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新生アステックグループ誕生!“共創”していくことで、ビジネスを展開したい――持ち株会社へと移行したアステック、木下仁氏に訊く

2000年04月10日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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オープンシステムのパッケージソフトの企画・開発・販売から、システムインテグレーション、インターネット関連事業までを手掛けている(株)アステック。同社は、グループ企業を再編し、4月4日、持ち株会社へと移行した。大企業が合併をするときに持ち株会社に移行するというケースはよくみられる。しかし、未公開企業の場合にはきわめてレアなケースである。今回、新生アステックグループとして生まれ変わったアステックとグループ会社のビジネス戦略について、アステックの代表取締役社長、木下仁氏に訊いた。

――まず、アステックと3つの事業会社の構成について教えて下さい

「今回、(株)アステック・プロダクツ(代表取締役社長、寺井隆氏、資本金1000万円)、(株)アステック・ネットワークソリューションズ(代表取締役社長、中島達也氏、資本金1億円)、(株)アステック・eコマース(代表取締役社長、増田亨氏、資本金1000万円)という3つの会社を作りました。(株)アステック自体(代表取締役社長、木下仁氏、資本金5000万円)は持ち株会社となり、基本的には事業を行ないません」

「アステック・プロダクツという会社はパッケージソフトの販売と開発を、アステック・ネットワークソリューションズではネットワークインフラの提供サービスを、アステック・eコマースはECのシステム構築を行ないます。アステックグループ全体のミッションとしては、技術力に裏打ちされたプロフェッショナル集団として、いわゆる“ソリューション”を提供できるグループになっていこう、ということです」

持ち株会社へと移行したアステックの代表取締役社長、木下仁氏
持ち株会社へと移行したアステックの代表取締役社長、木下仁氏



持ち株会社がトップではなく、対等な立場でパートナーとして

――アステック本体の機能はどうのように?

「アステックでは、アーリーステージの事業に対して、ビジネスとして成り立つかどうかを見極めその目処がついたら、すぐに新しい事業会社に興すという戦略を取る。利益はグループ会社から上がってくるそれぞれの配当になります。従って、持ち株会社であるアステックにかせられた使命は、ビジョンを明確にして、具体的にそれを実行することにある。ただし、それぞれの会社に対する人事権を持つとか、給与を決めるとか、持ち株会社が命令系統を持って、細かいところまで事業会社に対して締めつけるようなことをする気はありません」

――アステックを持ち株会社にした動機は?

「再編する前に、アステックの100パーセントの子会社として、インターネット・ソリューションズという会社がありました。そのときは、アステックは“プロダクト事業”をメーンに、インターネット・ソリューションズでは“ソリューション”をメーンに担当していた。よくある親会社と事業子会社という関係です。しかし、それはちょっとおかしいと思った」

「どうしてもアステックのほうが“主たる事業”になり、インターネット・ソリューションズのほうが“従たる事業”に見えてしまう。実際に社員もそう思ってしまうし、会社としても親子という考え方になります。しかし、本来事業に主従というものはなくて、それぞれが主たるものとしてやってもらわなくては困る。そう考えていくと、これは構造がおかしいからだと感じた」

――未公開企業で、持株会社というのはきわめてレアケースであると思いますが

「小さな会社で社長ばかり作ってどうするの? というような話もあります。私は“歌舞伎町状態”と言っているのですが。社長、社長、みんな周りが社長さんという(笑)。しかし、持ち株会社ということについては、あまり意識していない。我々にとってやりやすいから、こういう形態にしているだけです。最近、持ち株会社ということが騒がれていますが、器は同じでも中の魂の入れ方、考え方はそれぞれ違う」

「選択肢をたくさん用意できるようにしたい。それぞれの価値観が多様にあってね。日本というのは、どうしても1つのバスにみんなで乗ろうよ、みんな乗るからあのバスが良いバスだ、みたいなところがある。考え方、価値観から行動に至るまでそうです。だから、美味しいものがあると、みんなでバーっと食いついてあとは何も残らない。それで良いのかといったら、やはり良くないわけですよ。世の中、もっといろいろなチョイスがあって、自分で考えて判断して決めていかなければならない」

「それじゃ、今やっていることと、それがどの様につながるかというと、けっこうつながっていると思っています。今回の事業モデルも、持ち株会社がトップにあるというわけではなくて、それぞれがお互いに対等な立場でパートナーとしてというモデルです。そのベースにあるのが信頼感だったり、共感だったり。同じ価値感を持つ仲間だけれど、それぞれの考え方を尊重しあえることを理想としている」

「我々の世界では予定調和の世界ではありません。時間どおりに電車を走らせるという与えられたミッションがあるとしたら、かっちりと、どの様なことをやるかが決まるわけです。しかし世の中の仕組みは、サッカー型というか、一番近いところにいる人間がボールを誰かに渡さなければならないというモデルに変わってきている。とてもダイナミックなものです。その都度、目的に戻りながら手段を考えていくという行動パターンを持って、自分たちで動く必要がある」

「みんな乗るからと言ってそのバスが良いバスだ、とは限らない」。多様な価値観の中で、自らの行動を決定する必要性を説く木下氏
「みんな乗るからと言ってそのバスが良いバスだ、とは限らない」。多様な価値観の中で、自らの行動を決定する必要性を説く木下氏



アライアンスを組みやすくするために、事業領域と役割を明確化

――子会社をまとめて1つの会社にするという選択もあったと思いますが、あえてそうしなかった理由は?

「なぜかというと、今までの日本の大企業は何か面白い事業があると、始めのうちだけベンチャーにやらせて、あとはおいしいところを取ってしまう、そういうビジネスモデルだった。しかし、これでは他社とは協業できない。パートナーとしては、“自分の領域以外は決してやりません”ということを明確に打ち出し、その特定分野ではどの会社よりも強みを発揮するという形にしたい」

「この再編は、各会社の事業領域と役割を明確化にして、それぞれの会社が本業しかやらないというメッセージでもあるのです。それしかやらないというと、ちょっとネガティブなイメージになりますが、それぞれの会社がとにかく本業に注力していくことです。たとえ事業がうまくいかなくなったとしても、その会社が新たに別のことをやる、会社の性格を変えるということはありません」

「そうすることによって、グループ内だけではなく、ほかの会社とのアライアンスも組みやすくなる。全体の組織としては、いろいろな抜けがあってもいい。全部やろうというのではなくて、あるところに特化した会社をたくさん作っていきます。今も協業していますが、今後は他社と一緒にジョイントベンチャーを作るということも多くなると思います」

――事業領域を明確化することで、逆にそれが弊害になることはありませんか? たとえば、eコマースとネットワークソリューションズの分野で重なり合う部分もあるかと思いますが。分野によっては事業を切り分けられない場合はどうするのでしょうか?

「確かに、一部ありますね。今後、発展して成長する中で、そういうことは当然あるかも知れない。しかし、今はまだ重なっていない。アプリケーションの絡む部分、たとえばECのシステム構築という案件ならeコマースですよね。ネットワークの全体の設計、運用、保守、バックボーンなどのインフラなどの分野はネットワークソリューションズがやります。そこで重なり合ってきたときには整理していきたいと思っています。その際は、こちら(アステック)で勝手にやろうというのではなく、グループ全体としてどうするか、事業領域を絞り込んでいく。まあ、実際にそうなるのは事業が発展した証でもあるので、とてもうれしいことです。我々にとってはWELLCOME(笑)」

――アライアンスが組みやすくなったということですが、具体的にどのような会社と手を組んでいるのでしょうか?

「ソフトバンクテクノロジーと“ブロードバンド・テクノロジー”という会社を作りました。ほかにも2社ほど話が進んでいます。こういうモデルを導入しているので、アライアンスの話はたくさん出てきている。アステックと提携するというより、事業会社のどこかとやりたいという話になる。それではアステックがそこに出資しますと。迅速に手を組めるということがポイントになります。組織を変更して、想像以上に取引先のお客様からの話が増えてきました。これからは、全体としての広がりをどうするか、求心力をどうするか? という問題が課題となってくる」

「今後は他社と一緒にジョイントベンチャーを作るということも多くなる」
「今後は他社と一緒にジョイントベンチャーを作るということも多くなる」



顧客マインドシェア100パーセントをめざしてブランド化

――グループ事業全体の広がりについて、各分野でどのようにしていこうと?

「eコマースの分野では、ECに社運を賭けている会社と手を組んで仕事をしています。ソフトバンクグループのeショッピングに関しては発表していますが、それ以外にも有力なECサイトのシステム構築を手掛けている。近いうちに新しい発表があると思いますよ」

「ソリューションについては、自分のクライアントが誰であり、そのクライアントが何を求めているかを洞察し、いろいろなリソースをふんだんに提供していく。マーケットシェアばかりではなくて、我々の製品が圧倒的に優れているということを実感してもらう。つまり“顧客マインドシェア100パーセントをめざす”ということです。総合的にアステックのサポートや対応が良かったとか、製品コンセプセプトが評価されるとか、そういうことで会社全体として評価されていく。それがブランドにつながる」

「プロダクト分野に関しては、『ASTEC-X』というPC-Xサーバーソフトウェアがありますが、これはマーケットシェアでナンバー1になっています。今まではミドルウェア的なものが中心だったが、これはそのまま継続していき、ネットワーク関連ソフト分野も展開していきます。現在開発しているのはアプリケーションレベルでプロトコルをチェックできる“ネットワーク監視ツール関連ソフト”。今後、こういった分野がかなり注力すべき対象になります」

――ネットワーク以外のプロダクツはどうですか?

「広げていきたいですね。特にECのシステム構築のためのツール類というのは、資産がかなりたまっていきている。そういったものをパッケージにするか、サービスにするか、ビジネスモデルは今後の考えようですが・・・・・・。今までは何千万円から何億円というお金を掛けてサイトを構築する顧客が中心だった。そういう会社では完全に自分たちでモデルを作ってシステムの仕様を決めていく。しかし、コンテンツが勝負であって、システムはあるものを使えばいい、という顧客もたくさんいます。このような分野は、次の対象としてどう展開するか考えているところです。面白い分野だと思います」

――最後になりますが、今後の展開について教えてください

「eコマースの展開はもちろんですが、もっと事業計画、ビジネスモデルのデザインまで深く入り込んでいく必要があると思います。共同事業という形もあるが、違う形での出方も考えなければならない。eコマースのシステム構築については、より協業に近い形です。ネットワークソリューションについても、ある意味ではそれに近い。顧客のネットワークを全部集めているわけですから。顧客側から見たら人質にとられているようなものですよね。ですから、もっと顧客に密着した形で展開していく必要がある」

「あとは広帯ネットワークにおけるいろいろな技術支援、ブロードバンドテクノロシーが次の重要な課題になると思います。プロダクト関連は、ネットワーク製品をさらに自律発生的できる製品を出していく。全体としては、お客さんと“共創”していくことで、ビジネスを展開したい。IPネットワークが、いろいろな形で社会に貢献していく、それを支援していく技術的な企業でありたいというのが根幹です」

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