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人に優しいコミュニティーを目指して――第1回エコマネー・トーク、北海道栗山町の“くりやまエコマネー第一次実験”結果報告会より

2000年04月24日 00時00分更新

文● 船木万里

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21日、加藤敏春氏が代表を務めるエコマネー・ネットワーク事務局が、アーバンネット大手町ビルにおいて“第1回エコマネー・トーク”と題し、活動報告会を行なった。加藤氏により最近のエコマネー・ネットワークの活動が報告された後、“くりやまエコマネー研究会”の代表、長谷川誓一氏により、北海道栗山町における“くりやまエコマネー第一次実験”の結果報告が発表された。

会場風景
会場風景



エコマネーとは“互酬”のお金

エコマネー・ネットワーク事務局長、中山昌也氏の開会挨拶に続き、加藤敏春氏から事務局の活動報告が行なわれた。加藤氏は最初に「事務局は昨年5月に活動を開始したが、今年になってテレビや新聞などで頻繁に取り上げられるようになり、一般の関心も高まっている」と、ニュース番組のビデオや新聞記事を紹介した。

エコマネー・ネットワーク事務局長、中山昌也氏。「ネットワーク会員およびスタッフを切実に募集しております」
エコマネー・ネットワーク事務局長、中山昌也氏。「ネットワーク会員およびスタッフを切実に募集しております」



エコマネーとは、介護保険の対象にならないサービスなどを対象とした、市民の相互扶助システム。予め参加者は自分ができるサービス(子供の世話、老人の話し相手、パソコン指導、着物着付けなどの様々なサービス)を運営団体に登録し、エコマネーを受け取る。その後、参加者同士がサービスを取引し、サービスの報酬としてエコマネーを受け渡し、循環させていくというもの。

エコマネー・ネットワーク事務局代表を務める、加藤敏春氏。「貨幣交換システムの持つ人と人の交流促進という、基本的機能を取り戻したい」、「現実の貨幣経済とエコマネーを結び付けてしまうと信頼感がなくなるので、別の価値体系として独立したシステムにしていきたい」
エコマネー・ネットワーク事務局代表を務める、加藤敏春氏。「貨幣交換システムの持つ人と人の交流促進という、基本的機能を取り戻したい」、「現実の貨幣経済とエコマネーを結び付けてしまうと信頼感がなくなるので、別の価値体系として独立したシステムにしていきたい」



加藤氏は「エコマネーとは、人と人とを結ぶ“互酬”のお金であり、生活者自身が発行し、使い方をつくっていくもの。最終的な目的は、“エコミュニティ”の創造であり、エコマネーは人と人の関係をつくり上げるための道具にすぎません」と説明した。

ネット上でエコマネーのパビリオンも予定

エコマネーの対象となるサービス内容やシステムの詳細は運営団体が特定せず、参加者自身がつくりあげていく。事務局では、都会の市民が地方に出向いて行なう植林活動に対し、エコマネーを支払うシステムや、地元商店街と相互協力して、サービスポイントとエコマネーを連携させるプランなどによって、地域活性化にも役立てたいとしている。

2000年12月31日より2001年同日までインターネット上で行なわれるインターネット博覧会“楽網楽座”では、バーチャルリアリティーを活用したエコマネーのパビリオンも予定されている。

今後はインターネットや電子マネーシステムなどを活用し、より使いやすいネットワークづくりを目指すという。ウェブを利用すれば、膨大な資料も検索しやすいため、参加者の意見報告をリアルタイムに反映する“生きたマニュアル”なども作成していく。今回は、NTTにより試作された、インターネット上で利用できるエコマネーサービス予約システムや、事務局ホームページ内の“生きたマニュアル”のデモンストレーションが行なわれた。

NTTが試作した、ホームページ上で予約のできるエコマネー・システムのデモンストレーション
NTTが試作した、ホームページ上で予約のできるエコマネー・システムのデモンストレーション



参加者の8割近くが「次の実験にも参加したい」

次に、“北海道栗山町‘クリン’の第一次実験を終えて”と題し、くりやまエコマネー研究会代表の長谷川誓一氏が実験結果を報告。

北海道栗山町くりやまエコマネー研究会、代表の長谷川誓一氏
北海道栗山町くりやまエコマネー研究会、代表の長谷川誓一氏



栗山町では、昨年7月に加藤氏を招き、学習会を開催。9月末には、くりやまエコマネー研究会を発足させ、導入に向けての準備を進めた。今回は、人口1万5000人の栗山町内でボランティア団体などを含め、250人の参加者が集まった。研究会では、エコマネーの概念を分かりやすく参加者に伝えられるよう、ビデオを作成して説明会を実施。一般公募期間が過ぎても参加希望者が後を絶たないため、本来は2月1日~末日までの実験期間を、3月末日まで延長した。

くりやまエコマネー研究会が自主制作した、システム説明用のビデオ
くりやまエコマネー研究会が自主制作した、システム説明用のビデオ



参加者にはサービスメニュー表と交換手帳、エコマネーの通貨として“クリン”を配布し、利用したいサービスの提供者に、直接利用者が電話をかけて依頼するシステムとした。知らない人にいきなり電話依頼をしにくい、との声があったことから、期間中に“くりやまエコマネーフェスティバル”を企画し、参加者同士のコミュニケーションを促進した。

実験終了後、研究会では参加者にアンケートを実施し、実験結果を分析した。今後の課題としては、やはり電話による直接の依頼方法が利用をためらわせていることから、何らかの仲立ちを検討する必要性が指摘された。また、例えば雪かき作業や、指導などのサービスの場合、一対一よりは、お互いに複数の方が気軽に利用できる、という意見から、参加者のグループ化も検討される予定。

今回、交換手帳や紙幣裏面にサービス交換内容を記載する予定だったが、説明不足などもあり、実際は明確に記載されなかった。さらに分かりやすく、手間のかからない記録システムの必要性が指摘された。

栗山町で利用されたエコマネー紙幣『クリン』と、サービスを記録する『交換手帳』
栗山町で利用されたエコマネー紙幣『クリン』と、サービスを記録する『交換手帳』



サービス利用だけでなく、相互扶助という形態を

“サービスを利用するだけ”という立場で参加した独居老人などは、“得意料理”や“昔話語り”などの特技を持っていても、気後れなどもあって、メニューへの参加を遠慮してしまいがち。研究会側から働きかけて参加を促進したり、公園清掃など、気軽に誰もが参加できるボランティアイベントの機会を提供し、全員が相互扶助という形をつくっていけるようにすることも今後の課題の1つだという。

「今回の実験結果を通して、加藤さんのおっしゃる“エコマネーはコミュニケーションをつくるための道具である”という実感を得られたことは、大きな成果だと思います。また、今回のアンケートで、参加者の8割近くが“次回も参加したい”と意志表示をしたことは、研究会にとって大きな励みになりました。町内の小中学校でアンケートをした結果、子供たちもエコマネーには興味を持っているようです。運営団体としては、常にエコマネーが循環していくシステムをつくっていくための、核になるものを提供したい。今後、集計結果を元に課題に取り組み、よりよい形で第2回の実験を開始したいと思っています」と長谷川氏は、今回の実験が有意義な結果を得たと報告した。
 
報告会の最後には、中山事務局長が、ネットワーク会員募集や第2回トーク開催について告知した。次回は5月26日、滋賀県草津の事例報告が予定されている。

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