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【米国最新ネットビジネスレポートVol.1】クリック・アンド・モルタルでECを制するVicinity.com

2000年04月11日 00時00分更新

文● KandaNewsNetwork

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今までの店舗は、レンガ(Brick)としっくい(Mortar)で造られた建築物であったが、クリック(Click)・アンド・モルタルという新しい概念は、語韻の響きもさることながら、クリックすることによって、既存の店舗と結びつけるサービスを総称するネット上での新語として認識されはじめている。米Visinity社 (http://www.vicinity.com/ NASDAQ:VCNT)は、そんなクリック・アンド・モルタル型の代表的なビジネスモデルの企業だ。

Vicinity社屋。すでに手狭になっているようで近々に新しい場所へ移動するという
Vicinity社屋。すでに手狭になっているようで近々に新しい場所へ移動するという



Vicinityのロゴ看板。「現実の世界へナビゲート」がキーワードのようだ
Vicinityのロゴ看板。「現実の世界へナビゲート」がキーワードのようだ



シリコンバレーのパロアルトに本社を置くVicinityの創立は'95年、米CMGI社、米Oak Investment Partners社、米21st Century Internet and the Encompass Group社らの出資を得て創設された。今年の2月にNASDAQにIPO(新規株式公開)したばかりの企業である。CEOのエメリック・ウッズ(Emerick Woods)氏は、インターネットを使ったドライバーソフトウェアのアップデートなどのサービスを提供する米TuneUp.com社(現在は米シマンテック社が買収)のCEOを務めた後、Vicinity社を創業した。すでに、Yahoo!らが先行する地図情報サービスを手がけていたが、Vicinityは、広告モデルではなく、それらをB2B(企業対企業)でマーケティング情報を得るビジネスモデルとして打ちだした。

コンセプトを解説するCEOのエメリック・ウッズ氏
コンセプトを解説するCEOのエメリック・ウッズ氏



Vicinityのウェブサイト。B2Bを意識したサイトづくり。アニメーションなども交えてサービスの事例を紹介する
Vicinityのウェブサイト。B2Bを意識したサイトづくり。アニメーションなども交えてサービスの事例を紹介する



それは、企業への実在店舗のジオグラフィック(地理)データとのマッチング、在庫データベース、そしてユーザーのトラッキング(追跡)情報などをフィードバックするビジネスモデルである。

'96年に初のクライアントであるトヨタ自動車の北米ディーラー網を獲得し、それに付随して、フォードモーターがコンタクトを取り、北米でのサービスを開始した。これは強力なクライアントが1社でも活用すれば、バーティカルなマーケット(ある特定の業種における市場)を創造できる事を物語っている。これが後の彼らのビジネスの特徴となる。それを証拠にVicinityのクライアントには、大手のコンシューマー企業が一気にラインナップされるようになった。ナイキ、リーバイス、スターバックス、ケンタッキーフライドチキン、マクドナルド、J.C.Penney、Taco Bell、マリオットホテル、フェデラル・エクスプレス、GAP、Nordstrom……。

これらの企業を獲得できた理由を聞くと「企業にとって、各店舗のロケーションの認知をエンドユーザーに対して、あらゆる手段を駆使して行なってきたが、エンドユーザーの行動に応じた展開はなされていなかった。しかし、Vicintiyのサービスでは、それらのエンドユーザーの行動に基づいた情報提供が可能なツールを、幾重にも用意したからだろう」とCEOのエメリック・ウッズ氏は答える。

日本でも、いくつもネット上での地図情報を提供している企業があるが、大手との提携という面ではまだまだ未熟な市場といわざるを得ないだろう。

Vicinityのビジネスモデルのイメージ図
Vicinityのビジネスモデルのイメージ図



クライアントの多くが、Vicinityの提供するインフラにより自社のチェーンやフランチャイズの情報、中には在庫情報まで公開することにより、より多くの販売機会創出に役立てている。アメリカでは、実際に日本ほど小売店でのきめの細やかなサービスが期待できないから、逆にそれをカバーする形でシステムやネットが進化したといえるだろう。今までローカルな店舗を1-800番(米国のフリーダイヤル)で24時間、伝えようとしてもそれだけで膨大な人件費がかさむ、さらに場所をディレクションしようとすると気の遠くなるほどの説明が必要となる。


マクドナルドのウェブサイトで使用されているVicinityのサービス。1回使用ごとの課金から年間契約など、さまざまな形態で大企業に地図のエンジンをカスタマイズしている (クリックすると拡大表示します)

たとえば、マクドナルド(http://www.mcdonalds.com/)のサイトに行ってみればそのサービスがわかる。トップページの左下に用意されている“Restaurant Locator”アイコンにマウスカーソルを当ててURLを見ていただきたい。ここからはVicinityが提供するサービスである。自分の今いる場所を入力することにより、最寄のマクドナルドを表示したり、そこまでの距離や時間、道路のナビゲーションまでがある。そう、Vicinityはこれらの地図情報に付随するサービスを提供している企業なのだ。

これは企業へのカスタマイズであるが、Vicintiyのサービスには、地図情報を提供するポータルサイト、“MapBlast.com”http://www.mapblast.com/ がある。こちらは、地図やドライブ、さらにPalmやWindows CE機といった携帯情報端末へのダウンロードサービスが用意されている。VicinityのB2Bサービスを利用することにより、こちらへの情報提供も可能となっている。

そして、今年はさらにワイヤレスでのサービスの展開を開始した。彼らのビジネスを今後、支えていくのが、インターネット対応のウェブデバイスである。'98年のインターネット対応デバイス数は1050万台であった。しかし、2002年には1億5080万台に達すると想定されている(IDC調査)。すでに、米Palm社との提携もできており、無線ウェブ端末でもある『Palm VII』などとの連携も可能となっている。さらにインターネットでショップを展開する米shopping.comや、携帯電話ユーザーへインターネットサービスを提供する米Phone.com社らとの提携により、さらに日々、クリック・アンド・モルタルのサービス力を強めている。

Palm VIIで提供されているPocket MapBlastPalm VIIで提供されているPocket MapBlast



Eコマースのコンサルティングや調査を行なっている米Jupiter Communications社によれば、オンライン人口の74パーセントが実際にオンラインで物品やサービスを調査し検討しているが、オンラインでの実際での購買率は20パーセント以下とリポートしている。また、'98年の全米での小売マーケットのうち、純粋なEコマースによる小売販売は1パーセントであり、2004年になってもまだ7パーセントにすぎないといわれている。それだけ、実際の店舗を核としたクリック・アンド・モルタル型のサービスの市場は拡大していくと考えられる。既存店舗の効率をインターネットで高めるビジネスともいえよう。

「既存の電話帳、テレビ、DM、チラシ、さまざまなメディアによって、私たちはブランドを認識したり、製品やサービスを購入する時の判断の手がかりにしてきました。しかし、それらのメディアにインターネット上で実際の地図の場所と電話、そしてウェブがブラウズできる端末を媒体として、お知らせしようと我々は考えているのです。今まで不可能であった、消費体験をVicinityは提供することが可能になりました。たとえば、“リーバイスのジーンズの501の33インチが2本欲しい”などの要求にも地図と店舗在庫のデータと共に提供できるのです。それをドライブ中に電話で確認することができるのです。

さらに顧客のパーミッションを得ているのであれば、*オプト・イン・メールで特別割引のお知らせを利用していただくことができます。また、地図上で表示されるため、ドライブマップに表示された関連サービスも同時に購入するなどの連鎖効果も見込めることでしょう。一番近いスターバックスの店舗がどこにあり、何時まで営業しているのか、それらが携帯電話やPalmなどのコンピューター以外のデバイスからでも利用することができるのです。近い将来、携帯電話の割引のテキストを見せると割引になるなどのサービスも可能となるでしょう。さらに米国にとどまらず、ヨーロッパでの展開も果たしているので、世界をこのビジネスモデルで席巻していきたい」とウッズ氏は語る。

*オプト・イン・メール:いわゆる“スパムメール”と逆の概念で、あらかじめユーザーに受け取り許可を得た上で送る広告型のメールを指す。

Vicinityのメンバーたち
Vicinityのメンバーたち



日本への進出は? の問いに対しては、「ヨーロッパ圏内での現地言語でのサービスもすでに、14ヵ国、10ヵ国語に及んでいるので、日本といわず、アジア全体を大きなマーケットとしてにらんでいます。近い将来、日本の企業そしてエンドユーザーの皆さんにもVicinityの目指すクリック・アンド・モルタルを実感できる日が訪れることでしょう」と答えた。

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