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未来の家庭を変える情報家電――“アプライアンス”の基本概念とは?

2000年04月27日 00時00分更新

文● 正月孝広 masa@catwalk.ne.jp

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ここ1、2年の大手家電メーカーの動きは、デジタルホームネットワークに注力する傾向が見うけられる。たとえば、松下電器産業は家電ネットワークとして“HII構想”(Home Information Infrastructure)を打ち出し、ネット家電のプラットフォーム化とモバイルネットワークを結び付ける実証実験を試みている。また、三菱電機でも同社の先端研究としてIEEE1394や、電力線モデム、光ファイバーなどを利用したホームネットワークを提唱している。

しかし、このような動きは家電業界ばかりではなく、PC業界からの歩みよりも始まっている。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は、PCのシンプル化、家電技術との融合、さらにWindows技術を組み込み用途に最適化すると唱えている。現在、米国ルイジアナ州ニューオーリンズで開催されている“WinHEC”の講演でも、『Windows Millenium Edition(Windows ME)』や、6月にリリースする『WinCE 3.0』、2001年春に登場する次期OS『Whistler』など、さまざまなアプライアンスに応用していく戦略を打ち出してきた。

本稿では、先ごろ大阪市住之江区南港にあるWTC(ワールドトレードセンタービル)において開かれた“アプライアンス”セミナーの模様を通して、“アプライアンス”の基本的な考え方を紹介する。主催は(財)イメージ情報科学研究所。この研究所では、感覚(視覚、聴覚、感覚、感情、感性など)に届く情報をコンピューターで処理し、活用する方法を産学共同で研究している。

セミナーのテーマは“ネットワークドアプライアンス”。申込者多数のため会場を1つ下の階の広い会場に移しての開催となった。最初に(財)イメージ情報科学研究所技術統括、釜江尚彦氏が、現在の家庭における情報家電の問題点などを考察。次に京都大学教授、美濃導彦氏がこれからの情報家電のあるべきスタイルを提案した。

ネットワークに接続するための“自律動作”と“協調動作”

最初に行なわれたセッションのテーマは“アプライアンスと家庭の情報化”。まず現在の家庭にある、ホームネットワークの中心になりそうなパソコンは、既に限界が見えているという。

(財)イメージ情報科学研究所技術統括、釜江尚彦氏
(財)イメージ情報科学研究所技術統括、釜江尚彦氏



パソコンはありとあらゆる作業を1台で可能にするが、そのために非常に複雑な操作形態を持ってしまい、高齢者や若年者が扱うには複雑すぎる。また、家庭に1台の場合、物理的に操作する人はひとりになってしまい、その作業が終了するまで次の人はパソコンを扱えないという問題もある。

これらのことを考えて、情報家電の理想の形は、家庭内のどこでも使え、年令に関係なく誰でも使えることが重要と指摘。またネットワークに繋げることで、必要でない機能は、ほかのネットワークされた機器から補い、本来の目的に特化した製品にする必要がある。パソコンの形を踏襲する必要はなく、使用目的に対して分かりやすい形でよい。これらの製品を“アプライアンス”と呼んでいる。

デジタルカメラはすでにアプライアンスである。形はカメラであることが一目瞭然で、シャッターを押せば写真が撮れるという、分かりやすい操作性とインターフェースを持っている。次のステップとして、その画像データを保存する*、もしくはプリントアウトする機器と、メーカーが異なっても接続できるネットワークの規格が必要だと釜江氏は述べた。

*先ごろ発表されたマイクロソフトの次期OS『Whistler』では、デジタルカメラのサポートを強化するという。縦位置撮影の画像を取り込み時に回転できるようになり、デジタルカメラから直接ウェブに画像をアップロードする機能が組み込まれる。

そのネットワークに接続するために2つの特徴をアプライアンスは備えなければならない。1つは使用目的に特化した操作の分かりやすい自律動作。そしてもう1つは、ネットワークに接続した場合に、ほかの機器とフレンドリーに協調動作できることである*。これらの特徴を押さえた製品を世界に先駆け国内での開発し、その規格を制定していくことが重要だと締めくくった。

*すべてのネットワーク接続手段に対応するためには、USBはもちろん、IEEE 1394、Bluetooth、無線LANなどへの接続性を高めていく必要がある

ライフスタイルを把握し、操作性を突き詰め

次に京都大学教授、美濃導彦氏が技術的に補う形でセッションを引継いだ。テーマは“ネットワークドアプライアンスとホームネットワーク”。

京都大学教授、美濃導彦氏。国際網電ワークショップの副会長も務める
京都大学教授、美濃導彦氏。国際網電ワークショップの副会長も務める



まず、美濃氏は“ホームネットワークが本当に必要なのか?”、また“家庭から家電のホームネットワーク化を熱望する声が本当にあるのか?”という本質的な問題を提示した。メーカー側のオフィス需要が頭打ちなので、次はホームのネットワーク化という安易な展開では、家庭に混乱が生じてしまうと厳しく指摘する。

現在の家電はホームネットワーク化を前提に製作されていないので、いまの機器はそのままネットワークに接続することは難しい。そのため、今後市場に登場する機器はこれから進むべき方向をきちんと見据えて設計されることが重要だとした。

その方向性とは、人間の活動の基本を最初から考えること。現在のライフスタイルの流れを把握することだという。基本とは人間はコミュニケーションを行なう動物であり、そのために伝達するための内容と手段が必要になるということ。その手段としてツールを使う場合は“操作”という行動が必要となるので、この操作を突き詰めていくことが大切となる。また、ライフスタイルに関しては家電が共有(家庭所有)から独占(個人所有)へと移り変わっているので、使用者をきちんと見極めることが必要とした。

美濃氏は以上の視点を押さえてあるのならば、ホームネットワークは今後の家庭に必要不可欠の概念になると予測した。

情報家電の新しい概念――網電(あみでん)

美濃氏は、前出の情報機器、すなわちアプライアンスをそれぞれに接続した形を、ネットワークドアプライアンス“網電”(あみでん)*と名付け、情報家電の新しい概念として研究している*

*'98年に京都で開かれた“第一回国際網電ワークショップ”は、欧米やアジアの10ヵ国の大学や企業研究者が参加し、さまざまな家電製品をネットワークで接続するためのハードとソフトの標準化案を発表。このとき、“インターネット冷蔵庫”も登場した。冷蔵庫の扉にある液晶画面に触れるだけで、家族間の伝言を読んだり、インターネットで料理メニューを検索できるものだった

ネットワークドアプライアンスの機器の特徴として、単純機能とネットワーク機能が融合したものであること、またそれぞれの機器が自ら協調的に作業できること、そのために共通な記述言語を有することの3点を指摘した。この共通言語はDTDを自由に決めることのできるXMLが理想的であるという。

これからの生活に不可欠になるであろうホームネットワーク。規格の制定など問題点は多いように見受けられるが、これからの研究の成果に多いに期待したい。

セミナー会場の模様。ホームネットワークというキーワードは多くの参加者を集めた
セミナー会場の模様。ホームネットワークというキーワードは多くの参加者を集めた

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