ理由として「アジア地区で衛星事業を展開しているため」と説明 |
三菱電機の代表取締役社長を務める谷口一郎氏は、ボーイングとの共同事業について、「IT事業に注力し強化する路線と合致している」と語り、コネクション・バイ・ボーイングを魅力のある事業であると説明した。
同社では携帯電話も手がけているが、谷口氏は「日本ではどこでも携帯電話を使ってインターネットアクセスができるが、例外として機内がある」と指摘。現状でも飛行機電話を利用した9600bps程度のインターネットアクセスは可能だが、「高速で双方向の飛行機内インターネットは存在しない」とし、航空機向けのインターネットアクセスに大きなニーズがあると強調した。
三菱電機の谷口社長、「次世代通信システム分野での協調で1月にボーイングと合意した。今回の発表はその第一弾になる」 |